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第二章 違和感



幼い頃、



お父さんとお母さんを亡くした私は、



ただ何も知らずに



何も考えずに生きてきた。








太陽が顔を出し、国全体を光が照らす。

それが合図のように、町の人々が動き出し、国が働き始めた。



国の真ん中にあるお城にも、太陽の光は届く。



「ん……」



アリスは真っ白なベッドの中で、眠りから覚めた。

体をゆっくりと起こし、大きく伸びをする。


それと同時に、部屋のドアがコンコンと軽い音を鳴らす。



「はぁい、どうぞ」



アリスがそう言うと、かちゃりと音をたてて、ドアは開いた。

そこにいたのは、クロウサギだった。


クロウサギは、まだベッドの中にいるアリスを見て、無表情のまま言った。



「あ……、時間」



そう言われ、アリスは初めて天井にある大きな時計を見上げた。

そして驚いた声を上げる。



「わっ!こんな時間!!」



クロウサギはドアの前で、その様子をじっと眺めている。


アリスは一度クロウサギを見てから言った。



「ごめん!先に行ってていいよ!私後から行くから!」



慌ててベッドから降り、服を着替え始めるアリスに、クロウサギは言った。



「待ってるから」



そして、部屋を出た。


どうやら、部屋の前で待ってくれるらしい。


アリスは少し微笑んだ後、大急ぎで支度をした。







不思議の国には、今と同じように学校という施設があった。

もちろんそれも、大人達が作り上げたものだ。



アリスとクロウサギは、お城から一番近く、一番大きな学校に通っていた。



敷地面積は広く、約1000人ほどの子供達が通っている学校だ。



学校の鈴が、美しい音色を奏で始める。

そして同時に、アリスとクロウサギが学校の中の、AKという看板が立てられた教室に飛び込んだ。



「ギリギリだよね!?」



アリスはゼェゼェと、息を切らしながら、教室の真ん中に座っている女の人に聞いた。



「ギリギリとしておきましょう」



女の人は言った。

それを聞いて、アリスは力が抜けたように、へなへなと地面に膝をつけた。



「こらこら、アリス。服が汚れてしまいますよ」



女の人は小さく笑いながら、アリスにそう言う。


優しそうな顔立ちの若い女の人だった。


アリスは誤魔化すように笑うと、ゆっくりと立ち上がった。



「はい、サリア先生」



アリスは言った。

クロウサギはその後ろで、じっと様子を見ている。


サリアと呼ばれた女の人は、クロウサギに笑顔を向けた。



「あなたも早く席に着きなさい」



「……はい」



クロウサギは素直に返事をして、用意された二つの並んだ机の内、右に座った。






この学校の授業方針は、個別であった。


それぞれ担当の先生がつき、それぞれに合わせた授業をやっている。


アリスは入学した時から、サリアが担当としてついていた。



授業の最中、アリスはサリアに質問を投げかける。



「先生、この世界はいつから日が沈むようになったのですか?」



いつもと同じように、サリアは答える。



「今から約5000年ほど前からよ」



「どうして日が沈むようになったのですか?」



「それは、先生にもわからないわ」



サリアは困ったように投げ返した。

アリスは続ける。



「この世界は昔は子供しかいなかったんですよね?」



「ええ、そうよ」



「じゃあ、子供は永遠に生き続けることが出来たのですか?」



アリスの質問に、サリアは首を傾げる。



「今日は随分と難しいことを聞くわね……。そうね、昔読んだ本にはこう書いてあったわ。『子供達だけの世界に、大人はいらなかった』って。きっと、子供達には永遠の命があったんじゃないかしら」



「いつからそうじゃなくなったんですか?」



その質問にサリアは、もっていた分厚い教科書を開いた。

数回めくったところで手を止め、一枚の写真を見せる。



「『パンドラの箱』のお話は前にしたわよね?絶対に開けてはいけない箱を、開けてしまった子供のお話。国の……いえ、世界の古い歴史のお話よ?」



「ええ、知ってます。本当のことなのでしょうか?」



更に質問を投げるアリスを見て、サリアは小さくため息をついた。

パタンと教科書を閉じると、アリスの目を見て言った。



「アリス……、あなたは大人が嫌いなの?大人なんて消えてしまえばいい、と思ってるの?」



「……いえ、私は『パンドラの箱』に少し興味があっただけです。一度、先生に聞いてみたくて」



アリスは幼い笑顔を見せながらそう言った。

サリアはそれを見て、アリスを両手で抱きしめる。



「アリス、私は箱を開けた子供に感謝をしているわ。だって、箱を開けなかったら、先生はアリスとこうして出会えなかったのよ?」



「……私も感謝してますよ」



そう言ったアリスの表情は、悲しくて泣きそうだった。

抱きしめているサリアには見えない、その表情は、クロウサギしか知らなかった。




授業が終わり、アリスはクロウサギと並んでお城に向かう。

クロウサギは相変わらず無口で、その日はアリスも口を閉ざしたままだった。



アリスは周りを見渡す。



太陽はまだ高いところにあって、国はとても明るかった。


アリスは呟く。



「『パンドラの箱』には、絶望や悲しみ、欲望などが入っていた」



クロウサギは黙って、その呟きを聞いていた。



「それを開けなければ、ここはただの夢の国だったのにな……」



「……夢」



クロウサギはその言葉に、何か違和感を感じた。








不思議の国は、すでに夢の世界ではなかった。



クロウサギは、そこに変な違和感を感じたのだが、結局それがなんなのかわからないまま、アリスの後についていった。





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