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第78話 学院祭パニック19


「えへへ」


 セロリは御機嫌だった。


 ルンルンランラン勇気りんりん。


「えへへへ~」


「御機嫌なのはよろしいんだが……そこまで嬉しく思われるとコッチとしても対処に困るんだが……」


 ミズキと二人。


 メイド服。


 デートで学院街を回る。


 ありえないレベルのメイドさん姿は学院の客をギョッとさせるが、それはミズキにも言えて、ついでにどっちが可愛いかなら接戦だった。


 まずは昼食だ。


「魚が食いたい」


 とのミズキの意見で食事処に顔を出す。


 素朴な店構えの一軒家。


 およそ時間の流れが緩やかな雰囲気を持っており、この季節の寂しさとも相まって郷愁を呼ぶ。


 海の香りもして、芳しさはこの店のうりだ。


「えと」


 メニューを見る。


 さすがに海の国だけあって海産物は取りそろえられている。


 半島国家なので海に囲まれている。


 そこら辺がこの国の特産品とも評せ、ついでに北の国がはた迷惑に干渉する程度にはうらやましく見えるらしい。


 海辺で愛の告白というのも文学の一シチュエーションだ。


「ヅケ丼」


「同じく」


「ついでに刺身の盛り合わせ」


 そして食事を取る。


 鮮度を維持した刺身がとても心地よい。


「ん。美味しいね」


「だな」


 この辺りの気安さは、


「さすがセロリ」


 と言ったところ。


「メイド姿が似合ってるじゃねえか」


 店主はからかう様にミズキを見やった。


「業が深いモノで」


 ヅケ丼をかき込みながらミズキ。


「嬢ちゃんもな」


「ありがとうです」


 赤面。


 セロリとしてもメイド姿は気に入っている御様子。


「ていうかなんで外に出てまでメイド服?」


「キャンペーン」


 他に無い。


「なんなら融通効かせてくれんか?」


「何を?」


「俺っちもメイド喫茶を堪能したい」


「然るべき金を払え」


 とりつく島も無いらしい。


 実際ミズキはそんな人間だ。


「しかしミズキがね。なんならうちでバイトしないか。その格好ならかなり客を呼べるぞ」


「女を泣かせるでな」


「よくモテるな」


「病気だ」


 一過性の。


 あくまでミズキの楽観論なら。


 そう注釈は付くが。


「あう」


 とセロリ。


 本当に。


 心底に。


 胸中で。


 セロリはミズキを愛している。


 ここで言うことでも無いが、


「ミズキの勘違い」


 を正すのもセロリのカルマだ。


 本当に惚れきっているのだから。


 ミズキの簡素な態度も。


 粗略な扱いも。


 無関心の装いも。


 全て矛盾だと言いたいところ。


 先述したようにここでは言わないが、それでも思ってしまう程度には念も強く抑えるほどに熱を持ち。


「カッ!」


 店主が笑う。


「ミズキには敵わねえな」


 セロリの意図を十全に把握したらしい。


 客商売だから、


「その辺は聡いのだろう」


 程度は読み取れる。


「あの……店主さん……」


「分かってるぜ嬢ちゃん」


 ニヤニヤ。


 空気を読むのも一苦労。


 呼吸するように店主は言った。


「何か?」


「何でもないよ?」


「さいか」


 別に興味も無いミズキ。


 刺身を醤油につけて食べる。


「ん。良い味」


「取れたてだからな」


「それもそうだが」


 苦笑。


「醤油もまた洗練されてる」


「内の自慢だ」


 誇らしげな店主。


「本当に美味しいんだよ」


 セロリも率直だ。


「嬉しいことを言ってくれる」


 カラカラと笑われた。


 刺身。


 もちろん先述のごとく海の国の文化だ。


「魚介文化」


 と呼ばれるほど海産物に恵まれている。


 半島国家のアドバンテージ…………も先述した。


「ん」


 満足げなミズキ。


「さて」


 ヅケ丼も食べ終える。


「何処行く?」


「とりあえず街をブラブラしないかな?」


「そういうことで」


 清算はミズキの役割だった。


 武士とて喰えば高楊枝。


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