遺された足跡 1
ドラグニア神聖王国は、世界最大最強の国だ。これは龍太もこの世界に来てから、何度となく聞かされた話。では具体的に、どれくらい大きくてどれくらい強いのか。
この世界で最大規模の大陸である中央大陸の、約四割を占めるほどに広大な領地。
人間とドラゴンの共存が世界一進んでいることによる、両種族混成の軍。
魔導科学の研究のために世界各国から研究者が集まり、中でもアリス・ニライカナイの担当している魔導兵器は、ドラグニアが常に最先端を走っている。
観光業ではノウム連邦が、海上輸送や漁業などならローグが先を行くようだが、魔導科学全盛のこの時代において、ドラグニアは間違いなく最大最強と呼ぶべき国だ。
さて、現在の赤城龍太にとって中でも重要な情報は、ドラグニアの広大な領土である。
ローグ行きを蒼から言い渡された翌日の朝。出立の準備も終え、集合場所であるギルドまで向かう龍太は、道中でハクアにひとつ質問していた。
「ドラグニアって結構広いんだよな? ローグは海の向こうって話だし、どうやって向かうんだ?」
「さすがに徒歩ということはないと思いたいわね。先を急ぐ必要もあるのだし、なにより城都から港町のセゼルまではそれなりの距離があるわ」
「ノウム連邦よりも?」
「ノウムよりは近いけれど、徒歩なら十日ほどはかかるわね。せめて車を用意できたらいいのだけれど」
ハクアは頬に手を当て、悩ましげにため息を吐く。
いい加減慣れてきたつもりではあるのだけど、やはり異世界で車というのはどうにも違和感があるというか。軽くカルチャーショックを受けた気分だ。
今だって、すぐ隣の道路ではそれなりの数の乗用車が走っている。丁度社会人たちの通勤時間なのだろうか。
まあ、そういう龍太だってここ数日、何度かバイクを乗り回したりはしたのだけど。
「そうだ、蒼さんに転移で送ってもらうとかできねえのかな」
「それが一番妥当なところでしょうね」
転移はかなり高度な術らしいが、朱音や丈瑠たちはぽんぽん使ってたし、まさか蒼が使えないなんてこともないだろう。
始まりの村からの旅路を思えば、随分と楽な旅程だ。もうどことも知れない森の中でキャンプすることもない。それはそれで、少し物足りなくもあるけれど。
なんて、そんな龍太の感慨は、ギルドの前について早々打ち砕かれた。
「しばらくの間、長距離転移は禁止ってことになったから」
「はぁ⁉︎」
ギルド前で全員と合流した後、蒼からそう告げられた。
当てにしていた移動手段が却下され、龍太のみならずジンやヒスイも肩を落とす。
「それは、国からの正式な発表、ということでよろしいのですか?」
「いや、長距離転移を禁止するのは君たちだけだ。スペリオルに見つかる危険は、少しでも減らした方がいい」
転移も魔術である以上、痕跡として魔力が残るし、それを追跡されることだってある。
これまで龍太たちは、何度もスペリオルの襲撃を受けてきた。それはつまり、やつらには龍太たちの位置を把握する術があるということだ。
それが魔力なのか、はたまた別の手段なのかは分からないが、可能性がある以上は転移もやめておいた方がいい。
「車一台くらいなら融通できるけど、この中で免許証持ってる人はいる?」
「移動は基本、クレナの転移だったからなぁ」
「あたしもほうきがありましたし。龍太さんに壊されましたけど」
「あれはヒスイから突っ込んできたんだろ」
とんでもない責任転嫁である。
「僕と朱音は向こうの免許証なら……」
「私はペーパーだけどね」
つまり、誰も持っていないと。
龍太とハクアに至っては聞くまでもない。そもそもハクアの場合、免許証を持っていても魔力を持っていないから、この世界の車は動かせないのだし。
やはり移動は徒歩になってしまうようだ。まあ、この際仕方ないと諦めよう。あれはあれで悪いものでもない。
セゼルまでは舗装された街道も通っているとのことだし、ノウムへ向かうまでの山道に比べたらかなり楽のはずだ。
「となると、やはりセゼルには寄ることになるか……」
「なにかマズいことでもあるのか?」
ううむ、と唸るジンは、困ったように眉根を寄せて腕を組む。
港街セゼルは、城都の次に栄えている街とのことだ。ローグを始めとした各大陸との交易の中心となっているため、人種も様々。単純な広さなら城都には及ばないが、それでも街の活気や居心地の良さなどは、城都とセゼルで意見が二分するほどだとか。
龍太は結構楽しみだったりするのだが、ジンにはなにか心配事でもあるのだろうか。
「いやなに、個人的にあの街は、少し近寄り難いというだけだ。リュウタたちが気にする必要はないぞ」
「そうか? ならいいんだけどさ……」
ハクアからはセゼルがそんな街だとは聞いていないから、これは本当にジンの個人的な問題なのだろう。どちらにせよ、ローグのある南の大陸へ渡るには、セゼルを経由して海路を使うしかない。
ただ、ジンの事情を全く考慮しないわけにもいかないので、なるべく滞在期間は短い方が良さそうだ。
「ああそうだ、ハクアと龍太には餞別を渡しておくよ。ローグまで送ってあげられないからね、せめてもの気持ちだ」
「餞別?」
「お金なら大歓迎よ」
実は一行のお財布を管理しているハクアのちょっと守銭奴っぽい発言はスルーされて、蒼が懐から取り出したのは水色のカートリッジだった。
差し出されるがままに受け取るハクア。まさかと思って二人揃って蒼の顔を見上げると、どうやらそのまさからしい。
「昨日の夜、アリスが一度帰ってきてね。その時にお願いしといたんだ」
「ニライカナイのカートリッジ……」
アリス・ニライカナイがその身に宿した龍神、水龍ニライカナイの力が込められたカートリッジだ。
「餞別というには、随分と大層なものではないかしら?」
「そうでもないさ。たしかにアリスは巫女の中でも最強と名高いけど、それは別に、龍神ニライカナイが強いということにはならない。むしろニライカナイは、五体の中だと弱い方に当たる」
「それくらい知ってるわ。そうだとしても、龍神の力には違いないもの。ホウライと言いあなた達と言い、そんな簡単に渡すものではないと思うのだけれど」
たしかにハクアの言う通り、龍神とはこの世界でかなり重要な存在のはず。そんな龍神の力をこうも簡単に、しかも異世界人に渡してもいいものなのか。
おまけに龍太には、魔王の心臓の件もある。今のところは不問にしてくれているものの、龍太の心臓が敵の親玉のものであることに変わりはない。
「細かいことは気にしたらダメだよ」
「細かいか……?」
「まあ、魔王の心臓の件があるにしてもだ。龍太、君は信用に値すると、僕が判断した。他の誰にも文句は言わせないさ」
そう言われると、悪い気はしない。
つまりこのカートリッジは、人類最強からの信頼の証だ。ありがたく受け取っておこう。
「それじゃあ、旅の無事を祈っておくよ。朱音、もう無茶はしないようにね」
「言われなくても分かってますが」
ちょっと拗ねた朱音に続いてそれぞれ礼を言い、一行は次の目的地、南の大陸にあるローグへ足を進めた。
◆
ドラグニアの城都を出て、南へ続く街道沿いに歩く。城都の壁一枚を隔てた草原には、車が一台も走っていなかった。
壁の内側ではあんなに多くの車が行き交っていたのに、どうしてなのかとハクアに尋ねれば、ある意味当然の答えが返ってくる。
「外は魔物がいるもの。街道沿いは結界のお陰で殆ど出てこないとは言っても、それだって100%ではないわ」
「てことは、街から街の移動はみんな徒歩になるのか?」
「国がバスの定期便を出しているのよ。それだと魔導師も同乗するし、自家用車を使うよりも危険が少ないわね」
龍太たちの世界とは違い、街の外は危険に溢れている。魔物の根絶が事実上不可能である以上、仕方のない話なのだろう。
とは言えハクアの言ったように、一行が現在歩いている街道は結界があるようだし、ギルドや城の魔導師が定期的に魔物を狩りに行くみたいなので、そこまで身構えずともいいようだが。
「でも、魔物が全く出ないってのも退屈だよね。歩いてるだけだと暇じゃない?」
「そう思うのはアカネさんだけですよぅ。あたしは魔物と遭遇するとか絶対嫌です」
特にヒスイは戦えないから、余計に魔物と遭遇するのは勘弁願いたいだろう。龍太だって、なるべく戦闘は避けて進みたい。
なにせ経由する港街のセゼルまででも、徒歩だと十日はかかると言う。疲れるような要素は出来る限り排除した方が懸命だ。
「まあ、ハクアが言ったように結界があるから、心配しなくても魔物は出ないけどね。出たとしても適当にあしらうから安心してくれていいよ」
腰に差した刀に手をやり、柔かに言ってみせる朱音。大変心強い。
その後もこれと言ったトラブルはなく、やがて空が薄く暗くなって来たところで、野営の準備をすることになった。
街道から外れた草原の上にテントを立てていれば、その間に朱音と丈瑠がテーブルや椅子を準備してくれる。
「どこから出したんすか、それ」
「別の空間、というか次元からかな。時空間魔術の初歩も初歩だよ」
「て言ってるけど、そもそも時空間魔術自体がかなり難しいから、朱音の言ってることはあまり当てにしないようにね」
苦笑気味に訂正を入れる丈瑠も、朱音と同じように虚空から椅子を取り出している。随分便利な魔術だ。朱音が龍具シュトゥルムや聖剣、それにあの仮面などをどこにしまっているのか気になっていたが、どうやらそれも時空間魔術とやらの中らしい。
椅子やテーブルだけでなく、鍋やフライパンなどの調理器具すらぽんぽん出してくれる朱音が、ドラグニアの城都で買っておいた食材を使い料理を始める。火も当然魔術で簡単につけていた。
「おー、いい匂いですねえ」
「何作ってるんすか?」
「ロールキャベツだよ」
「キャンプで出てくる料理じゃないな」
「まあね」
ジンの言葉に苦笑する朱音は、手際良く調理を進める。ハクアと二人で旅していた頃とは大違いだ。
あの時は始まりの村で貰ったパンを毎日食べていたものだ……いや、パンは美味しかったんだけど。
「アカネは料理上手なのね」
「これでも昔は酷かったんだよ、朱音は。料理どころか家事全般全くできなかったんだ」
「丈瑠さん! 余計なことは言わなくていいですが!」
顔を真っ赤にする朱音は、龍太から見れば完璧超人を絵に描いたような存在だ。そんな彼女も、昔は料理どころか家事全般全くできなかったとは……あまり想像がつかないけど、まあ、どんな完璧超人も生まれた時からそうあるわけではない。朱音も色々努力して、今の彼女があるのだろう。
「たしか洗濯機の使い方が分からなくて、イラッとして真っ二つにしたんだっけ?」
「昔の話はいいじゃないですか……」
家事できないなんてレベルじゃないぞおい。イラッとしたからって洗濯機くんに何の罪があるって言うんだ。
「丈瑠さん、無駄口叩く暇があったら周辺に結界張ってください」
「分かった分かった。だからそんなに怒らないでよ」
恋人からジト目で睨まれ、丈瑠は懐から紙を四枚、陰陽術に使うヒトガタを取り出し、四方に投げた。
すると半透明の壁が一行のキャンプ地を覆うように広がり、簡易的な結界が出来上がる。
「便利なものだな、陰陽術というのは。こちらの世界にはない魔導技術だ」
「このヒトガタがあれば、大体の魔術は発動できるんだ。後は方角とか星の位置とか、そういうのも重要かな」
ジンと丈瑠の二人が魔導談義で盛り上がっている間に、夕飯が出来上がった。皿にロールキャベツを盛り付けて、城都で買ったパンも一緒に、それぞれ椅子に座りいただきます。
野外でロールキャベツとはどうかと思ったけど、そんなことが気にならないくらいには美味だった。
「そういえば、これから向かうセゼルってどんな街なんだ? ドラグニアの交易の要で、結構栄えてるってことは聞いたけど」
「交易の要とだけあって、色んな国の人がいるわよ。ドラグニアだけじゃなくて、別の大陸の文化も混ざっているし、商人も多いから中々飽きない街ね」
「常駐してる騎士の練度も高いから、治安もいい街だよ」
「朱音さんも行ったことあるんすか?」
「あそこの騎士隊長は友達なんだ」
随分と交友関係が広いようで。元々朱音は、異世界と元の世界とをよく行き来していたようだし、友達がいても不思議ではないか。
「セゼルの騎士隊長か……」
「あれ、ジンもハルトさんのこと知ってるの?」
「まあ、少しな……」
首を傾げて問う朱音に、苦笑が返される。こんなところで共通の友人、知人が見つかるとは、世界は狭いということか。
それはそうと、セゼルの話になると、どうにもジンは苦い顔をする。あまり深くは踏み込むまいと思っていたのだが、さすがに気になって来た。
そんな龍太の気持ちを察知したわけでもないのだろうけど、答えを簡単に出してしまったのは情報通のヒスイ。
「セゼルはジンさんの生まれ故郷なんですよ。実家に帰ることになるから、思うところもあるんじゃないですか?」
「ヒスイ……お前はまた勝手に……まあ、到着するまでに言おうとは思っていたんだがな。アカネの友人、セゼルの騎士隊を率いるハルト・クローバーは、俺の幼馴染、のようなものだよ。歳はアカネと同じだから、三つは上になるが」
幼馴染で兄貴分、と言ったところか。
しかしそれでも、なぜセゼルに帰ることを苦く思うのだろう。それこそ深く踏み込みすぎか。たしかにジンは仲間だけど、それでも聞いてほしくないことはあるだろう。
ジンに限らず、ヒスイや朱音、丈瑠にも。ハクアにも。
知られたくない秘密くらい、誰にだってある。当然、龍太にだって。
それを無理に聞き出そうとするのは、例え仲間だとしても許されることじゃない。相手が話してくれる時まで待ち続ける。それがどんな秘密でも、それこそ仲間なのだから、信じて待つ。
「俺は少し、実家との折り合いが悪くてな。まあ、ただそれだけの話だ。セゼルに帰ったとしても、家に近寄らなければそれでいい」
「……家族は大切にした方がいいよ」
真剣な眼差しと、重みのある言葉。朱音の過去を聞かされているから、彼女がそこにどれだけの想いを込めているのか、ほんの少しだとしてもわかってしまう。
ジンだってそれを察せないわけがなく、安心させるように微笑みを見せた。
「なにも仲が悪いわけじゃあない。ただ、家族と意見が対立してな。俺ももう子供じゃないから、向こうの言い分だって理解できるし、家族も頭ごなしに押し付けるような真似はしなかった。アカネに心配してもらうほどのことでもない」
本人がこう言うのだから、やはり周りが過剰に気にしても仕方ないだろう。
ともかく、ジンの事情がどうであれ、龍太たちがセゼルに向かわなくてはならないのに変わりはない。
ジンにとって久しぶりの帰郷が、悪いものでないことを願うばかりだ。
◆
翌朝、軽く朝食を摂った一行は、再びセゼルまでの道を歩いていた。
舗装された街道は、ドラグニアまでの旅路を思えばとても歩きやすい。これで魔物が出てこなければ文句なしだったのだけど、どうやらそう上手い話はないようだった。
「きゅー!」
「エル、どうかしたか?」
アーサーの背で羽を休めていたエルが、当然翼を広げて鳴き声を上げる。
警戒を促すようなエルの反応は、これまでにも覚えがある。つまり、敵意を持つ何者かが近くにあるということだ。
「凄いね、私も魔力探知は常に張ってるけど、それよりも速いとか。さすがはエルドラドってところかな」
エルドラド? 感心したように呟く朱音には聞き返したいところだったが、近くに敵がいるとあればそんな暇はない。
全員が得物を抜こうとして、しかし。ハクアがそれを止めた。
「待ってみんな、敵じゃないわ」
「違うのか?」
「ええ。さすがのエルも、アカネより早くに察知することは出来ないもの」
「じゃあ、何に反応したんだよ」
「遺跡ね」
聞き慣れない言葉を耳にして、龍太は首を傾ぐ。だが反面、ハクアは至って真剣に、どころか少し興奮気味な様子で言葉を続けた。
「この近くに、まだ誰も発見していない古代遺跡があるのよ。エルはそれを察知したみたい。アカネの魔力探知に引っかからないのも当然だわ。この世界の古代遺跡は総じて、中の魔力がほとんど外に漏れないもの。だからドラグニアの学者でも発見が困難なのだけれど、エルはわたしと何度も遺跡に潜ったことがあるから、特有の魔力パターンを覚えているみたい。それでエルは発見できたのだけれど、どうしましょうか。遺跡に立ち寄る? もちろん行くわよね? 少し寄り道になってしまうけれど、古代遺跡にはたくさんの未知や古代の文明が残っているのだから、行くしかないわよね⁉︎」
「お、おう……ちょっと落ち着こうぜハクア」
めっちゃ早口で捲し立てられ、おまけにグッと顔を寄せられて、龍太は半歩後ろに下がった。顔が近いとか以前に、なんか怖い。
ハッと我に帰ったハクアは、仲間たちからの意外そうな視線に気づき、ほんのりと頬を朱に染める。どうやら、自分のテンションが異様に上がっていたことに気づいたらしい。さしものハクアも、これには羞恥心を煽られたか。
「そ、そういえば白龍様は、以前ドラグニアで考古学者をしていたんでしたよね!」
「となると、ハクアが古代遺跡に興味を示すのは当然だよ。おかしなことじゃないと思うな」
必死にフォローを入れるヒスイと丈瑠だが、なんだか余計にいたたまれなくなってきたので、その辺でやめて差し上げてほしい。
しかし、たしかに。そういえばハクアは、これでも学究の徒だったか。てっきり忘れかけていたけれど、初対面の時にも、考古学者だと自己紹介された。
『だが、周囲は草原だ。とても遺跡があるようには思えない』
首を巡らすアーサーの言う通り、この近辺はまだ草原が広がっている。例えば森や山の中ならば、それっぽい洞窟とかがあるのだろうけど。
あたり一帯に青草が広がるここでは、遺跡なんて見当たるわけもなく。
「エル、詳しい場所は分かる?」
「きゅー!」
エルの先導で、一行は街道から外れ草原の上を進む。すると五分も経たないうちにエルは草の上に降り立ち、ここだと示すように鳴いた。
「まさか、この下だって言うんじゃないだろうな?」
「試したら早いよ。エル、そこどいてね」
アーサーの背にエルが飛び乗ってから、朱音が一歩前に出る。途端、草原の上にに剣閃が迸った。刀を抜いていないにも関わらず地面を斬った朱音は、バラバラと地下へ崩れ落ちていく扉だったものを眺めて、一言。
「先客がいるね」
「先客って……先にこの遺跡を見つけたやつがいるってことっすか?」
「多分ね」
草原の下へと続く階段。その先からは、かなりの魔力が感じられる。外には殆ど漏れないとハクアが言っていたが、やはりここまで入り口に近づけば、しかも扉を破壊してしまえば分かるものだ。
「どうする? 中にいるのが誰かは分からないけど、それでも進む?」
「もちろんよ。もしも同じ考古学者なら、その場で意見を交わせる貴重な機会だわ!」
「決まりみたいだな」
再びテンションが上がったハクアに苦笑しつつも仲間たちを見やれば、大体みんな似たような反応だった。
つまり、異論はないらしい。
こうして一行は、いつも以上に目を輝かせたハクアを先頭にして、地下の古代遺跡へ続く階段を降りていった。




