学園祭、開幕 3
龍太とハクアが巨大な怪物と戦っている一方で、その他の島でも状況は動いていた。
サラマンダー島に現れたスペリオルの尖兵、ダストを自慢の筋肉と大剣で蹴散らすジンは、その背後に十数人の非戦闘員を庇っている。
いくらドリアナ学園とはいえ、そこにいる全員が戦える魔導師というわけではない。普段はウンディーネ島の店で働いているスタッフなんかが代表的だ。
料理人は料理人でしかないし、戦う手段も方法も持っていない。
あるいは、魔導師であっても研究職に就いている者であれば、戦えないのも珍しくはない。
サラマンダー島には、そういった非戦闘員が特に集まっていた。そもそもこの島の催し物は、ほとんどが魔導を戦闘方面に使ってのもの、つまり魔術がメインになる。
自分たちでは戦えないけれど、そういった刺激を求めてやってきた人たちがいたのだ。
「いい加減しつこいな!」
一体一体の強さはそうでもない。龍の巫女が率いるギルドに所属できるだけの実力を持ったジンであれば、容易に倒せる相手。百体来ようが負けることはないと、自信を持って言える。
しかし、背後に守るべきものを庇いながらであれば、話は違ってくる。
一歩も後ろへ通すわけにはいかず、こちらから打って出ることもできない。得意の重力魔術を巧みに使って敵を圧し潰し、乗り越えてきた敵を斬り伏せ、殴り砕き、それでも数が減っているように見えない。
頼れるパートナーがいてくれればよかったのだけれど、残念ながらクレナとは別行動中。彼女はクローディアの案内を任され、ジンは臨時とはいえ教師として会場の見回りをしていた。
龍具を発動するか? そうすればひとまずこの場は切り抜けられるし、後ろの人たちを非難させることができる。
いやしかし、まだ状況がいまいち掴めていない。第二波があってもおかしくはない。
当然ながら龍具も無尽蔵に発動し続けられるわけじゃないし、手札の切り方には慎重にならなければ。
そうしてしばらく戦い続けていた時だった。
体力にも魔力にも余裕はあるが、気力が少しずつ削がれ始めてきた、その時。
「熾天連なり矛となれ! 権限解放、第一封印解除!」
聞き慣れた声と詠唱。
直後、炎の砲弾が濃密な弾幕となって上空から降り注いだ。
「堕ちし者に煉獄を!」
瞬く間に一掃。いくつものクレーターを作り、半ば地形を変えてしまうほどの威力の魔術は、天空都市ケルディムの主武装による砲撃。
それを自由に扱える権限を持つのは、ジンのパートナーをおいて他にいない。
「クレナ! ようやく来てくれたか!」
「なにてこずってんのよ筋肉バカ! いつまでもここにいる場合じゃないわよ!」
「待て、彼らを避難させてからだ!」
クレナの口振りからするに、多くの場所で襲撃は起こっているのだろう。いくら龍の巫女がいるとは言え、ジンも重要戦力に数えられている。そんな彼がいつまでも足止めを食らうわけにはいかないと、クレナはそう言いたいのだろうが。
だからと言って、襲われている人たちを助けないわけにはいかない。ギルドの魔導師としても、ヒーローの友人としても。
「分かってるわよそんなこと。シオリ、聞こえてるわね⁉︎」
『もちろんだとも。座標は把握した、私に任せてくれ』
学園長から魔術通信が届いた直後、ジンが守っていたその全員が、音もなく消えた。
小鳥遊栞の時空間魔術だ。目視できる場所におらず、座標の取得のみ。しかも複数人を一気に転移。誰にでもできる芸当じゃない。そもそも時空間魔術はどれも高難易度の魔術だ。
さすがは学園長というべきか、あるいは異世界人ならこれくらい出来てもおかしくないと思うべきか。
「それで、俺たちはどこに向かえばいい? なにせ龍の巫女が四人もいるんだ。本当に俺たちの出番があるか疑わしいくらいだぞ」
『安心してくれ、君たちにピッタリの戦場を用意してある』
「リュウタとハクアを助けに行くわよ」
「よし、すぐに送ってくれ学園長!」
即答すれば、通信越しに苦笑する気配が。
詳しいことはなにも聞いていないが、しかしなるほど、自分にピッタリな戦場ではある。龍具を温存しておいてよかった。
この力は、友の盾となるためのもの。
あらゆる障害から、仲間を守るためのものだ。
◆
オープニングライブを終えて一息ついていたローラは、ろくに休む暇もなく襲撃の対処へ出ることになってしまった。
疲れているのに、なんて弱音は吐けない。ローラは龍の巫女で、この世界の秩序と平穏を守るものとして戦わなければならないから。
「ふぅ……」
などと気張っていたけれど、正直拍子抜けだ。
ローラの目の前には、バラバラに破壊された機械、スカーデッドの残骸が転がっている。悪魔がどうとか言っていたから、朱音から聞いていた、異世界の悪魔の力を宿したスカーデッドだったのだろうけれど。
龍の巫女に敵うわけがない。戦闘が始まってわずか十秒足らずでスクラップと化した。
しかし、こいつ一体を倒しただけで終わりなわけがなく。ローラがいる校庭の仮設ステージ周辺では、生徒や教師がダストとの戦闘を続けている。
その手助けをしなければと思っていたら、戦っている生徒たちの何人かが、こちらに声を上げた。
「ローラ様! こいつらは我々に任せて、他の場所をお願いします!」
「スペリオルの雑兵程度なら、俺たちでも余裕がっすから!」
「みんな……」
気持ちはありがたいのだけど、いくら学園の生徒が優秀で、教師がギルド所属の魔導師レベルと言っても、数の暴力には勝てない。
それこそ、龍の巫女並みの個人戦力でないと。
ドリアナ学園はマンモス校だ。生徒と教師を合わせれば、その数は千を超える。その上現在は学園祭の真っ最中。学園外からも戦える魔導師は来ている。
しかし、ダストはそれを上回る勢いで襲ってきたし、魔導師は一箇所に集まっているわけでもない。
ローラがこの場を離れると、果たしてどれだけの時間持ち堪えられるか。
逡巡していると、ローラの横を稲妻が迸った。戦っている生徒や教師の間を綺麗にすり抜けて、敵だけを貫いていく。
「いいねいいね、敵がわらわらと集まってやがる! 暴れ甲斐がありそうだ!」
「クロ!」
稲妻と化していた体を実体化させたのは、敵のど真ん中。全方位に雷撃を放って、ダストを薙ぎ払う。
先日の件で彼の実力を知っているローラは、頼れる味方の登場に安堵する。そしてそれはローラだけでなく、他の生徒たちも。
「問題児一号が来たぞ!」
「全員離れろ! クロ・ルフルだ!」
「あのバカまたやらかすわよ!」
あ、あれ……? 思ったよりも歓迎してない?
嫌な予感がしてローラの笑顔が固まった瞬間だった。
クロが手に持つ二本の剣を、切先を交錯させて天に向けて翳したのは。
暗雲が立ち込める。さっきまで目が痛いくらいの青空だったのに、どこからともなく、黒い雲が現れる。
まさかとローラが思い至った時にはすでに遅い。戦っていた生徒たちはダストよりもクロを恐れて前線から距離を取り、その判断は実に正しかった。
翳した二刀目掛けて、雷が落ちる。
雷の力を宿した剣には、ローラですら目を瞠る魔力が宿っていて。
「天より轟け双刀雷鳴!」
その場で回転するように振り抜かれた二刀から、稲妻の斬撃が放たれる。クロを中心としてダストたちは次々と倒れ、動かなくなった機械の山が築かれる。
これが、天龍の眷属たる雷霆龍と、その龍具を十全に扱うパートナーの力だ。
『ローラ、聞こえているかな?』
「学園長!」
栞から通信が来て、暴れ回るクロを眺めながら答える。
『そこはクロとキャメロットに任せて、別の場所の応援に向かって欲しい。なに、心配はいらない。我が校の生徒はみな頼もしいからね』
たしかに、龍の巫女であるローラを一ヶ所の戦場に留めておくのは得策じゃない。他の場所でも戦闘は起こっていて、ここより酷い戦況もあるだろう。
ただし、ローラが指定されたのはそういった場所ではなくて。
『君の仲間たちが、ノーム島で戦っている。以前より懸念されていた、レヴィアタンが復活して現れた』
「じゃあもしかして、リュウタお兄ちゃんたちが……」
『その通りだ。ジンとクレナにはすでに伝えた。すぐに向かってくれるかな?』
「もちろんなんだよ!」
さっと視線を巡らせば、キャメロットを見つけた。彼女もこちらに気づいて、なにか察したように微笑んで頷いてくれる。
栞が言ったように、ここは任せても大丈夫なようだ。
「待ってて、リュウタお兄ちゃん。すぐに行くんだよ」
頼りになる姉貴分たちはいない。
でも、いつまでも頼ってばかりじゃいられない。ローラは龍の巫女で、この世界の最強のひとりなのだから。
アイドルとして、戦うヒーローの手助けくらいは出来るはず。
◆
海上に長い身体を露出させた巨大な蛇と、宙を舞う黄金の鎧の戦闘は苛烈の一途を辿るばかりだ。
バハムートセイバー ブレイバードラゴンが両手の銃から放つ魔力弾は、レヴィアタンの硬い鱗の上からもダメージを与えるけど。
海の上において、やつは無敵に近い。海水を自在に操り迫る攻撃は、その全てを躱せるわけじゃなくて。
「くっそ……! いてぇなオイ!」
『ハハハハハ!! その痛みこそ、我らの戦いの証! 楽しめないようではまだまだだな、バハムートセイバー!』
『楽しめるわけがないでしょう!』
長く鋭い尾が振り回されて、両腕を交差させて受け止める。弾き飛ばされて腕が痛みで痺れる。ブレイバードラゴンは現状で龍太たちの持つ最大戦力だが、やはりカートリッジを使ったレヴィアタンを簡単に倒せるわけがない。
慣れていない空中戦ということもあって、想像以上に苦戦してしまっている。
などと考えている間にも、音速で飛来する水の弾丸や超高水圧のレーザーが飛んできて、体の主導権を預かるハクアが巧みに躱す。
『リュータ、空中戦になるとやっぱりわたしたちが不利よ!』
「だったら、足場を作ればいいだけだ!」
『Reload Niraikanai』
左手の銃にカートリッジを装填。海へ向けて引き金を引く。
『どこを狙っている!』
「狙い通りだよ!」
弾丸が海の底へ沈むと同時に、海面は瞬く間に氷の大地へと変わった。そこへ着地し、しっかりと踏ん張りのきく地面を蹴った。
氷に身動きを封じられたレヴィアタンは、海中へ逃げることも叶わない。炎の宿った右の拳で、硬い鱗を思いっきり殴る。
「おらぁ!」
『ぐうぅぅ……! さすがはホウライの力、中々の威力だが!』
「うぉっ!」
広がった氷の大地が割れて、間欠泉のように海水が噴出した。そこにすらレヴィアタンの魔力が込められているから、当たればダメージは免れない。
咄嗟に飛び退く。氷は割れたが、海に浮く氷塊は足場として最低限の機能を残している。
しかし、どう攻めたらいいものか。ダメージは通っているみたいだが、それでもやつの硬い鱗は厄介だ。あれをどうにか突破するには、やはりエクスキューションのカートリッジを使うしかないけれど。
外したらそこまで。しかも倒しきれなかったら。その後のことまで考えれば、迂闊に使うのも憚れる。
と、その時だ。バハムートセイバーの頭上に影が差したのは。
ハッとして見上げると、そこには見覚えのあるドラゴンが飛んでいた。
『熾天連なり剣となれ! 権限解放、第二封印解除! 猛き者に祝福を! さあ、ぶちかましなさい筋肉バカ!!』
「任せろ! 龍装結合!」
ドラゴンの背中から飛び降りるのは、巨漢の男。龍具を起動させて紅蓮の鎧を纏い、手に持つ大剣は天空の祝福を受けて光り輝く。
蛇の胴体目掛けて振り下ろされた大剣は、バハムートセイバーの銃撃を弾いていた鱗を何枚も削る。怪物の悲鳴が上がって、バハムートセイバーの眼前には鎧の戦士がもう一人降り立った。
「待たせたな、リュウタ!」
「ジン!」
『クレナも、よく来てくれたわ!』
『私たちだけじゃないわよ』
龍の姿に戻ったクレナが、空中で地上、滑走路の方へ首を向けた。
そこには、槍を携え魔力を練り上げる、緑髪の少女が立っている。
「ドラゴニック・オーバーロード!」
跳躍と同時に唱えるのは、最強を顕現させるための言葉。
少女、ローラ・エリュシオンの華奢な身体は光に包まれて、次の瞬間には巨大な翼のないドラゴンが、海の上に立つ。
これまでに見たどのドラゴンよりも巨大な深緑の身体と、鋭く立派な二本の角。
龍神エリュシオンは、可憐な少女からは想像もできないような逞しい身体で、海の上に立っている。
『龍の巫女……! フェニックスどもはなにをしている⁉︎』
『えいっ!』
可愛らしい掛け声とともに、巨大が海を揺らしながら駆ける。二本の角は容易く鱗を貫いて、レヴィアタンは耳をつんざく悲鳴を上げる。
「ローラ! ……だよな?」
『不安にならないで! ちゃんとローラなんだよ!』
『そういえばリュータは、龍神をちゃんと見るのは初めてだったわね』
ともあれ、これで全員集合。
頼りになる仲間たちが来てくれたのだ。これで負ける気がしない。勝利のイメージしか湧いてこない。
『リュータ、バハムートセイバーの制限時間も近いわ!』
「よし、ならさっさと決着をつけようぜ!」
『そう簡単にやられてなるものかァ!!』
レヴィアタンの口元に、複雑な魔法陣が広がる。強力な一撃の前兆だ。
それを受けて立つのは、仲間たちの盾を自称する紅蓮の鎧。両肩のシールドを前面に展開し、龍太たちの前に立つ。
「ドラゴニック・オーバーロード!」
龍具に魔力を逆流させたジンは、氷解の上にシールドの底にあるアンカーを突き立てる。
半透明の城壁は、この世界の空を飛ぶ天空都市のもの。あらゆる災厄を退ける、絶対の守り。
『龍の巫女もろとも、ここで消し去ってやる!』
「遥か遠き龍の居城!!」
放たれたレヴィアタンのブレスは、ジンが展開した城壁が容易く受け止めた。ヒーローを守るための盾はなにものも通さず、そして彼のパートナーたる都市の守り手は、この隙を見逃さずにレヴィアタンへ肉薄していた。
『熾天連なり牙となれ!』
『なにっ!』
『権限解放、最終封印解除!』
クレナの口からは炎が溢れて、自身よりもよほど大きな体に組みつき、そのまま牙を突き立てる。
天空の国ケルディムの防衛機構、全ての権限を預かるクレナ。その中でも最強の力はなにか。答えは簡単で、都市の守りを任せれたドラゴン自身が、最強の守りとなる。
『万物を堕とす龍の鉄槌!!』
牙を突き刺した場所から、全身へ。火砕龍フォールンの炎が内側から蛇を焼く。
いくらレヴィアタンの鱗が強固だろうと、その内部を焼かれてしまえば無意味だ。
『まだだッ、この程度でやられてなるものかァァァァ!!』
周囲の海が、渦を巻く。レヴィアタンの怒りに呼応して、水がうねりをあげる。
がむしゃらにも思える攻撃。その悉くを一身に受けて、しかしひとつのダメージもなく弾き返しながら進撃するのは、最強たる龍の神。
『チェックメイトなんだよ』
エリュシオンの太い右腕が勢いよく振るわれる。蛇はその衝撃に耐えることもできず頭上から叩き伏せられ、続け様に木龍の巨体から伸びた枝が、レヴィアタンの長い身体を縛り上げ、その全身を海上に浮かせる。
「決めるぞハクア!」
『ええ!』
『Reload Execution』
『Dragonic Overload』
背中に風の翼が伸びて、宙へ飛び上がるバハムートセイバー。腕のガントレットが分離、変形して足に装着され、全身を紅いオーラが包む。それだけじゃない。炎、水、木、風の龍神、それぞれの力すらそこに宿り、全てが右足一ヶ所に収束した。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
爆発的な勢いで、黄金の鎧が弾丸のように突き進む。レヴィアタンの額に蹴りが直撃。
『なぜだッ、なぜ、我らは我らの正義のために戦っているというのに……!』
「それを他人に押し付けんな!」
『あなたたちの正義は、他の人たちから見たら悪でしかない! 盲目的に、自分で考えることもなく信じた結果よ!』
「ましてや罪のない誰かを傷つけるようなものを、俺たちは正義だなんて認めない!」
『おのれバハムートセイバー……! 我らが王よ、どうかこの者たちをッ……!!』
パキン、と。たしかにカートリッジを蹴り破る感触と共に、レヴィアタンの額を貫通。大爆発が起きて、機械の体はスクラップとなって海に落ちていった。
「はぁ……はぁ……」
『やっと、倒したわね……』
氷解の上に着地して、全力以上の一撃から肩で息をする二人。
しかし、倒した。今度こそ、たしかにトドメを差した感触があった。
幾度も辛酸を舐めさせられたスカーデッド、レヴィアタンの討伐は、ここに成されたのだ。
「おめでとう、バハムートセイバー」
不意に、背後から声がした。
勢いよく振り返った先、すぐそこに。
誰かが、立っている。
「まさかここまで成長しているとは、想像以上だ。そして、期待以上でもある」
「お前はっ」
『まさか……!』
その顔を見て、驚愕の声を上げる二人。
だが驚くバハムートセイバーに構わず、その男は仮面を鷲掴みにする。
「がッ……」
ギチギチと、嫌な音が鳴る。
握力だけで仮面を割らんとする勢いだ。
あり得ない。どうして、なぜ。
頭の中に浮かび上がる疑問は、痛みに上書きされて消えていく。
「リュウタ!」
『何者か知らないけど!』
『その手を離すんだよ!』
「動くな」
たった一言。
ジンもクレナも、龍の巫女であるはずのローラですら。
男の一言だけで、身動き一つ取れなくなる。
なにかの魔術や異能ではない。いっそそうであってくれた方がよかった。けれど男がしたことは、ただ言葉を発しただけ。それ以上でも以下でもなく、言葉に込められた魔力と圧だけで、仲間達は身動きを封じられたのだ。
『赤き龍、ディストピア……!』
苦しげな声でハクアが放った言葉に、仲間たちに背を向けている男の片眉が吊り上がった。
そう、こいつは三人に顔を見せていない。
「よく分かったな、ハクア。なら、この後どうなるのかも、想像できるだろう?」
『やめて……どうしてあなたが……!』
「その問いに答えるつもりはない」
一蹴して、鷲掴みにしている腕を介し、なにかの力が流れ込んでくる。
これはまずい。直感してもがく龍太だが、男の腕は剥がれない。それどころか、鎧が端から徐々に赤銅色へと変色していって。
意識が、だんだんと遠くなる。
「さあ、見せてもらおうか。この赤き龍の力、貴様らがどこまでモノにしているのか」
「まずっ、みんな、逃げ──」
言い切る前に。
もがいていた両腕がだらんと垂れ下がって。
鎧の全身が、赤銅色に染まる。
意識と体が切り離される。
バハムートセイバーを捕らえていた男はすぐにどこかへ消えて。残されたのは未だ動けない三人と、強制的に力を送り込まれ、また引き出されてしまった赤銅色の鎧。仮面の瞳は銀に染まっていて、そこに二人の意思は感じられない。
『Reload Execution』
『Eclipse Overload』
『ジン、城壁もう一回! クレナは第二封印解除して! 来るよ!』
真っ先に我に帰ったローラの指示が飛ぶ。
が、一歩遅かった。
暴走させられたバハムートセイバーは、すでに龍神の懐に入り込み、その弱点、逆鱗目掛けて拳を構えている。
『あっ……』
「ローラ!」
真紅のオーラを纏った一撃が、木龍の巨体を容易く弾き飛ばす。オーバーロードを強制的に解除させられて少女の姿に戻ったローラが、地上まで吹き飛ばされた。
立ち上がる気配がない。気を失っている。かと思えばすでにジンの元へ肉薄していて、シールドを展開する暇もなく鳩尾に蹴りが。氷解の上に沈む巨漢。クレナがそれを視認したかと思えば、脳天に衝撃が。海の底へ落ちる。
三人の仲間を一瞬で戦闘不能にして。
赤銅色の鎧は、次の獲物を探しにいく。
敵味方を問わず、ただ、全てを倒すために。