第97話 乙女の恋慕は凍らない13
次の日。
学院祭五日目。
「ん?」
ミズキは宿舎で眼を覚ました。
カノンのソレだ。
リビングの内装は喫茶店だが、私生活のスペースはカーテンで区切って見えない様にしてある。
いちおう生活空間の確保も必要ではあるのだ。
そんな感じで寮部屋ではなかったのだが、なんにせよカノンの宿舎に対して思うところもなく。
「あ、起きました?」
「おはよ」
くあ……と欠伸する。
話が弾んでカノンの宿舎に泊まったのだ。
「コーヒー飲みますか?」
「いただく」
「では」
パタパタとキッチンに消えていく。
「あー」
後頭部を掻く。
「セロリは……どうすっかね」
言葉ほど悩んでもいないのだが。
「朝食はオムレツで良いですかー?」
キッチンから声が飛んできた。
「任せる」
軽く答えた。
朝食はその様になった。
もぐもぐ。
ふわふわのオムレツはバターの甘味が利いている。
総じて至福。
「今日も今日とてオークションですね」
チームカノンのメイド喫茶入店資格だ。
「メイド服を取りに帰らにゃな」
セロリは律儀に洗濯しているだろう。
それは信頼できた。
「にゃ」
カノンも同様。
「可愛いですもんね」
「セロリか?」
「ミズキが」
「王子様は嘘か?」
「まさか~」
御機嫌だ。
「格好良くて可愛いんです。可愛くて格好良いんです。その背理的な両立がミズキをメイドとしてドキドキさせるよね」
「嬉しくねぇなぁ……」
ぼんやりとスープを飲む。
テキパキと片付けて、
「馳走」
パンと一拍。
「お茶でも淹れましょうか」
「そうしてくれ」
茶道楽の紅茶は美味しかった。
「これに数万をつぎ込むか?」
とも思うが。
「ウハウハですよ」
旋律の様にカノンは笑う。
実際儲けは大したモノだ。
特に金銭に不自由していないため、気にする項目で無いのも事実としても。
しばし閑談しながら茶をしばいている、
「あう……ミズキちゃん……?」
セロリが現われた。
洗濯したメイド服。
ミズキの分だ。
「では着替えますか」
当人には骨折りだ。
サラダやギフト……ジュデッカまで集まる。
「じゃあオークションですね」
そういうことだった。
「なんかなぁ」
ぼんやり。
「色々となぁ」
まったり。
秋の空は涼やかで。
朝は少し冷えるのだった。
オークションはいつも通り。
万単位のクレジット。
「そこまでして奉仕されたいか?」
がミズキの意見だが、これは恵まれた人間の傲慢だろう。
美少女同士の繋がりか。
力が力を呼ぶのか。
あるいはミズキの業か。
考えると億劫になる。
深淵に覗き込まれている印象。
怪物を欲するならば汝怪物となるべし。
「ま、人のことは言えんか」
そんな結論。
「ミズキさーん!」
メイド姿のミズキを呼ぶ声も聞こえてくる。
オークション会場もなんかミニライブみたいなノリになっていた。
六人の乙女がメイド服を着てオークションの進行かつ宣伝用に健気に振る舞う姿は男のロマンを刺激する。
ミズキの愛想笑い。
口の端が引きつるのも致し方在るまい。
オークションは熱を発しながら進行する。
司会も場を盛り上げる。
最終クレジットは三万八千だった。
「ですか」
少し無常な気分になるミズキ。
南無三。




