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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第二章 誰も知らない必然
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世界最大最強の国 2

 この世界のどことも知れぬ場所。少なくともドラグニア神聖王国からは遠く離れた、とある洞窟の奥地。

 そこには、二体のドラゴンが封印されていた。水晶のようなものに閉じ込められ、瞳を閉じて眠っている。

 一体は青い体を持つドラゴンだ。目は六つあり、強靭な四肢と肉体は全身が鱗に覆われている。水晶の中にいても、その硬度は見てわかるほどだ。八枚の翼は、自身の巨体を包むように閉じられていた。

 もう一体は、黄色いドラゴン。蛇のような長い体でとぐろを巻いている。長い髭が特徴的だが、青いドラゴンに反してこちらは鱗自体の硬度はなさそうだ。しかしこのドラゴンが持つ特殊な力を、水晶を見上げるフェニックスは知っていた。


『我が同胞よ、今こそ長き眠りから目覚める時だ』


 隣に立つ怪人。二メートルの巨体と赤い体、その体を覆うほど大きな翼に、石像のような表情のない貌を持つ赤き龍の端末が、腕を一振りする。

 たったそれだけの動作で、二体のドラゴンを封じていた結晶が砕け散った。


 二重の咆哮が響き渡る。

 洞窟内を震わせているのは、咆哮による振動だけではない。この二体が放つ魔力で、世界そのものが怯えているかのようだ。


「我が王よ、まさかこのお方たちは……」

『そうだ。二万年前、白き龍が封印した我が同胞にして、忠実なるしもべ。この時代では五色龍と呼ばれるうちの二体だ』


 世界創世の伝説に登場するドラゴンは、一般に赤き龍と白き龍の二体とされている。しかし一方で、あと三体のドラゴンがいたとされる説が近年における研究で明らかになった。それぞれ体の色が異なることから、赤き龍と白き龍も含め、五色龍と呼ばれている。


『黒龍は元から白き龍の信奉者であった。故に現在も、やつと行動を共にしている。だが、青龍と黄龍の二体は、紛れもなく我が忠臣に違いない』


 その言葉を証明するように、二体の強力なドラゴンが首を垂れる。

 現在の純粋な力のみを比べるなら、完全に程遠い赤き龍は青龍と黄竜に及ばない。それはこの二体も理解しているだろうが、それでも跪くということは、単純な力関係以上に、強固な結びつきが存在しているということになる。


『お久しゅうございます、我が主よ。青龍ヘルヘイム、今長き眠りから覚めました』

『同じく、黄龍ヨミ。参上いたしました』


 しわがれた老人のような声が、青龍ヘルヘイム。幼い少女のような声が、黄龍ヨミのもの。二体の体が光に包まれ、一瞬後には人間態へと変化し、赤き龍の前で跪いている。


 青い髪の執事服を来た老人と、黄色い髪のメイド服を着た幼女。


『長きに渡る封印に耐え忍びご苦労だった。今こそ、貴様らの力が必要な時だ』

「恐れながら我が主よ、エルドラドめはどこに?」

『やつは白き龍と共にいる』

「エルドラド、裏切ったんだ」

『やつにはハナから期待していない。エルドラドがおらずとも、貴様らがいれば十分だろう』


 黒龍エルドラドは、五色龍の残り一体だ。

 恐らくは、白き龍や赤城龍太と共にいたあの小さな黒龍がそうだろう。二十六年前にニライカナイの巫女が倒したと聞いていたが、生きていたのか、あるいは転生しているのか。


『フェニックス、貴様は暫くの間、ヨミと行動を共にするといい。貴様には期待している』

「はっ!」


 まさか、黄龍の下につくことになろうとは。さすがに予想していなかったが、フェニックスは内心喜びに満ちていた。

 我が王が期待を寄せている。断じてその期待を裏切るわけにはいかない。


 自分は既に一度、失敗した身だ。バハムートセイバーに、ルーサーに敗北し、それでもこうして生きている。

 ならばこの汚名、雪がずにはいられない。


 宿敵の顔を脳裏に思い浮かべ、フェニックスは強く決意した。



 ◆



 昨夜の記憶があやふやだ。

 具体的には、眠る直前の記憶が。ホテルの部屋に戻って来て、風呂に入りベッドにダイブしたのは覚えている。ただ、その後のことはあまり覚えていない。


 だから、目が覚めたら頭を柔らかい胸に押し付けるように抱かれていたら普通に焦るし、心地良さそうに眠っていたハクアを起こしてしまうのも仕方のないことだ。


 そんな朝の騒動を経て、ホテルの朝食も済ませた二人は、早速街へ繰り出すことにした。

 今日はようやくの休日だ。せっかく世界最大最強の国へ来たと言うのに、この五日間観光する暇もなった。だから今日は、めいいっぱい楽しんでやらなければ。


「そうだわリュータ。せっかくのデートなのだし、手を繋ぎましょう」

「お、おう……」


 ホテルを出てすぐ、ハクアがいいことを思いついた、と言わんばかりに提案する。

 ど直球に言われ手を差し伸べられれば、さすがの龍太も拒絶できない。まあ、手を繋ぐくらいなら変身する時にいつもしているし、なんなら今朝はそれ以上の状況になっていたわけだし。


 不意に蘇り始めた煩悩を頭を振って追い出し、ハクアの柔らかな手を取った。体温は少し低く感じられる。指と指は絡まり合って、半ば腕を組むような体勢になったハクアは、揶揄うような笑みでこちらを見上げた。


「今日はわたしがエスコートしてあげる」

「普通逆だと思うけどな」

「普通なんて関係ないわ。わたしたちはわたしたちらしくしていましょう」


 男の自分がリードするべき、なんて本当に今更だ。これまでの旅の中でも、ハクアはいつも龍太の腕を引っ張ってくれていた。今回も同じ。

 それが、二人の形なのだ。普通なんて今更気にしても仕方ない。


 ドラグニアの城都は城を中心として円形に広がり、合計三十の地区に分かれている。

 第一地区を街の中心、城の近辺として、第二地区から第十五地区までは住宅地や教育期間、商業施設に娯楽施設などを含んだ、一般的な街と呼べる地区となっている。

 十六から二十は貴族の屋敷があり、二十一と二十二は電気や水道などインフラの中心施設が集まっている。二十三に魔導の、二十四に科学の研究所が城内とは別に置かれ、二十五以降は工場や農場など、この城都の産業を支える場だ。


 龍太たちの泊まっているホテルは、その中でも第三地区。富裕層が利用するようなホテルやカジノなどが揃っている場所だ。一般的な家庭に生まれた身としては、なんとも居心地の悪い地区である。


 ハクアと二人で第三地区を足早に抜け、そのすぐ隣の第十二地区へ向かった。

 ここは教育機関、つまりは学校もそれなりの数あるから、必然的に学生向けの娯楽施設や手頃な価格の飲食店が多く並んでいるらしい。


「こっちの世界の学校ってどんな感じなんだ? やっぱり魔導について教わるんだよな?」

「ええ、最低限ではあるけれど、当然教わるわ。もしも将来的に魔導師として働くなら、高等部からは専門の学校に行くことになるでしょうし、そうでない子たちは教わったとしても日常で扱う程度の魔導くらいのものよ」


 どうやら、この世界の学校も龍太の世界と似たような感じらしい。初等部が六年、中等部が三年、高等部が三年。希望者は高等部卒業後に大学へ進むために受験するらしいが、龍太たちの世界とは違い、基本的には高卒から就職するのが大多数のようだ。

 大学も、殆どが魔導の専門学校であり、城が運営しているもののようで。宮廷魔導師のお偉いさんの研究室に入れてもらう感じらしい。想像しているキャンパスライフとは随分と違うっぽい。


「魔法学校、みたいなのがあるわけじゃないんだな」

「ないことはないけれど、少なくともドラグニアにはないわね。この国は、魔導そのものよりもその他の一般常識や教養に力を入れているみたいなの。魔導を直接扱う術よりも、魔導によって形作られた現在の文化を重要視している、というわけね」


 魔導や魔術を扱えれば、それだけで生きていける。なんて、そんなに世の中は甘くない。それはどちらの世界でも同じか。

 龍太の世界でも、スポーツだけが出来て勉強がからっきしなやつは、必ず人生のどこかで躓くことになる。

 例えば高校球児が、プロの野球選手になれたとしよう。だがその人物が最低限の教養も身につけていなければ、どうなるか。想像に難くない。社会人としてのマナーがなっていなければ、叩かれるのは本人だけじゃない。所属する球団も、チームメイトも。あるいは家族にまで及ぶかも。


 社会という仕組みは実に面倒なことが多いシステムだ。一芸に秀でているのは立派なことではあるが、だからと言ってその他のことを疎かにしていい理由にはならない。


 あるいは、魔導という超常の力によって発展して来たこの世界は、龍太の世界よりも余程その辺りを意識しているのかも知れない。

 強力な魔の力を扱えるものは、たしかに凄いのだろう。だから、その力の正しい使い方はなんなのかを見極める。そのための教育に、この国は力を入れている。


「比較的歴史の浅いドラグニアが、それでも世界最大最強を誇る理由の一つね。この国は過剰なほど、教育に力を入れているから」


 次世代の育成。建国当初からそこだけは抜かりなく行って来たらしいこの国は、百年足らずで最強へ上り詰めた。


 道を歩きながら、周囲を見渡してみる。この地区は学校が多いとのことだが、たしかに龍太と同年代くらいで制服を着た学生が多い。さすがに学ランやセーラー服は異世界に存在しないのか、みんなブレザータイプのようだ。

 自分も二ヶ月近く前までは、彼ら彼女らと同じ学生のはずだった。そう思うと、不意に懐かしいものが込み上げる。


「そういえば、ドラゴンも通ってたりするのか?」

「まちまち、といったところじゃないかしら。個人的にパートナーがいるなら、一緒に通っているでしょうし」

「なら、ハクアと一緒に学校行ったりもできる、ってことか」

「不可能ではないわね」


 そんか時間的余裕はないけど、想像するだけならタダだろう。

 同じ制服に身を包み、ハクアと青春を謳歌する。同じ教室で同じ授業を受けて、文化祭や体育祭みたいなものがあれば二人で楽しめるかもしれない。

 ああでも、エンゲージの影響で十メートル以上離れられないから、学校生活はまた色々と不便な点が出てくるか。

 それを踏まえても、きっと悪くないものになっていただろう。全ては想像にすぎないけど。


「リュータと一緒なら、学校に通うのも悪くはないかもしれないわね」


 見上げてくる笑顔が眩しい。同じことを考えていたことが嬉しくて、龍太も自然な笑顔が漏れた。



 ◆



 デート、と一口に言ってしまっても、実際どんなことをすればデートになるのか。女性経験に乏しい龍太には皆目検討もつかない。

 異性と出かけることがそれに当たるなら、龍太は元の世界でもデートをしたことがあることになってしまう。元の世界では、幼馴染の詩音の買い物によく付き合ったものだ。


 だが、今回は詩音との買い物とは違う。

 家族同然の幼馴染が相手ではなく、意中の女性が相手だ。ホテルから出て一時間ほど街を当て所もなくふらついて、龍太は今更というか、ようやくというか、なにせこれがデートであるということを意識し始めた。


 繋いだままの手が、やけに気になってしまう。自分よりも少し体温が低くて柔らかなハクアの手。互いの指を絡め合い、体も密着して、本当に恋人同士のような距離感。

 少女の案内のまま道を歩くが、嫌に周りからの視線も気になってしまい、それが自意識過剰だと分かっていても気にしてしまう。


「なあ、ハクア。今更だけど、行き先とか決めてるのか?」

「案内したい場所はあるけれど、そこに向かうまでは特に決めていないわ。どこか気になる場所でもあった?」

「いや、そういうわけじゃねえけど……」


 煮え切らない答えに、ハクアはコテンと小首を傾げる。可愛い。

 どうやらハクアは、デートがどうとか手を繋いでる今の状況とか、そういうのは気にならないようだ。むしろ、龍太と二人で出掛けられていることに対する喜びが、彼女の全身からこれでもかと言うほど伝わってくる。

 だってハクアさん、心なしか普段よりテンション高いからね。


「まあ、行き先とか特に決めてなくても、別にいいんだけどさ。ハクアと二人でゆっくり街をふらつくだけでも、俺は楽しいし嬉しいから」

「ふふっ、そう言ってもらえると、とっても嬉しいわ」


 素直な言葉を口にすれば、やっぱり恥ずかしくて顔が熱くなる。けれどハクアが喜んでくれるなら、ちゃんと言葉にした甲斐があったというものだ。


 道中にある店や建物がどんな場所なのか、上機嫌なハクアから随所で説明を受けながら、やがてある一件の店で、二人の足は止まった。


「ここは?」

「案内したかった場所のひとつよ。ここはドラグニアでも有名な魔導具店なの。わたしのナイフもここで買ったのよ」


 おっと? なんかいきなりデートらしさが薄れてきたぞ?


「とりあえず中に入ってみましょうか」

「お、おう……」


 促されるまま店の扉を開けば、中には様々な魔導具が陳列されていた。

 ハクアが持っているようなナイフを始めとした刀剣類や、銃の魔導具が多いだろうか。しかしその他にも、用途のわからない紐や箱、果てはただの紙にしか見えないようなものまで並んでいる。


 武器が並んでいると心が躍っちゃう。男の子なら仕方ない現象だ。


「ここは学生もよく来るから、比較的扱いやすい魔導具が多いの。例えば、わざわざ自分の魔力を使わないでもいいものとか」

「そういえば、ハクアのナイフもそのタイプだったな」

「わたしはそもそも、魔力を使えないもの」


 ハクアの持っているナイフの魔導具は、持ち手の柄の部分にスイッチがあり、それを押すことで力を発揮する。麻痺毒や目眩しの閃光などなど、主に行動を阻害させるものだ。

 直接的な攻撃は、いつも龍具のライフルで行っていた。


「例えばこの紐なのだけれど。これは体のどこかに結んで、魔力を流すとその箇所に強化魔術が施されるの」

「へえ、便利なもんだな」

「こっちの箱は、魔力を流すとランダムな種類のお花が出てくるわ」

「何に使うんだそれは……」


 紐に比べて箱の効果がしょぼすぎる。まかり間違って毒を持ってる花とか出てきたらどうするんだ。

 まあ、主な利用客は学生ということだし、意外とこういうので遊んだりするのかもしれないけど。


 それからも並んでいる魔導具を楽しそうにハクアが説明して、龍太はそれを聞きながら感心したり呆れたり。店員に許可を貰って、いくつかは試しに使ってみたり。

 魔導具店と聞いて最初は少し身構えていたが、思いの外楽しい時間を過ごせた。


「どう? 気になる魔導具はあったかしら? ひとつくらいなら買っても大丈夫よ」

「いや、買うのはいいかな。特に必要なものもないし、武器はあの剣があるし」


 始まりの村でもらった、昔ハクアが使っていたという剣。今ではあの剣が手に馴染んでしまったし、それ以外の武器や魔導具を今から使いこなそうとは思えない。


 魔導具店から出る頃には、時間もそろそろ昼食時となっていた。ハクアがオススメのお店があるというので、引き続き彼女に手を引かれるまま街を歩く。

 流石にこの時間になると、制服を着た学生たちはみんな登校したのか、人通りも少なくなっている。


「お、あいつは遅刻か?」

「遅刻にしては随分遅い時間に思えるけれど」


 唯一視界内にいる少年。さっきまで見かけていた学生たちと同じ制服を着ているが、たしかにハクアの言う通り、少し遅すぎる時間だ。本当に遅刻なら教師からかなり怒られるだろう。


 暫く様子を窺っていると、学生服の少年の様子がおかしいことに気づいた。

 猫背であるく彼は、腕もだらんと脱力したように下がっていて、足取りも覚束ないものだ。顔も下を向いていて、歩き姿からはまるで元気が、というよりも生気が感じられない。


「なあハクア、あいつ……」

「ええ、様子がおかしいわね」


 病気の体を押して登校、という風にも見えない。それならそれで、また別種の活力というか、やる気というか、そのようなものを感じさせるはずだ。

 だが、その少年からはそう言った類のものが一切感じられない。大袈裟に言えば、ゾンビやミイラのような。


 とにかく、放っておくわけにもいかない。声をかけようと足を向け、しかし。二人は歩み寄ろうとした直前で、ぴたりと動きを止めた。

 少年から、異様な魔力を感じ取ったから。


「おかしい、人間の魔力じゃないわ!」

「まさか、ノウム連邦でも見たあれか⁉︎」


 途端、少年の体が強く輝き出す。強烈な光に視界を奪われ、次の瞬間そこに立っていたのは、人間ではなくドラゴンだった。

 全長七メートルほどにも及ぶ、これまで見た中でも一回り大きなドラゴン。


「■■■■■■!!!」


 人間のドラゴン化。ノウム連邦の首都、コーラルでも一度遭遇した事例。あの時はフェニックスがその場に現れ、スペリオルの仕業だと判明した。

 つまり、これも同じだろう。先日フィルラシオで撃退したばかりのスペリオルが、さっそく仕掛けてきた。


「ど、ドラゴン⁉︎」

「あいつ、様子がおかしいぞ!」

「誰か衛兵に知らせてきてよ!」


 道を歩いた一般人たちが、突然の事態に混乱する。明らかに我を失っているドラゴンを見て、対処の術を持たない人々は逃げ惑うことしかできない。


「くそッ、剣は置いてきちまったぞ!」


 人々の流れに逆らうようにして、龍太とハクアは今にも暴れ出しそうなドラゴンと睨み合う。だが武器がない。龍太はホテルに剣を置いてきてしまったし、ハクアもライフルは持っていない。それどころか、普段隠し持っているナイフも今はないようだ。


「リュータ、変身するしかないわ!」

「やっぱそうなるか……!」


 朱音から変身は禁じられていたが、こうなってしまってはそんなことも言ってられない。ハクアと手を繋ぎ直し、鍵となる言葉を叫ぼうとした、その時。


 どこからともなく、一筋の稲妻が飛来した。

 稲妻はドラゴンに命中し、その巨体を焼く。痛みに悲鳴をあげるドラゴンは、長い首を自身の左側へ向けた。

 そこには一人の青年と白い狼が。


「丈瑠さん、アーサー!」

「ナイスタイミングよ!」

「二人とも、無事みたいで良かった。異常な魔力の反応を捉えたから急いで転移してきたけど、あのドラゴンは?」


 どうやら丈瑠は、少年がドラゴンへ変貌したところを見ていないらしい。状況の説明と、以前ノウム連邦でも同じことがあったと伝えると、丈瑠は苦々しく表情を歪ませる。


「人間をドラゴンに……なるほど、いかにも赤き龍がやりそうなことだね」

『どうする丈瑠。元が人間だと言うなら、迂闊に殺すこともできない。あまり大技は使えないようだが』

「アーサーの雷撃もあまり聞いてる様子はなさそうだし、多少は大丈夫だと思いたいけどね。ともかく、二人は朱音から変身を禁止されてるんでしょ? だったらここは、僕とアーサーに任せてくれ」


 腰のホルスターからハンドガン、グロック18Cを抜き、右目だけが橙色に変色した。

 だが、そんな悠長なことを言っている場合ではない。ドラゴン化が人体に及ぼす影響も分からない今、少しでも早急にどうにかしないといけないのだ。


「この期に及んで、変身禁止なんて言ってる場合じゃないわ」

「そうっすよ。前はある程度ダメージを与えたら元に戻った、だから全員でかかれば!」

「いや、前と同じだと思わない方がいいかもしれない。フェニックスは前回、実験だって言ってたんだよね? なら今回は、改良を重ねてるはず」


 そう言われると、反論の言葉が出てこない。あのスペリオルが、まさか同じ手を二度も使ってくるはずがなく、その上狡猾な策を巡らせているに決まっている。

 現状の龍太たちでは、バハムートセイバーで力任せに殴ることしかできないのだ。それでは却って足手纏いになる。


 理屈では分かっていても、納得できないというのが本音だ。

 でも、納得するしかない。自分が助けたいだなんて考えは、傲慢で強欲なものだ。全てが龍太一人の手に負えるものとは限らない。


 でも、そのための仲間だ。


『それに君たちは、本来なら今日は休日なのだろう? ならここは私と丈瑠に任せてくれればいい』

「朱音ほどじゃないけど、僕たちだって頼りになるってところ、見せてあげるよ」


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