第三章 パンドラの箱
このお話は、『パンドラの箱』についてのお話です。
昔々、子供しかいない世界がありました。
その世界の子供達はいつも笑顔で優しく、とても好奇心旺盛な子供ばかりでした。
中でも特に好奇心旺盛な男の子がおりました。
彼は子供達の中で、みんなのリーダーのような存在でした。
遊んでケガをしても泣かずに笑い、新しい発見があれば、すぐにみんなに知らせ回りました。
とても行動力のある子供だったのです。
なので、新しい遊びや笑い声の中心には、いつも彼がいました。
そんな好奇心旺盛な彼の耳に、不思議な噂が入りました。
ある女の子が言ったのです。
「ここから少し東に、誰も住んでいないお城があるの。そのお城には、とても綺麗な黄金の箱があるんだって」
それを聞いた男の子は、見たくて見たくてたまらなくなりました。
しかし、女の子は声を低くして続けます。
「でも、決してその箱を開けてはいけないのよ。箱を開ければ闇がくる。私達に悪魔が取り憑くのよ」
男の子はそれを聞くと、余計にその箱を見たくなりました。
溢れる好奇心を抑えきれず、ついに男の子は東のお城に足を運んでしまいました。
お城は想像を覆すほど美しく、力強く建っておりました。
男の子はいそいそとお城に入ると、箱を探します。
お城は思ったよりも広く、長い時間が経ちました。
この頃の世界には夜がなかったので、日が落ちることはありませんでした。
疲れ果てた男の子は、諦めて帰ろうとしました。
太陽の光がお城の中に、スゥーっと入りこみます。
男の子はふと、一つの部屋を覗きました。
眩しい太陽の光が、部屋中に反射して、とても美しく輝いています。
そして光の中心には、黄金に輝く、とても美しい装飾のされた箱がありました。
男の子は息を呑みます。
『決して開けてはならない箱』
開けてはならない。
その言葉が、男の子の好奇心を刺激します。
男の子の目の前には、開けてはならない箱が、挑発するように輝いて置いてあるのです。
男の子は箱に手を掛けました。
それだけで、どんどん幸福感に満ち溢れてきます。
ドキドキと心臓は高鳴り、新しいことの発見をするときの楽しい気分になりました。
男の子は我慢出来ず、ついに箱を開けてしまいました。
幸福感の次にきたのは、絶望という感情でした。
箱を開けてから、少し経つと、日が傾き始めました。
太陽は音もなく沈み、外に女の子の悲鳴が鳴り響きました。
世界が突然、闇に包まれたのです。
男の子は慌てて箱を閉じましたが、すでに手遅れでした。
箱から手を離し、外を見てみます。
お城からは、子供達の様子がよく見えました。
闇に驚いた子供達は、大パニックでした。
更に箱から出て行った黒い悪魔達が、子供達を襲っています。
ある子供は、体がどんどんと成長し、やがて枯れ果て倒れます。
ある子供は、あまりの恐ろしさに泣き叫び、悪魔に渡された刃物を振り回します。
ある子供は、ショックで突っ立っています。
男の子は体を震わしました。
自分がしてしまった罪の重さが、押し潰れるくらいのしかかります。
男の子は絶望し、箱を見つめました。
箱は光っています。
男の子はフラフラと箱の元に行くと、もう一度、箱を開けてみました。
箱の底に、光るものがあります。
男の子はその光を浴びると、少しだけ心が楽になりました。
哀れな子供に与えられた最後の光。
それは希望という名の光でした。