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第88話 乙女の恋慕は凍らない04


 事情聴取を受けて、警察から解放されると良い時間だった。


「散々だな」


「格好良かったですわ」


 サラダの深緑の瞳は輝いていた。


「何をしたわけでもないのだが」


 ミズキとしては算数のようなモノだ。


 危険から原因を引き算すると安全という解答が求められる。


 それだけ。


 二人揃って学生寮へ。


「あの……」


 サラダが声をかけた。


「何か?」


「その……」


 器用に言葉が出ない。


 乙女心は不安と同率だ。


「あの……ね……?」


「あのね?」


「上手く出来ないかも知れないのですけど」


「けど?」


「わたくしと食事をしませんか?」


「構わんが」


 その程度は今更だ。


「いいんですの?」


「断る理由も無いしな」


 ドライと言えばこの上なく。


「わたくしの……手料理とか……」


「期待してる」


 ヒラヒラと手を振る。


 そんなわけでサラダの寮部屋へ。


 帰りを待っているセロリには使用人が言づてを任された。


 サラダは教養も魔術も成績優良者であるため、一人部屋を宛がわれ、使用人まで存在する始末。


 ミズキは本来セロリと同室であるため、


「にしても広くないか?」


 と思うが、


「シルバーマンだしな」


 自己解決。


 夕餉と言うこともあって、食事前にハーブティーを飲んでいる。


 使用人が提供したものだ。


 サラダは手料理に必死で応対が出来ない。


「大好きな人に手料理を食べて貰いたい」


 その乙女心尽くしは健気でミズキにとってもプラス印象と相成る。


「ミズキ様」


 使用人が恭しく声をかけてきた。


「茶のお代わりは?」


「じゃあ貰うかね」


「リクエストはございますか?」


「さっきと同じハーブティー」


 カフェインを摂取すると寝られなくなるためだ。


「承りました」


 そんなわけで中略。


「出来ました!」


 サラダが食事を運んできた。


「ほう」


 フレンチトースト。


 そう呼ばれる料理だ。


 夕餉としてどうかとは思うが、


「こんな物しか作れなくて……」


 と申し訳なさそうなサラダの表情を見やれば否定の出来ようはずもない。


 ミズキなら出来るが、とりあえずは空気を読んだ。


 フレンチトースト。


 サラダ。


 豆のスープ。


「いただきます」


 合掌。


 食事を取る。


 フレンチトーストをアグリ。


「美味しい……ですか?」


「美味い」


「本当ですの?」


「少なくとも食事としては成立している」


 所謂、


「普通に美味い」


 と呼ばれるレベルだ。


 感激を覚える味ではないが、丁寧に作られた普遍的な料理だった。


「お嬢様でも料理は出来るんだな」


「何とかフレンチトーストくらいは。サラダと豆のスープは使用人の物ですわ」


「何も作れない俺に比べればマシだな」


「何時もはセロリと?」


「アイツの手料理は親御さんの味だ」


 付き合いは然程でも無いが胃袋を握られている。


「わたくしは不器用ですから」


「魔術が器用なんだから卑屈になることもないだろ」


「ミズキがソレを言いますの?」


「へっぽこなので」


「ぐ……」


 サラダの黒歴史。


「別に恨んでないけどな」


 実際にその通りだ。


 あまりに魔術が強烈すぎて、


「気の良い悪魔に守られている気分だ」


 と言える。


 フレンチトーストをアグリ。


「ミズキ……」


 サラダが深緑の瞳でヒタと見据える。


「今日は泊まっていってください」


 顔が赤らむ乙女の慕情。


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