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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第二章 誰も知らない必然
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罪業 2

「どういう状況だよ、これ……」


 港まで辿り着いた龍太たちは、そこで繰り広げられる光景に唖然とした。

 船やコンテナ、建物などは無惨に破壊され、コンクリートの地面には炎が燃えている。その中で立つのは、キャスケット帽を被った少女。旅の仲間でもあるヒスイだ。

 しかしその向かいには、丈瑠とアーサーが警戒して立っていた。

 まるで、敵対しているように。


「あれは、クラーケン⁉︎」

「伝説上の魔物じゃないか!」


 海の上では、巨大なイカの魔物と朱音が戦っていた。自在に宙を飛び回る朱音は、魔物を翻弄し触腕を既に何本か斬り落としている。

 例え伝説に出てくる魔物だろうと、あちらは心配いらないだろうけど。ヒスイたちはなにをやっているのか。


「ヒスイ!」

「リュウタさん……来ちゃったんですね」


 悲しそうな表情で顔を伏せるヒスイ。

 一体なにがあった? どうして丈瑠とアーサーは、彼女に敵意を向けている?


「龍太くん、来たらダメだ!」

「遅いですよ」


 伏せられていた顔が、龍太たち三人へ向けられる。その目にはなにかの紋様が浮かんでおり、視線がぶつかった瞬間、全く身動き出来なくなった。

 指先一つ動かない。声を出せことさえ叶わない。視線も固定されたままで、丈瑠が躊躇いもなく発砲する様を見ていることしかできなかった。


「魔眼を解くんだ、ヒスイ。今ならまだ取り返しがつく」

「まだそんな甘いことを言うんですか? あたしは敵、スペリオルのスパイだったんですよ。みなさんを裏切ったんです」


 驚愕は、声になってくれない。

 まさかの告白に頭の中が真っ白になって、ヒスイの言葉を正常に理解できない。


 スペリオルのスパイ? どうしてそんなことに。いつからだ? まさか最初から? いやでも、それだとノウムの魔導師ギルドでのことはいくつか説明がつかない。


 とにかく話を聞かないと。でも声が出ない。仲間の元に駆け寄ることもできない。

 なぜか。

 ヒスイの魔眼に、動きを止められているからだ。


 その事実こそ、なによりの証拠となってしまっているじゃないか。


「リュウタさんも、白龍様も、ジンさんも、そこでジッとしていてください。すぐに終わりますから」

「終わる、っていうのはどういうことかな? まさか、僕たち相手にどうにかできるとでも?」

「アカネさんならまだしも、タケルさんとアーサーだけならあたしでも勝てますよ」


 よほど自信があるのか、ヒスイは不敵に笑ってみせる。

 丈瑠とアーサーの強さは、龍太もよく知っている。たしかに朱音には及ばないのだろうけど、それでも丈瑠は一流の魔導師だし、アーサーは聖獣と勘違いされるほどの力がある。ヒスイだって、それはわかっているはず。


 わかった上でそう言うということは、自信を裏付けるなにかしらの力を持っているとみるべきだろう。


 まさに一触即発。

 つい数時間前まで仲間同士だった二人が、互いに敵意をぶつけ合う。


 こんなことは間違っている。ヒスイが裏切ったのだって、なにかわけがあるはずだ。朱音の時のように、話をすれば。

 そうは思っても、今の龍太は声を出すことすら叶わない。今すぐに駆け出して二人を止めたくても、足は地面に縫い付けられているみたいだ。


 緊張の糸が張り詰め、今にも激突しそうなヒスイと丈瑠、アーサー。

 しかしその緊張は長く保たず、海上からの爆発音で二人と一匹はハッと振り向いた。

 同時に、龍太たちの束縛が解け体の自由を取り戻す。


「こっちの世界のクラーケンって以外と手強いんだね、私の足止めに投入するだけはあるよ」

「朱音さん!」

「そんな……クラーケンをこんな簡単に倒すなんて……」


 瞳をオレンジに輝かせた朱音は、クラーケンから斬り落とした大きな触腕の先っぽを抱えている。なにに使うつもりなんだ。


「で、ここからどうするつもりなのかな、ヒスイ。戦うって言うなら容赦はしないけど」

「待ってくれ朱音さん!」


 鋭い眼光がヒスイを射抜く。抜き放たれた刀は、彼女の命を容易く奪ってしまうことだろう。

 そんな展開は認められるわけがない。ヒスイを庇うように割って入り、朱音の視線を正面から受け止める。


「まずは話を聞くべきだ! ヒスイは仲間だったんだぞ⁉︎」

「よく分かってるじゃん、龍太くん。そう、仲間()()()。なら今は?」

「……ッ!」


 敵だ。

 認めたくない。認めるわけにはいかない。

 でも事実として、ヒスイはスペリオルとしてここに立ち、龍太自身の言葉で口にしてしまった。


「それでもっ、だとしても! こうなった理由を聞けば、戦わなくて済むかもしれないだろ!」


 ヒスイはスペリオルのスパイだ。それはもう、動かしようのない事実。なら倒すべき敵であり、ここで捕まえて情報を吐かせるのが正しいのだろう。


 でもそれは、正しいだけだ。

 正義とは呼べない。


「甘いですね、リュウタさん……」

「ヒスイ……」


 どこか悲しそうな、寂しそうな声に振り返る。まるで迷子のようだ。あの時の朱音にも似ている。

 だからきっと、話し合ってその手を引いてやれば。


 ドンッ、と。腹に衝撃が。

 視線を下ろした先には、ナイフが突き刺さっていて。

 赤が広がり、服を汚す。


「なん、で……っ」

「アカネさんの言う通り、あたしは敵なんですよ?」

「リュータ!」


 膝から崩れ落ちた龍太は、泣き笑いのような表情のヒスイを見上げる。

 ハクアが駆け寄ってきて、朱音がすぐさま治癒の魔法陣を展開した。アーサーが雷速でヒスイへの距離を詰めるが、振るわれた爪は空振りに終わる。キャスケット帽の少女はその姿をもやのように消し、少し離れた位置に再び現れた。


「リュータ、しっかりして!」

「だい、じょうぶ、だから……それより、ヒスイをッ……」


 瞳に先程とはまた違う紋様を浮かべ、ヒスイは感情を殺した顔で倒れた龍太を見つめている。その視線を遮るようにジンと丈瑠が立ち、朱音は治癒の魔法陣により一層の魔力を込めた。


「複数の魔眼持ちか。戦えないというのは嘘だったようだな、ヒスイ」

「素直に信じてくれて助かってましたよ、ジンさん。龍具を持たないあなたは恐るるに足りません」

「耳が痛いな。こんなことなら、鎧のメンテナンスを切り上げておくんだった」


 紋様が切り替わる。ヒスイの目が赤く輝く。途端、ジンの立っている場所が爆炎に包まれた。だが大剣でそれを防いだジンは、鎧のあちこちを焦がしながらも敵へと駆ける。


「ふんっ!」

「相変わらずの筋肉バカ。クレナさんの苦労が分かりますね」


 振り下ろした大剣は身軽にかわされ、コンクリートの地面に激しくぶつかる。そのまま回し蹴りがジンの腹に突き刺さり、大きく後ろへ吹き飛ばされた。

 瓦礫と化したコンテナにぶつかり、鎧は蹴りを受けたところが砕けている。


「ジン!」

「問題ない!」


 ドラゴン、人外ゆえの身体能力。

 ハクアと同じで、ヒスイだってドラゴンだ。なんの魔術を使わずとも、パワーもスピードも人間とは比べ物にならない。

 華奢なヒスイでも、巨漢のジンを蹴り飛ばせるほどのパワーを持っている。


「ったく、中途半端な術式にしてくれちゃって……! 幻想魔眼の対策が早すぎる!」


 治癒の魔術を掛け続けてくれている朱音が、忌々しげに呟いた。

 だが、龍太にはその言葉の意味はいまいち理解できない。流れる血は止まったが、傷口はなおも痛む。視界はだんだんとぼやけだして、手を握ってくれるハクアの感触だけが、龍太の意識を繋ぎ止めていた。


「丈瑠さん、ここは退きましょう!」

「龍太くんの治療が最優先か……分かった」

「逃しません。リュウタさんの身柄だけでも渡してもらいます」


 紋様を浮かべたヒスイの瞳が、倒れた龍太に向けられる。だが朱音のオレンジの瞳もヒスイへと向けられ、互いの間で不可視のエネルギーがぶつかりあった。

 衝撃の余波が散り、強い風が吹く。ヒスイが顔を庇ったその隙に、丈瑠が懐から取り出した札を投げた。


「十二天将、後六、天空の力をここに! 土神凶将、欺殆不信(ぎたいとふしん)を主る力の象徴!」


 詠唱を紡ぎ、辺りに霧が出現する。あっという間に目の前が見えないほど濃くなり、魔眼使いにとって致命的な、視界を奪うことに成功した。


「朱音、どこに逃げる?」

「ひとまず騎士団の詰所に。あそこなら龍太くんの治療もちゃんと出来るはずですので。転移は任せます」

「了解、任された」


 霧の中でそんな会話を聞いたのを最後に、龍太は意識を失った。



 ◆



「すみません、ハルトさん。ご迷惑をおかけします」

「いや、迷惑なんてとんでもない。友人の力になれるなら、この程度どうってことはないさ。それに、助けられてるのはこちらだからね」

「ハルトも朱音に迷惑をかけられるのは慣れたんじゃない?」

「ちょっ、どう言う意味ですか丈瑠さん!」


 ぼんやりとした意識の中、そんな話し声が聞こえて来た。視界に飛び込んできたのは知らない部屋の知らない天井。そこに、純白の少女が映り込む。


「ハクア……?」

「リュータ、良かった……」


 心底から安堵の息を吐き出したハクアは、力が抜けたように椅子に座り込んだ。

 状況が分からない。未だ覚醒しきっていない脳では、気を失う前の記憶も曖昧だ。ここはどこなのか、と訊ねようとして、腹部に走る痛みで意識が完全に覚醒する。


 そうだ、港でヒスイに刺されたんだ。

 スペリオルのスパイとして旅の仲間に加わり、ずっとこちらの情報を横流ししていたあのドラゴンの少女に。


「傷はどうだ、リュウタ」

「ジン……お前、鎧は?」

「ヒスイに破壊されてしまってな」


 ハクアに介抱されながら上半身を起き上がらせ、いつもの鎧を着ていないジンに首を傾げる。

 どうやらヒスイとの戦闘で、結構致命的な壊れ方をしてしまったらしい。着ているのは普通のポロシャツで、普段は鎧に隠れている彼の筋肉が露わとなっていた。


「そうだ、ヒスイは? あの後どうなったんだ⁉︎」


 部屋を見渡しても、当然彼女の姿はない。

 彼女の悲しそうな、寂しそうな、迷子のような顔が、頭から離れない。裏切られたという事実にショックは受けたが、それでも龍太は、その裏に何か事情が隠されているのではないかと考える。


 あるいは、そう考えることで己の心を守っているだけなのかもしれないけど。


「落ち着いて、龍太くん。残念ながら、状況はなにも変わってないんだ」


 見知らぬ青年と朱音の三人で話していた丈瑠が、冷静な口調で話す。

 どうやら龍太が気を失った直後、転移であの場を離脱したらしい。だからヒスイが今どこにいるのかも分からず、津波も朱音の銀炎で止めたままだそうだ。


 だがいくつか、悪い知らせがある。


「あの津波、レヴィアタンのスカーデッドが作り出したものみたいでね。私の炎でも動きを止めるのが精一杯」

「朱音さんの炎でも……」

「時界がねじれてるんだよ。だから下手に干渉できない。レヴィアタンって名前は元々、ねじれた、とか渦を巻いた、って言葉が語源だから」


 しかし、先程はそのレヴィアタンの姿を見なかった。あそこにいたのはヒスイだけだ。どうやら彼女ひとりだけで龍太たち全員を相手にするつもりだったようだが、朱音の幻想魔眼により彼女の作戦は潰えた。

 だからといって、これで終わりとは思えない。またなにか仕掛けてくるはず。


「それと君の傷だけど、治したのは私じゃないんだ」

「え、じゃあ誰が?」


 朱音が振り返り、その先には先程彼女と丈瑠と三人で話していた青年が。

 プラチナブロンドの髪と整った顔立ちは爽やかな印象を与え、どこかの制服のような、身なりをしている。


「初めまして、アカギリュウタくん。私はセゼルの騎士隊長、ハルト・クローバーだ。君のことは、友人たちから聞いているよ」

「もしかして、ハルトさんが俺の傷を?」

「ああ、治療の魔術は得意でね。アリス様直々に鍛えられたから、腕の方は保証できるよ」


 龍の巫女に鍛えられたと聞けば、魔術の腕はそれだけで信頼できる。

 頭を下げて礼を言い、そう言えばと今更なことを聞いた。


「ここ、どこっすか?」

「騎士団の詰所よ。ハルトにリュータの治療をしてもらうのもあったけれど、ここなら色々と都合がいいの」


 よくよく耳を澄ませてみれば、部屋の外からは足音や声が聞こえてくる。まだあの津波の脅威は去ったわけではない。住民たちの避難も完全に完了したわけではないのだろうし、スペリオルはまだどこかに潜んでいる。


「それに、今は領主もここにいるからな。兄上とは連携を取るべきだ」

「レッドさんが、ここに……」


 つい視線を向けてしまった先の朱音は、それを受けてこてりと首を傾げる。なんだかその様は常より幼く見えた。


 朱音は知らないはずだ。レッドとクレナの関係を、レッドが己へ向ける復讐心を。

 果たして、会わせてもいいものなのか。いや、朱音の性格から考えると、レッドの想いを否定することはないだろう。だがだからと言って、素直にはいそうですかと彼の復讐を受け入れることもないはずだ。


「兄上との話し合いには、代表して俺が行こう。皆は休んでいてくれ」

「じゃあ私たちは、津波の様子でも見てくるよ。ついでに街を巡回してくる。レヴィアタンを見つけたら殺しとくね」


 軽く言ってのけ、朱音は丈瑠とアーサーを伴い部屋を出た。ハルトも仕事が山積みらしく、ふたりと一匹に続いて退室する。


「リュータ、本当に体はもう大丈夫なの?」

「大丈夫だって。ハルトさんの腕が良いおかげだ」

「しかし、無理は禁物だぞ。内臓も傷ついていたし、血もそれなりに流していた。戦闘は控えるべきだろうな」


 そうも言っていられないのは、ジンだって分かっているだろうに。だが、彼は本気で龍太を前線に出したくないと思っている。

 そんな仲間思いの優しいジンに、どうしてもひとつ、聞いておきたいことがあった。


「なあジン。クレナがノウムに戻ったのは、ジンのせいだって言ったよな? それ、どういう意味だったんだ?」

「……難しい話じゃあない。俺が、駄々をこねただけだよ」


 遠い目をして皮肉げに口を歪める。自嘲の念がたっぷりに込められた笑みは、見ていて痛ましいほど。


「クレナがノウムに召還されると聞いた俺は、一緒について行くと言って聞かなかった。いつか龍の巫女に仕え、魔導師ギルドの一員として戦うのが夢だったからな。リュウタ風に言い換えれば、俺もなりたかったんだよ、正義のヒーローに」


 世界のために戦う龍の巫女。そして、その巫女たちに仕えるギルドの魔導師。

 たしかにそれは、正義のヒーローと呼べるだろう。ジンも龍太と同じく、それを志していた。


「だから、チャンスだと思ったんだ。俺もようやく、ギルドの一員として戦えるチャンスだと」

「それでクレナに頼み込んだ、ということ?」

「兄上に言っても、聞く耳を持たないからな。クレナからは条件を出されてしまったが、それもクリアした」

「条件?」

「彼女の龍具を使いこなすことだ」


 強大な力を持ったドラゴンが手ずから作り、己の力を込めた魔導具。それが龍具。

 朱音の持つ大型拳銃や、ハクアのライフル、龍太の剣がそれに該当する。


 条件に出されるということは、クレナの龍具を使いこなすのは難しいのだろう。実際これまで、何度かその龍具の話は出ていた。

 その時の話ぶりからしても、相当に強力な龍具であることは察せられる。


「クレナはホウライ直属のドラゴンだものね。龍の中でもかなり強い方に入ると思う。そんな彼女の龍具なら、相応の力があるはずよ」

「ああ。実際に当時の俺は、完全に使いこなせていたわけじゃあなかった。起動させるだけでも精一杯、一割も発揮できていなかったよ」

「使いこなせなかったのか?」


 頷くジンだが、しかし現在の彼は魔導師ギルドに所属している。これまで聞いた話を統括しても、ジンがギルドに所属したのはその頃と考えて然るべきだ。


「一ヶ月ほど猶予があってな。死に物狂いで鍛え、使いこなすとまでは行かずともなんとか扱えるようにはなったんだ。クレナもそれで条件達成ということにしてくれて、俺は彼女と共にクローディア様の元へ向かった」

「でも、あなたのお兄さんは快く思わなかった」

「当然だろう。婚約者が出来の悪い弟とノウムにまで行ったんだ。その上こうして、大怪我までさせてしまった。元々不仲ではあったが、徹底的に嫌われてしまうには十分だ」


 肩を落としているのを見るに、ジンだって後悔しているのだろう。あの時、クレナを置き去りにしたことや、兄との関係などを。


 クレナの件は仕方なかった。魔導師である以上、本人たちは覚悟の上だ。パートナーであるジンだってそう。

 でも、ただ送り出しただけのレッドはそうもいかない。残された者は安全を祈ることしかできず、それでも結果、婚約者は大怪我を負った。


 渋っていたクレナを、ジンが連れ出してしまったせいで。


「兄上には、逸る真似をしないように俺から釘を刺しておこう。スペリオルのこともあるからな、アカネとすぐにことを構えようとは思わないはずだ」

「だったらいいのだけれど」

「では、俺も少し出てくる。リュウタ、くれぐれも安静にしているんだぞ」


 ついでに龍太にも釘を刺して、ジンも部屋を出て行った。

 ハクアとエルだけが残り、自然と肩の力が抜ける。弱々しいため息を吐いて、ぽつりと、言葉が漏れてしまった。


「……俺のやったことは、まちがってたのかな」

「リュータ……」


 ヒスイには、なにか事情があるはずだ。

 だから戦わずとも、話をすれば和解できるはず。殺すなんて以ての外。

 だって、ここまで一緒に旅をして来た仲間じゃないか。


 こうして刺されて怪我を負った今も、龍太はまだ、ヒスイを信じたいと思っている。


「まちがいなんかじゃないわ」


 ベッドに腰を下ろしたハクアが、そっと寄り添ってくれる。感じる体温が暖かくて、包み込むような優しい言葉が紡がれた。


「たしかに、アカネたちも間違っていたわけではないけれど。それでもわたしは、リュータもまちがっていないと思う。だってあなたは、自分が正しいと信じたことをしたのでしょう?」

「ああ……」

「それでいいのよ。あなたは正義のヒーローなんだから。仲間のことは、最後まで信じなくちゃ」


 同意を示すように、きゅーとエルが鳴く。

 柔らかな笑みに見つめられて、龍太は決意を新たにした。


 俺は、正義のヒーローになるんだ。

 だから最後まで仲間を信じる。朱音も丈瑠もアーサーも、ジンも、ヒスイのことも。


「ありがとう、ハクア」


 手を取り握れば、ほんの少し驚いた顔が。でもすぐ嬉しそうに微笑んで、自分からやったのに照れ臭くなってしまった。


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