第86話 乙女の恋慕は凍らない02
「うう」
鳥肌。
「気持ち悪かったですわ。こういうのを指して蟻走感と呼ぶのでしょうか? およそ魔術より不気味で暗い感情……」
何かと問えば喫茶店の客だ。
あまりサラダが相手する機会の無い人物ではあろう。
「仕事の内だ」
やってないミズキが、
「何を言っているんだ」
という話でもある。
「ミズキは良いですわよね」
「何がよ?」
「ギフト殿下に迫られて」
「袖にしてるがなぁ」
「立身出世ですわよ?」
「興味ない」
ザックリ。
言ってのける。
「出藍の誉れじゃないですの」
「師匠はいないがな」
ミズキの魔術は余すところなくミズキに帰する。
そのことを何とも思っていないから彼は恐ろしいのであるが、それにしても謙遜と言うには彼は自負を持ち合わせていなかった。
「で、どうする?」
閑話休題。
今はミズキとサラダでデート中。
一応それなりに相手もしているのは彼の善良性を表わすのだろう。
「とりあえずは昼食でもどうでしょう?」
「構わんが」
「ではホテルのレストランに入りましょう?」
「テーブルマナーは知らんぞ?」
「関係ありませんわ」
コロコロとサラダは笑った。
「ならいいが」
そゆことになった。
ホテルのレストラン。
ピカピカに磨かれた銀食器。
煌びやかな照明。
たゆたうカンツォーネ。
「ん」
認めざるを得ない。
「美味いな」
「でしょう?」
支払いはシルバーマンだ。
一応メイド喫茶の収益で払うことも出来るのだが。
それはそれ。
これはこれ。
そんな理屈。
丁寧な所作でサラダは食事を口元に運ぶ。
食材の選別からしてレベルが違う。
肉も野菜も手の入れようまで一分の隙もなかった。
そしてそのレストランの運営にはサラダに思うところでもあるのか……ミズキと連れだっても営業スマイル。
「ミズキ?」
「へぇへ」
「わたくしと」
「却下」
「まだ言い終えておりませんわ」
「結婚も婚約もしない」
「けれど」
「同情はいらない」
「してませんわ」
「義理に思うこともない」
「無理ですわ」
赤面するサラダ。
既に死んでいる身だ。
今生きているのはミズキのおかげ。
「――治癒――」
それだけ。
死者すら蘇らせる悪魔の一手。
であればサラダが惚れるのも致し方なし。
ミズキは、
「然程か?」
程度の感想だが。
別に特筆すべき事でも無い。
単純に直しただけ。
ミズキの言葉を借りるなら、
「積み木で城を作って崩し、また同じ城を組み上げた」
と云うことに相成る。
この際の、
「人体と積み木の差異は何処へ?」
がテーゼとなるが、
「然程変わらんだろう」
がミズキの意見。
「けれども死者の蘇生ですわよ?」
サラダとしては蒙の啓く思いだが、
「治癒強化でも出来るはずなんだが」
ポヤッと反論。
結論を言ってしまえば無理だ。
ミズキの、
「治癒」
とゼネラライズ魔術の、
「治癒強化」
は似ているようで大きく異なる。
前者は、
「物質の修復」
で、後者は、
「治癒能力の加速」
なのだ。
治癒強化はあくまで自然治癒を加速させるだけ。
例えば致命傷を負った人間に治癒強化を掛ければ、
「怪我の促進を促し寿命を縮めてしまう」
という結果に相成るのだった。
「む~」
ミズキの異能の異常さを公表できない意味で、
「国家の損失」
とはサラダの意見だ。




