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空賊姫は受けた屈辱を必ず雪ぐ  作者: 山極 由磨
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「ご注文を繰り返します!麦酒大瓶3本に熱燗1本、冷酒1本、麦火酒の炭酸割1杯に麦火酒の氷入り1杯、アンズ酒の氷割1杯に、あとはお茶を2つ、お料理は鳥のつけ焼き5人前と牛の臓物串焼きと豚の臓物の焼き串がそれぞれ10人前、揚げ芋5人前にトビウオの揚げ物3人前、イカのたれ焼き1人前イカの輪っか揚げが3人前、黒パンの魚卵乗せ1人前ですね!アリガトウございます!」


 と、店内に充満する客たちの嬌声や怒声に負けない、溌溂とした声で注文を復唱するのはリシニ・ジョロ。リシバの妹だ。

 三つ編みにした背中までの黒い髪、白目が美しい大きな目、小さく可愛い鼻、同じく整った形の小さくちびる、と、いかにも悪童といった感じの兄とは違い、マジメで利発といった風貌で、似ていると言えば小柄な体形と黒檀色の肌、そしてお尻から伸びるシャモジ状に先が広がった尻尾くらいなもの。

 この『軍艦鳥亭』に来る客の三分の一が彼女目当てに来ると言われるのもナルホドと思わせる愛らしさだ。

 因みに後の三分の一はこの店自慢の料理の味と全球各地から集められた酒類、そして、最後の三分の一が店を切り盛りする女将、エハナに引き寄せられている。


「リシニ!麦酒大瓶は4本って言っただろ!」


 との兄の講義にリシバの一喝が飛ぶ。


「兄ちゃんは未成年でしょ!お酒はダメ!」

「俺は空賊だ。法律なんかクソ喰らえだぜ」

「年季も成りも半人前だけどな、なれは」


 カッコよく切り返したつもりのリシバだったが、本日4本目の大瓶を開けご機嫌なダチュレの突っ込みに出鼻をくじかれ続いて。


「未成年の飲酒は成長を阻害すると言うのが医学会での共通認識だよ、チビのままで良いのかね少年」


 透明な酒精その物な麦火酒を、表情一つ変えず煽るエウジミールに追い打ちを掛けられ、最後に。


「たった一人の妹ちゃんの言う事は聞くべきだよぉ、リシバ君、色々言ってもらえる内が華なのよぉ、人生、孤独はねぇ、孤独はつらいのよぉ」


 最初のアンズ酒一杯で半ば出来上がり気味のチャタリに止めを刺され何も言えなくなる。しかし。


「身内からビシリと指摘されることほど腹が腹が立つことは無いわ!誇りとか矜持ってのがね!傷つくの!傷つくのよぉ!」

 

 残り少なくなった大瓶の中身を乱暴にコップに注ぎつつ、目の座ったアゲハが吼える。


「そ、そうっすよね船長!」

 

 十字砲火の中やっと助けが来たかと思ったリシバ。しかしアゲハは。


「でもね!未成年の飲酒はダメ!法律も医学会も関係無し!これは船長の命令!」


 言っていることがそろそろ支離滅裂になりかけたと判断したユロイスは、しょんぼりしたリシバを横目で見つつリシニに。


「もう行っていいよ。リシバには絶対に飲ませないから安心して」


 と囁き、一同を心配そうに見つめる彼女を安心させ厨房に向かわせた。


「それにしてもあの香水野郎!腸が煮えくり返るわ!拉致して生きたまま全身の生皮剥いで海に放り込んでやる!」


 豚のあばら肉の煮込みを齧りつつ、レイは。


「多分今回の件の絵を描いたのは依頼者じゃ無く壺を競り落としたカオ・タオモウの方でしょうね。なんせ保険金を受け取るのは彼でしょうから」


 徳利の首を持ち、おちょこに残りの酒を注ぎつつ、ほんのり頬を赤らめたバシリスが続ける。


「しかし船長。今回ばっかしは意趣返しするだけじゃアカンかもしれませんぞ、なんせ船の修理代が相当な額になりそうじゃ、チャナイの奴には支払いは待ってもらうとして、どうにかして稼がにゃならん」

「そうだそうだ!あがの借金も返さねば!それこそ売春街で股を開かねばならんようになる!船長!それでも良いのか?!」


 誰もお前の話などしていない。と言いたげな顔で、拳を振り上げ熱く訴えるダチュレを一瞥したあと、ホランイが。


「船長、どちらにしろ、このまんまで済ますわけには行きませんぜ、どの組がケツ持ちしてようが構いやしねぇ、キッチリオトシマエは付けましょうぜぇ」 

 

 琥珀色の麦火酒の炭酸割で口を湿らせた後、ユロイスはアゲハを見つめ。


「我々空賊が、仲間からそう見られてはない事ってなんでした?船長?」


 彼女は右頬を笑みで歪め。


「それを生れながらの空賊であるアタシに聞く訳?一つ、臆病者と見られる事。二つ、卑怯者と見られる事。三つ、愚か者と見られる事」

「今、我々は愚か者と見られても仕方ない状況です。どうされます?船長」


 ユロイスの言葉を聞き、その酔いと興奮で潤んだ瞳で同じ宴の卓に着く仲間を見渡し。


「あったり前でしょ!奴が保険金を幾ら掠め取るか知らないけど、銅貨一枚残らずむしり取ってやる!金がらみでぶっ掛けられた汚辱は、金で雪ぐ!」


 真っ先にチャタリが回らない舌で賛同し拳を突き上げる。


「そうですよぉ船長ぉ。女をね、女を舐めたら痛い目に遭うって男どもに教育してやりましょうぉ!」


 さほどの不機嫌面から一転、興奮と酔いで頬を上気させつつ、アゲハは。


「まずレイ、カオ・タオモウの背景を徹底的に洗って、必要経費は全部アタシに着けてくれていいから、元スパイの面目躍如よ。それから副長と機関長と気嚢長、それから甲板長はチャナイの爺さんについて船の修理を急がせて、必要ならダチュレとリシバも動員しても構わない、チャタリとトァムは消耗品の補充をおねがい、ひよっとしたら長期戦になるかもしれないから」


 全員が頷くのを確認すると、リシニが持ってきたばかりの麦酒の大瓶を手に取り、おもむろに立ち上がりテーブルの角で景気よく栓を開けると瓶ごと一気に煽り、そして。


「では団員諸君、蛆虫どもにアタシらアゲハ空賊団をコケにしたオトシマエをキッチリつけてやろうじゃないの!」

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