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誓約龍魂バハムートセイバー  作者: 宮下龍美
第一章 ヒーロー誕生
25/117

魔王の心臓 1

 アリスから言われた通り、一日ゆっくりと過ごした明くる日の朝。

 今日はお昼過ぎに、アリスがドラグニアまで転移魔術で送ってくれる予定だ。一先ずの目的地がついに目の前まで迫っていて、龍太は内心でどこかそわそわしてしまう。


「ドラグニアに着いたら、まずは蒼さんを訪ねるってことでいいんだよな?」

「そうね。あなたの幼馴染について、アオイなら既になにか掴んでいるかもしれないわ」


 宿の部屋で、着替えも終えたハクアと二人、机を挟んで紅茶を嗜む。まさか異世界でも紅茶があるとは思わなかったが、どうやらコーヒーとかビールとかもあるらしい。その辺は気にしたら負けなのだろう。

 お子様舌な龍太は砂糖とミルクをたっぷり入れたミルクティーで、ハクアはなにも入れずストレートティー。


 目の前の純白の少女は、ただ紅茶を飲むだけでも優雅で美しい。その姿に見惚れそうになってしまうが、話の途中であることを思い出して我に帰る。


「もしも情報を得られなかった場合や、リュータの幼馴染が非常に危険な状況だった場合、アリスに言伝していると思うの。それがないと言うことは、ひとまず安心してもいいのかもしれないわね」

「そっか、そうだよな……」


 ルーサーやスペリオルとの戦いが続いているが、龍太の本来の目的は、幼馴染の玲二と詩音を探すことだ。

 二人は物心つく前から、それこそ赤ん坊の頃から一緒にいた。龍太たちの親同士の仲が良かったたから。そして高校までずっと一緒で、龍太の夢を真剣に応援してくれた、大切な二人だ。


「ねえリュータ、良ければあなたがその子たちとどんな風に過ごしていたのか、わたしに教えてくれる?」

「もちろん」


 玲二と詩音がどんなやつらだったのかは、以前一度、旅の途中で話したことがあった。

 玲二はいつも冷静なやつで、熱くなりやすい龍太を諌めてくれる。でも野球に関しては龍太以上の熱血だった。

 詩音は引っ込み思案な女の子で、玲二と二人でいつも彼女の腕を引いていた。けれど頭の良さは三人の中でも一番。


 そんな二人と過ごした思い出を、さてどこから話して聞かせようか。記憶を回想していく中で、ふと、違和感のようなものを覚える。


「……悪いハクア、いきなり話が変わるんだけどさ。ルーサーの素顔、覚えてるか?」


 話の脈絡がなさすぎたのか、ハクアは可愛らしく小首を傾げながらも、首肯を返してくれる。


 仮面を被った漆黒の復讐者、ルーサー。

 その素顔は、龍太と同じ日本人のものだった。鋭いまなじりはキツい印象を与えるが、それは彼女の美しい顔立ちを彩るもの。黒く長い髪は艶やかで、大和撫子という言葉がよく似合うだろう。

 そんな彼女を、龍太はどこかで見た覚えがあった。けれど今日これまで、それがどこだったのかは全く思い出せなかったのだ。


 しかし、改めて過去の思い出を振り返ってみると、それらしき人物が一人いる。


「昔、十年くらい前のことなんだけどさ。玲二と詩音の二人と、よく遊んでた公園があったんだよ。そこでよく、犬を連れたカップルがいてさ。俺たちもまだガキだから、構ってもらってたりしてたんだけど……」

「もしかして、そのカップルの女性が、ルーサーだったの?」

「かもしれない……」


 我ながら、そんなに昔のことをよく覚えているものだ。

 龍太たちが、あの黒い孔に吸い込まれたのと同じ公園。丁度あの時、吸い込まれる寸前にも、昔のことを思い出していた。

 白い狼犬を連れた学生らしいカップルは、よく遊びに来る龍太たちを微笑ましそうに見ていて。人懐っこい狼犬は龍太たちに混じってかけっこなんかをしていた。

 懐かしい思い出が、ここに至って大きな意味を持ち始める。


「でも、なんであの人が……当時はあの人もまだ中学生か高校生くらいのはずだったぞ……?」


 いくら元の世界でも魔導やらなんやらが存在していたとしても、当時の彼女はまだ子供だったはずだ。今の龍太とそう変わらない年齢のはず。

 それが、生きるか死ぬかの戦場に立っていたなんて、考えられない。


「チューガクセーって、何歳くらい?」

「十三から十五歳だよ。中学生か高校生か、って感じだったから、多分十五歳くらいだと思う」


 辿々しい発音に少しドキドキしながらも返すと、ハクアはふむと頷きを一つ。どうやら、彼女も龍太と同じ考えらしい。


「たしかに、その歳だと少し若すぎるわね。この世界でも子供が魔導を習うことはあるけれど、戦場に出るなんて許されるはずがないもの。まだその国の教育機関に通っている年齢のはずよ」


 魔法学校みたいなものがあるのだろうか。なんて疑問はとりあえず置いといて、どうやら異世界であってもその認識に違いはないらしい。あるいは、元の世界よりも戦場が近いからこそ、その辺りの管理はしっかりしているのかもしれない。


「リュータが昔会ったその女性がルーサーだっていうのは、間違いないのよね?」

「多分な……」

「だったら可能性は二つね。その当時から今までの十年間で、彼女の身になにか起きたのか。あるいは、見かけの年齢以上に実年齢は上だったのか」


 可能性としては前者の方が高そうだが、後者の方もバカにはできない。なにせ、龍太が住んでいた元の世界でも、魔術とやらは存在していたのだから。若返りの魔法がある、なんて言われても、驚きこそすれ疑問には思わないだろう。


 ただ、また別のところで疑問が生じてしまう。本当にルーサーがあの時の少女と同一人物だとして、彼女は龍太のことを覚えていないのだろうか。

 いや、当時の龍太はまだ幼かったから、向こうからしても今と昔の龍太が一致していない、分かっていないだけなのかもしれないけど。


「アリスが言っていたように、ルーサーのことは彼女に任せましょう。本当にリュータの言っている子なのかどうかは、次に現れた時たしかめればいいことだわ」

「それもそうだな」


 記憶の中にある彼女は、いつも無邪気な笑顔を浮かべた、天真爛漫を絵に描いたような少女だったはず。

 なにがルーサーを復讐に駆り立てたのか。気になることではあるけど、今はドラグニアに着いた後のことを考えよう。

 次に彼女と会った時、尋ねてみればいいだけだ。


 その時が思いの外早く訪れることを、二人は数時間後に知った。



 ◆



 昼食を宿で済ませたあと、龍太たち一行はアリスとの待ち合わせ場所であるフィルラシオの城へ向かっていた。


「道中どうなることかと思いましたけど、ようやくドラグニアですね!」

「ニライカナイ様自ら現れた時は、さすがに驚いたがな」

「きゅー……」


 目的地にようやく辿り着けることで若干テンションの上がっているヒスイと、昨日の驚愕がまだ抜けていないジン。

 エルはなんだか、アリスと会った時から元気がないように思える。気のせいだといいのだけど。


 城の門を潜り、城内へ。指定されていた玉座の間に辿り着けば、補修作業を指揮しているアリスがいた。働いているのは、ドラグニアからアリスが連れてきたらしい魔導師が数名だけだ。


 作業中に声をかけるのも悪いかと思ったのだが、あちらがすぐ龍太たちに気付いて駆け寄ってきた。


「こんにちは、皆さん。すみません、わざわざここまで来てもらって」

「アリスも忙しいのだから、気にしないでいいわ。それより、フィルラシオの立て直しはどう?」

「とりあえずは王弟が政務を仕切っています。わたしたちはそのサポートをしてるだけですから、思いの外早く立て直せそうですよ。そのおかげでわたしも、こうして城の補修作業に出れてますし」


 どうやら、意外と内政は問題ないようだ。前王、というよりもスペリオルの手の者は早急に切り捨て、今は王の弟を中心とした新体制に移り変わる最中。

 アリスは龍の巫女であると同時にドラグニアの王妹でもあるから、あまり表立ってこの国を仕切ることはできない。だから彼女からすれば、まだ日の経たないうちから新体制に切り替わりつつあるのは助かっただろう。


「もう少し待っていてくださいね。キリのいいところまで作業を進めますから」


 再び作業の指揮に戻るアリスの背を見送り、一行は隅の方へ。作業の邪魔はしたくないし、手伝おうと思っても中途半端に手を出さない方がいいだろう。

 そもそも、先ほどから魔導の力を使っているのか、瓦礫がどこかへ消えたり、凹んだ壁が触れてもないのに直ったりしている。龍太に出来ることはなにもない。


 それからしばらく作業を眺めていると、玉座の間はあっという間に元の姿を取り戻していく。床や壁は新築のようにピカピカで、砕け散っていた装飾品なんかも全て元通り。アナコンダとの激しい戦闘なんて、最初からなかったみたいに。


「すげえ……魔導ってのはここまで便利なもんなのか」

「これ程に扱えるのは、ドラグニアの宮廷魔導師だからこそだろうな。俺に同じ真似をしろと言われても、絶対できない」

「ジンさんは細かい操作とか苦手ですもんねぇ。あたしも似たことは出来ますけど、ここまでのレベルでは無理です」


 世界最大最強の国、ドラグニア神聖王国。そんな国が抱える宮廷魔導師は、やはりギルド所属の魔導師すら上回るということか。


「宮廷魔導師と言っても、研究がメインの仕事だわ。戦闘に関しては不慣れな魔導師も多いから、その点ではジンの方が上手ね。だからどちらが優秀、という話でもないのよ」


 適材適所というわけか。科学技術の一分野として確立されている魔導は、戦いに用いるのが全てではない。人々の暮らしに役立てるように、日々研究が進められている。

 宮廷魔導師の主な仕事がそれだ。だからギルドの魔導師とは違い、研究者や学者といった側面の方が強い。


 魔導師と一纏めに言ってしまってはいるが、その内訳は意外と細かく分かれるのかもしれない。


「お待たせしました。早速ですけど、ドラグニアまで転移で送りますね」


 作業を終えた魔導師たちに解散を言い渡したアリスが戻ってきて、詠唱もなしに魔力を軽く解放し、龍太たちの足元に魔法陣を描く。たったそれだけで、ジンとヒスイは目を見開いて驚いていた。

 魔導について詳しいわけではない龍太は、どこに驚く要素があるのか分からない。


「転移魔術はかなり難しい魔術なの。宮廷魔導師やギルドの魔導師でも、無詠唱で使える子は中々いないわ。おまけに人数制限も重量制限もないのだから、ジンとヒスイが驚くのは尤もなのよ」

「へぇ、さすがは龍の巫女ってことか」

「そうでもないですよ。無詠唱無制限の転移なんて、わたしの周りでは当然でしたから」


 そりゃまあ、巫女の周りには強い人ばかり集まってるのだろうし、当然にもなるのだろう。シンプルにアリスの基準が狂ってるだけのようだ。


「送るのは城都の前までです、そこからは正規の手続きでお願いしますね。城都に着いたらまず、ギルドに向かってください。蒼さんはそこにいますから」

「ええ、分かったわ」

「ありがとうございます、アリスさん」

「これくらい大した手間でもありませんから。それでは皆さん、またドラグニアで会いましょう」


 足元の魔法陣が光り出す。いよいよドラグニアへ転移する時が来た。初めて体験する転移魔術とはどんな感じなのか、内心で結構ワクワクしている龍太だったのだが。


 その光が、唐突に消失した。

 消えた光は粒子となって、玉座の間の扉の方へと飛んでいく。


「すみません、アリスさん。まだその子たちをドラグニアへ行かせるわけにはいかないんです」

「あなたはっ……!」


 その場の全員が視線を向けた先。そこに立っていたのは、左目だけを橙色に輝かせ、伸ばした手の先で魔法陣を広げている青年だ。その隣には

 大きな白い狼が。青年の背丈と同じくらいの大きさで、鋭い眼光が室内の人間たちを睨んでいる。


 光の粒子は、彼の広げた魔法陣へ吸収されていった。もう片方の右手には、明らかに龍太の世界のハンドガンが握られている。


 間違いない。龍太は彼にも見覚えがある。昔、あの公園で、ルーサーと思わしき少女と一緒にいた少年だ。


 突然の登場で、誰もが驚愕と困惑に包まれ動けない。それが最も大きいアリスは、この一瞬で思考を巡らせたのか、苦々しい表情を浮かべていた。

 そんな中真っ先に動いたのは、ジンだった。


「君は列車の中で手を貸してくれた、聖獣使いの魔導師じゃないか」

「ええ、その節はどうも。あの時は僕も助かりました」


 ニッコリと親しげな笑顔。列車での件でジンが助けられたという聖獣使いは、間違いなく彼なのだろう。だが、今の状況との辻褄が合わない。

 そもそもあの手に持っているハンドガンは、明らかに龍太の世界のものだ。

 グロック18C。撃鉄が露出していないあの独特な形状は、たしかそのような名前の銃だったはず。つまり、彼もまた異世界人ということになる。


 青年はジンから視線を外し、一瞬だけ龍太を見て、アリスを見る。


「お久しぶりです、彼方(かなた)有澄(ありす)さん。僕のこと、覚えてますかね」

「当然ですよ、丈瑠くん。その名前で呼ばれるのも十年ぶりですね。それにしても、どうしてあなたが……」

「魔導収束を使えるのか、ですか? それとも、どうしてここにいるのか? どちらにしても答えは同じです」


 魔導収束。ハクアのライフルにも使われている、周囲の魔力を吸収する魔術。

 光の粒子となった魔力を吸収し終えた魔法陣が消える。アリスが転移に使おうとしていた魔力。龍の巫女の力を吸収した彼からは、とてつもない魔力の圧が放たれている。

 ただそれだけで、この場の全員へ対する抑止力となっていた。


「今の僕の全ては、朱音のためにある。魔術を覚えたのも、ここに来たのだって、全部あの子のためだ」


 青年の強い宣言の直後、天井の一部が爆発と共に崩落した。瓦礫と煙に紛れて降り立つのは、烏羽色の髪を靡かせる女性。

 もう随分と見慣れた立ち姿は、しかしこれまでと違い、仮面を外して素顔を晒していた。


 やはり、龍太の記憶にある少女と同一人物だ。年相応に成長してはいるものの、その美しい顔立ちは見間違えない。


 そして、彼女の名前もまた、龍太は知っていた。住んでいた街では、ちょっとした有名人だったから。


「桐生朱音さん、だよな」

「その通り。我は……いや、私は桐生朱音。覚えてるかな、赤城龍太くん。昔はよく公園で遊んであげてたんだけど」

「覚えてるよ……」


 覚えているからこそ、龍太は困惑する。あの頃は本当に、まだ幼かった龍太たちの面倒をよく見てくれていた。彼女は街にある少し有名な探偵事務所に住んでいたから、親も安心して彼女らに子供を預けられていたのだ。


 なのにそれが、どうして今になって、命を狙われることになるのか。


「どういうつもりですか、朱音ちゃん」

「ごめんなさい、有澄さん」


 どうやら朱音は、アリスとも知り合いらしい。アリスの声は悲しげな色を帯びていて、それでいてどこか気遣わしげだ。


「あなたのこの世界での行いは、蒼さんからも龍太くんからも聞いてます。そっちの世界で、なにがあったんですか?」

「……迷惑をかけてることは承知してますが。その上で、あなたには邪魔をしないでもらいたいんです」

「そんなの……事と次第によっては、邪魔させてもらいますよ」

「やめておいた方がいいと思いますが」


 どこからともなく杖を取り出したアリス。だが彼女は、それ以上動くことを許されなかった。いつの間にか、気配も察知されずに、何者かがアリスの背後を取っていたから。


「朱音ちゃんの言う通り、やめておいた方がいいんじゃないかな?」

「桃さん……!」


 黒霧桃。つい一昨日、ちょうどこの場所に現れた女性だ。桃は先端が桜の花を模した杖を持ち、アリスへと突きつけている。

 龍の巫女であり一国の王妹でもあるアリスに、杖を向ける。その意味は龍太でも理解できる。恐らくは桃だって、理解した上での行動なのだろう。


「わたしと有澄ちゃんが戦えばどうなるのか、分かってるでしょ? 今度は玉座の間どころか、この国全部壊れちゃうかもね」

「桃さんまで、どういうつもりですか」

「別に? 親友の娘が、大事な友達が困ってるんだから、手を貸すのが普通じゃん。それに、有澄ちゃんにはやってもらいたいことがあるし。わたしも手伝うからさ」


 桃に何事か耳打ちされて、アリスの顔が驚愕一色に染まる。そんな、と小さな呟きが漏れて、今にもその場に頽れそうだ。


「そう言うわけだから、アリスちゃんには今からわたしと、あっちに向かってもらうよ」

「アリス様!」

「はいストップ、お前らも動くなよ」


 ドラグニアの魔導師がアリスの元へ駆けつけようとしたが、それを遮るのは緋色の桜だ。そこから現れた男、黒霧緋桜が、牽制するように魔導師たちを睨んでいる。


「悪いな、今回は誰にも邪魔させるわけにはいかないんだ。可愛い可愛い後輩の頼みなもんでな」


 誰一人動けない。突如現れたルーサー、桐生朱音とその一味によって、龍の巫女すら含めた全員が瞬く間に制圧された。それも、一切の戦闘を行わずに。


「それじゃあ朱音ちゃん、わたしは有澄ちゃんとあっちに行ってるから、終わったらまた連絡するね」

「お願いします、桃さん。もし本当にどうにかできるなら、それに越したことはありませんので」


 なんの話をしているのかは全く理解できない。それはハクアも、ジンもヒスイも同じなのか、それぞれが呆気に取られている間に、桃はアリスと共に姿を消した。

 ドラグニアの魔導師たちが一層慌て始めるが、緋桜が立ち塞がるせいで下手に動けないでいる。


「なにが狙いなんだよ、あんたら……」

「なに、と聞かれても、今までと同じだよ。あなたの命を奪いに来た。私たちの未来を奪った、その復讐のために」

「んなこと知らねえよ! 俺はただの高校生で、魔術も魔導も、なにも知らなかったんだぞ! それに、あんたには昔世話になったんだ。そんな人を敵に回すような真似するかよ!」


 そもそもの疑問。根本の部分で、龍太はなにも理解できていない。

 こうしてルーサーの正体が判明しても、その目的が全く分からないのだ。なぜ龍太の命を狙うのか、復讐とはどういう意味なのか、ルーサーの、朱音の身に何が起きたのか。


「せめて、事情くらい話してくれよ。そしたらなにか、他に道が見つかるかもしれないだろ! 俺たちが、あんたの力になれるかもしれない!」

「話す必要はない。前にもそう言ったよ。あなたを殺して、赤き龍を殺す。それで全ては解決するんだ」

「この分からず屋が……!」


 朱音は懐から仮面を取り出し、手元に大型の拳銃を出現させる。

 そして仮面を被り、力ある言霊を告げた。


位相接続(コネクト)、ドラゴニック・オーバーロード」


 彼女の体を包むように光の柱が聳え立ち、拳銃が七つのパーツに分離して、柱の周囲を飛び交う。

 光が晴れて現れるのは、銀のラインが入った漆黒のロングコートを纏う敗北者(ルーサー)。七つのパーツのうち、四つが彼女の右腕に装着され鎧を形成し、残りの三つは右肩の後ろで片翼となる。


 初めてルーサーと遭遇した時に見せた、恐らく彼女が持つ最強の力。


「ハクア!」

「ええ、やりましょうリュータ!」

「「誓約龍魂(エンゲージ)!!」」


 対するは、光の球体から現れる純白の戦士、バハムートセイバー。

 ルーサーは腰から抜いた刀の切先をこちらに向けて、その胸に秘めた激情を叫ぶ。


「これが最後だ、魔王の心臓(ラビリンス)。私の全てを使って、今日ここで終わらせる!」

『やれるものなら!』

「やってみやがれ!」


 つい先日は、同じこの場所で隣に並び立った純白と漆黒が、激しくぶつかった。

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