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第81話 学院祭パニック22


「にゃはは」


 カノンが笑う。


 夜のこと。


 徐々に冷えるこの頃で、夜の冴え渡りも明鏡止水にひどく合致し、空の鏡の如く月が浮いている。


 二人で食事を取っていた。


 宿舎。


 カノンのだ。


 メイド喫茶の様相を呈しているが、実生活空間でもある。


 およそセンスのある内装ではあって、ついでに女の子らしい食器類はかなり当事者にとってのお気に入り。


「それで逃げ出してきたんですか?」


「まぁなぁ」


 吐息。


 紅茶を飲んで、


「ほ」


 と一息つく。


「はい」


 コトッと皿が置かれる。


「焼き素麺」


「シソの香りが鮮烈だな」


「にゃはは」


 笑うカノン。


「いただきます」


「いただきます」


 合掌。


 そして咀嚼。


 嚥下。


「美味いな」


 呆然と口からついて出る。


「なら良かったです」


 カノンは嬉しそうだ。


 惚れている王子様に、


「料理が美味い」


 と褒められればヒロインとして、


「冥利に尽きる」


 がごく自然。


 そこはカノンも例外ではなく、むしろ例外から程遠いテンプレートな純情乙女心を持ち合わせている。


「セロリは良かったのですか?」


「知らねぇ」


 サクリと。


 それもまたミズキらしい。


「殿下は?」


「肩が凝る」


 それも事実。


「嘘つき」


 カノンは決めつけた。


 ピクリとミズキのフォークが振動する。


 焼き素麺の美味しさは極上であるし、シソの香りもまた塩と連動してとても鮮やかに口内に広がる。


 至福。


「にゃふふぅ。そも杞憂でしょ?」


「かねぇ……?」


 元より、


「王族? だから?」


 がミズキのスタンスだ。


 至極真っ当な指摘だろう。


 肩がこるならそもそも距離を置くように態度を改めたであろうから、ここでは説得力に加味しない。


「色々あってな」


 誤魔化すようなミズキの言。


 そうでもなければ、


「一緒に居て疲れる」


 とは言えまい。


「殿下は愛らしいじゃありませんか」


「否定はしない」


 その程度の審美眼はミズキも持っている。


 実際に紅の髪も、ととのった御尊顔も、引き絞られた肢体も、それぞれがそれぞれに魅力的だ。


「ただ」


「ただ?」


「背景が面倒くさい」


「ミズキらしいですね」


 カノンの苦笑。


 素麺をズビビ。


「え、カノン……と」


「世話かけるな」


「気にしない」


 本音だ。


「カノンとミズキの仲だから」


 そんな様子。


「にしても美味いな」


 焼き素麺。


「何時でもお嫁に行けるから」


 それが、


「何か?」


 はミズキも覚る。


 カノンにとっての王子様。


 絶望を覆す救いの手。


 その様にミズキはカノンと契約した。


 違えるつもりも無い。


 事実の一つだ。


 愛らしい乙女の王子様になる。


 それは男の矜持になる。


 とりあえず夜はメイド服ではなく私服姿だが。


 もそもそと食事を取った後、


「はい」


 と紅茶が差し出される。


 茶道楽の紅茶は一際明るかった。


 飲んだ瞬間、


「口内が幸せ」


 と云った感じ。


「さすがのカノンだな」


「惚れた?」


「ある意味で」


 断言しないのは悪徳だが、


「ミズキらしいね」


 カノンとしてもそこは分かっているらしい。


 紅茶の香り。


 味わい深さ。


 ミルクを入れるとマイルドにもなる。


「たまには良いか」


 そんなミズキ。


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