第90話 乙女の恋慕は凍らない06
「むぅ」
「何か?」
「サラダはズルい」
「何が?」
「ミズキちゃんと寝た」
「添い寝しただけだ」
「セロリも!」
「はは、断る」
爽やかに言ってのける。
早朝に眼を覚まし、自室に帰るとセロリの不機嫌が待っていた。
いつもの感じは抽出されるも、それを重荷に思わない程度にはミズキも不貞不貞しくあろうぞ。
「とりあえず朝食を作ってくれ」
「ん」
「後コーヒー」
「水出しで良い?」
「残念無く」
そして朝食が出てくる。
簡素なモノだ。
「本当に何もしてないの?」
「さてな」
肯定もせず。
否定もせず。
「そもそもサラダはミズキちゃんの敵でしょ?」
「そんな設定か?」
首を傾げる。
「ミズキちゃんこと……ことあるごとにへっぽこって……」
「へっぽこだからな」
「む~」
毎度のご覧の如く、ミズキの卑下には納得できないセロリの悩ましい乙女心ではあった。
「お前が気にするこっちゃない」
蒼の髪を撫で撫で。
「ミズキちゃんは優しすぎ」
「紳士ではあるよな」
「ソレとは違うけど……」
ある意味、最も遠い存在だろう。
あるいは適わない存在。
「それにしても」
コーヒーを飲む。
「お前らの趣味の悪さときたら」
「卑下も考え様」
「かねぇ?」
ライ麦パンをもむもむ。
「ぶっちゃけるなら面倒で済む話なんだが」
とは心中での言葉。
無論、乙女に対して、その乙女心を、
「面倒」
と論評しない程度のリーディング能力は持っているが。
何を以てミズキを思うか。
それはヒロイン格それぞれだが、
「彫刻で再現出来ない美貌」
も条件の一つではあった。
「しかしなぁ」
それがどうした。
他に言い様が無い。
結局自分が何なのか?
へっぽこ魔術師。
その方が良かったはずなのだが。
その点で言えば、
「ギフトに弱みを握られている」
のも事実。
吐息をつく。
チーズを食べた。
「俺用のメイド服は?」
「ちゃんと洗濯したよ?」
ぬかりない。
「良いお嫁さんになるな」
何時も言っている言葉。
「にゃは」
セロリは笑った。
パタパタと左右に振るワンコの尻尾が幻視できる。
懐いていると云う意味では年季が違う。
高等部からの知り合いではあるが、一番言葉を交わしたのが彼女……セロリであるのだから。
その想いにも気付いてはいるが以下略。
「メイドねぇ……」
「可愛いよ」
「それもどうよ?」
「自信を持って!」
「無茶を言う」
「嫉妬しちゃう」
「セロリも可愛いぞ?」
「はぅあ!」
ズキューン!
胸を穿たれる。
「子作りしましょう!」
「だが断る」
「セロリが一番ミズキちゃんと一緒に居るの」
「助かってるさ」
「幼妻!」
「同年齢だが」
「一緒に暮らしてるし!」
「だよなぁ」
「いいよね?」
「主語を明確に」
「ニャンニャンしても!」
「一人で出来るだろ?」
「ツープラトン!」
「南無」
トマトを囓るミズキであった。




