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空賊姫は受けた屈辱を必ず雪ぐ  作者: 山極 由磨
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 気嚢内の浮素が急速冷却され一気に浮力が落ち重力につかまる。

 舵を操り気流に乗せて方向を変える。

 そしてアゲハ号は舟底を完全に天に向け、敵船団後方へ向け急降下を開始する。

 全幅46メートル、重さ550トンのアゲハ号が宙返りをしたのだ。

 重力に従い頭に血が流れ込むのを感じながら、ユロイスは。


「船長!75ミリ砲の使用許可を!」


 強烈な荷重に悶えながらもアゲハはすぐさま応じた。


「許可する!ブチかませ!」


 舵を操りながらレバー類を操作する。

 砲門を開け、初弾を装填し、照準器を起こす。

 そして、浮かび上がる十字線の向こうに最初の的に成る敵船が現れるのを待つ。

 サソリ空賊団がアゲハ号の意図に気付き、速力を増して振り切ろうとするが船団を崩すことは無い。

 必殺の武器である噴進弾は撃ち尽くした。そしてそもそも後ろの敵は狙えない。機銃による弾幕で退けようと言うつもりなのか?

 宙返りが完了し追われていたアゲハ号は追う側に回る。

 発射ペダルに嚙まされている安全装置はユロイスのつま先で解除された。

 1隻が照準器に捉えられ、彼の頬が残酷な笑みに歪むころ、完全に十字線の中心に収まった。

 船団中央に居る内の1隻。おそらく団長のボール・ギャグが乗り込む旗艦だろう。

 躊躇なく発射ペダルが踏み込まれる。

 発射薬が点火され、主力戦車を一撃で破壊する威力を秘めた75ミリ徹甲榴弾が放たれる。 

 船体を機関砲では味わう事は無い反動が襲い、バランスを守るため操縦桿が引かれ、バシリスによりエンジンの回転数が高められる。

 砲口から叩きだされた砲弾は、秒速500メートルで飛翔し的の船体にめり込んだ。

 船尾の構造を叩き壊し、貨物室に飛び込んだ砲弾はそこで炸裂。

 超高温の燃焼ガスと無数の破片が乗員もろとも船内を焼き払い切り裂き破壊しつくし文字通り木っ端みじんにして空中に残骸をばら撒く。

 事態をやっと認識した生き残りの5隻は、兎も角機銃を撃ちまくり算を乱して散り散りに逃げ始める。

 だが、獣性を心のうちによみがえらせたユロイスは辺りを付けた1隻に狙いを定め追い回し、狙いを定めて砲弾を撃ち込む。

 2発のうち1発のエンジンを収めた右弦檣楼うげんしょうろうが1撃で破壊され、とどめのもう1発で中央檣楼ちゅうおうしょうろうもへし折られ完全に浮力を失い真っ直ぐ海に向かって落ちてゆく。

 右方向から機関砲を撃ちまくりながら僚船を助けようと突っ込んでくる船に、右舷機関砲座のダチュレが35ミリ機関砲弾がぶち込む。

 まともに船橋に叩き込まれた砲弾は船長以下操舵士、機関士、気嚢士らを肉の塊と血の煙に変え船のコントロールを奪い去り、完全に上部甲板をこちらに向けてアゲハ号の正面を横切った瞬間に、とどめとばかりにユロイスが中央檣楼ちゅうおうしょうろうめがけ砲弾を送り込む。

 船体が真っ二つに引き裂かれ前後に分かれて雲間に消える。

 その間を『アゲハ号』がすり抜け、前方を必死に逃げつつ、左旋回でなんとかアゲハ号の後ろに回り込もうとする船を第4の獲物に定め照準を合わせペダルを踏む。

 砲弾は左舷の船体を貫き、片方の気嚢を完全に破壊し二分の一の浮力を奪う。

 半減した浮力をエンジンからの推力だけで補いなんとか逃げ切ろうともがく獲物に対し、両舷の機関砲から容赦ない砲弾の雨が降り注ぐ。

 右弦檣楼、右舷船体、中央檣楼、船橋。満遍なく隈なく機関砲弾が撃ち込まれ、4隻目も炎に包まれやがて爆発。船体の破片や生焼けの乗員が海面に降り注いだ。


「残り2隻、逃げてゆきますがどうします?船長」


 照準器にその内の1隻を捉えたままのユロイスがアゲハに問う。


「どうせ生かしても汚い方法で寝首を掻きに来るに違いないわ。後顧の憂いは絶っちゃおう」

「40センチ噴進砲を使いますか?」

「勿体ない、75ミリ砲弾の方が安いから引き続きお願い」


 返答を聞くなりユロイスはペダルを踏み込む。

 5隻目のエンジンが破片を散らして燃え上がり、すぐに船体全てに誘爆し四散する。

 全体を左方向に捻り挙げ更に逃げようとする最後の6隻目の船橋に狙いを定め砲撃。

 船主を吹き飛ばされた小銭船は、頭がもがれた亀のようにな姿で回転しながら滞空する。

 船首を巡らせ止めを刺す。放たれた最後の砲弾は中央檣楼に命中し船を真っ二つに割り、左右泣き別れになった船体は生きたままの乗員をばら撒きながら落ちて行き視界から消えた。

 緊張から解放され、深く長い溜息をついた後、ユロイスは安全装置を掛け、砲門を閉じつつ。


「船長、操船、お返しします」


 修羅場を切り抜けた虚脱感を味わいながらアゲハは。


「ヨーソロー、受け取ったわ。さぁアゲハ空賊団団員諸君、空賊島に帰るわよ」


 皆が安堵の表情を浮かべる中、チャタリだけが顔面を蒼白にして立ち上がり。


「厨房のお鍋、『お肉の香辛料煮込み』電気 烹炊ほうすい 器に掛けっぱなしでした」


 船橋の皆が一斉にチャタリを見つめる。

 小さくなる彼女にユロイスは。


「済まないチャタリ、今晩の献立聞いてたのに、それを忘れてた私の責任でもある。責任もって掃除するよ」


 力なく笑いながらアゲハ。


「まぁまぁ、厨房はみんなで掃除するって事で、今晩は腸詰と乾パンで我慢して島に着いたら軍艦鳥亭で美味しいもの食べようよ。ね」

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