第91話 乙女の恋慕は凍らない07
「お帰りなさいませご主人様!」
チームカノンが接客する。
朝にオークションをやって、プライスは三万五千で落札。
今日も今日とてメイド喫茶。
客は貴族だった。
「わお」
とはギフトの言。
王女殿下
貴族となれば色々と思うところもあるのだろう。
まして、
「麦の国の貴族」
ともなれば。
政敵だ。
「御指名はありますか」
「ではカノン様で」
「承りました」
カノンが相手をする。
メイド服愛らしく。
幼い感じの使用人。
桃色の髪と瞳は美の女神に愛された証拠だろう。
「…………」
ミズキはやはり隅っこで読書をしていた。
「我関せず」
偏にその通り。
で、
「カノン様」
麦の国の貴族がカノンを見据える。
「何でしょう?」
「麦の国に帰ってきてください」
「ご主人様は冗談がお上手で」
軽やかに躱す。
「なんなら海の国以上の待遇を約束します」
「必要ありませんので」
柳に風らしい。
致し方ない。
カノンには白馬に乗った王子様が居る。
チラと視線を振る。
気付かず読書している王子様。
「陛下も帰参を求めていますよ? あの陛下が心を痛めていらっしゃるのです。思うところはないのですか?」
「政治的カードになるつもりもございませんので」
ぶっちゃけるならそんなところ。
国力。
イコールで軍事力だ。
そして魔術師はその最たるモノ。
数が希少で物珍しいが、それでも扱い方さえ心得れば軍事力の裏付けとなる。
特にカノンは特筆できる。
ミラー砦に進軍した海の国の軍隊を一回の魔術で半壊させた実績を持つ。
歩く不条理。
そう評せるはずだ。
その根幹にワンオフ魔術があり、制限を受けていた。
ある意味で例外を除けば大陸最強の魔術師と言えるだろう。
「…………」
やはりその例外は黙々と読書に励んでいるが。
「国力的にも麦の国の方が安定していますし」
「ですかねぇ」
一種の経済基軸であることは否めない。
人心の安定度も高い。
貧困層へのフォローもあるし、商人としても商いはしやすいだろう。
ただ、
「節操が無い」
がカノンの思うところだ。
というかチームカノンが。
方々に戦争を仕掛けている。
なお持久力もあるため、
「数国を相手にしながら優勢」
という、
「ある意味化け物」
とミズキが論評する程度には富んでいたりして。
「ミズキに言えた義理か」
がヒロインたちのツッコミだが。
「駄目ですか?」
麦の国に戻ってこないのか?
その点を指す。
「カノンの王子様が海の国にはいますから」
「王族とお知り合いで?」
「ええ」
嘘はついていない。
カノンの王子様はミズキ。
王族……ギフトとは知り合い。
連続した言葉なら貴族も勘違いするだろうが、実のところ前後の言葉は乖離している。
重ね重ね嘘はついていないが。
「けれども場合によっては謀略も有り得ますよ?」
「脅しですか?」
「心配しているのです」
「ご主人様はお優しゅう」
メイド服でニッコリ営業スマイル。
「気をつけることですね」
「場合によっては麦の国を滅ぼしますので心配いらないかと」
貴族の口の端が引きつったのも宜なるかな。




