放物運動!どこだここ
ゴゴゴゴ……ゴゴゴ……
風の音がうるさい。耳の中に大量の空気が押し寄せてくる。
それもそのはず
俺は現在、放物運動中だ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」
どうしようこのままでは死んでしまう!
下の方には綺麗で大きな池が見えた。
着水できねば GAMEOVER
ところで放物運動は2つの運動に分けて議論することができる。たしか、ガリレオのideaだ。
俺は車にはねられこの変な世界に転移したと同時に水平面からθの角度で初速度v0を与えられた。
俺は現在の運動は、
地面と平行な方向(x軸とする)に等速直線運動、
v=v0cosθ ①
x=v0cosθt ②
地面に垂直な方向(y軸とする)に等加速直線運
動、
v=v0sinθ-gt ③
y=v0sinθt-1/2gt² ④
と分けて表せる。
gは重力加速度だ。
(地球ではg≈9.8m/s²だがこの世界だとどんな値なのやら)
②から
t=x/v0cosθ
これを④に入れると
y=tanθx-gx²/2v0²cos²θ
が求まる。
これが俺ケンイチが描いた曲線である。
ところでこんなことをグダグダ考えている間に、実はとっくに着水済み。
俺は池の水面から顔を出してプカプカ浮いている。(馬鹿みたいな顔である)
「お〜い!そこの君〜!大丈夫か〜!」
声が聞こえた。
目をやると木製の小さなボートの上に釣竿をもった女性がこちらを見ている。20代くらいだろうか?
「あっ」
俺は泳げないのを思い出した。
「溺れる!早く助けてくれ!」
女性はやれやれといった顔でボートをこちらに近づけた。
「ほら!手をだして!」
俺が手をしっかり握ると、彼女は力強くボートへ引っ張りあげてくれた。
「ゲホッ!ゲホッ!オエ゛ッ!」
水を吐き出した。
「あんた大丈夫かい?」
「あぁ、すいません……ありがとうございます。」
「空から突然人が飛んできて池に落ちるなんてほんとにびっくりしたよ。一体何してたんだい?」
「ええっと、図書館へ行こうとして……車にはねられて……」
「図書館?ああ、この本きっと君のだね?」
彼女は俺に本を差し出した。
『 どきどき物理調査隊 』
せっかく異世界に来れたというのに俺はなんて不運なんだろう。せめてスマホでもよかった。
クソッ!なんで高校物理の参考書なんだよ!
もう一度、彼女の差し出す本に目をやる。
『 ど き ど き 物 理 調 査 隊 』
なぜだ……せめて……せめて食べ物でも良かったのに………
『 ど き ど き 物 理 調 査 隊 』
大きなため息をついた。
「ははは……ありがとうございます……」
参考書を受け取った。
「良かったらうちでご飯食べていかない?君水浸しだし、服も用意できるよ?」
「本当ですか?!ありがとうございます!」
俺自身よくある異世界ものはあまり読んだことはない、だが、アニメは見たことがあるのだ。
主人公はそうそう帰れるような状況に置かれていなかった。従って、多分今の俺も…そうなのだろう……(最悪だ)
今は、頼らせてもらうしかない。
◇
ボートを降り、鬱蒼と茂る森の道を彼女に付いて行った。こんなところで迷ったら大変だ。
「そう言えばまだ自己紹介してなかったね。あたしの名前はケイト、ノースフォード学院で教師をしているの。君は?」
「結城ケンイチです。」
「ゆうき……けんいち……?へぇ〜変わった名前だね。」
さっきから気になっていたことがある。彼女の顔は明らかに西洋人だ。
さらには森も空もそして彼女の服装にも、妙な違和感を感じる。ここはひょっとして異世界というよりヨーロッパなのだろうか。
しかし彼女には言葉が通じる……なぜ?
森を抜けた先には小さな町があった。どの建物もまるで中世の時代のもののようだ。
「到着!ここがノースフォードだよ。」
町の中は多くの人で賑わっていた。どの人も顔立ちはみな西洋人のそれだ。
市場では果物や魚が取引されており、香辛料のような匂いが鼻を刺激する。
町を歩いて数分……
「ここがあたしの家だよ、ガレットいる〜?出ておいで〜」
中から俺と同い年くらいの気だるげなやつが出てきた。
(cf.(参照せよの意味 ラテン語conferの略)俺は17歳)
「なんだい、姉さん。」
「この子はガレット、私の弟だ。」
「ガレットです、よろしくね。」
「ああ、結城ケンイチです、よろしく。」
ケイト氏が家で調理をしている間に俺はガレットに町を案内してもらうことになった。
ガレット曰くここは小さいながらも学問が盛んな町らしい。
早速2人でケイト氏の勤めているというノースフォード学院へ向かった。
「こ、これは……」
目の前には広大な庭園広がり、驚くほど壮麗な建造物がそびえていた。
「これは、まるでホグワーt…」
(口を謹んだ。)
「ところで気になってたんだけど」
ガレットが言った。
「君のその本はなに?」
「『どきどき物理調査隊』」
「どきど…ふふっ…なにそれ?」
説明するのもめんどくさかったので俺はガレットに参考書を渡した。
ページを進めるごとに
ガレットの表情が変わっていった。
「ねえ……これは……」
「参考書、書いてあるのは物理法則だよ。」
俺の言葉を聞くやいなや、ガレットは俺の腕を掴むやいなや、大きな門をくぐり学院の中へ引っ張っていったのである。
さすがは俺も認めた参考書!
……そういう理由ではなさそうか……?
目を通して頂き、ありがとうございます!