第77話 学院祭パニック18
午前中でメイド喫茶は終了。
おおよその稼ぎはオークションでそれなりに……というよりむしろ法外に稼いでおりイベントとしてはむしろ問題視すらされている。
とはいえ法に抵触することもしておらず、自覚も無い。
この世の美少女はそれだけで金を稼げるという事実はかなり有効性が高いと証明された一事案だった。
そんな午後。
「ミズキ!」
ギフトは嬉しそうだ。
カノンの仕事部屋で、明るい照明。
紅茶の香りが漂ってきて、とてもアロマチック。
殿下のテンションも突き抜ける。
「デートしよ!」
「却下」
「勅命」
「却下」
「何で?」
「却下」
「何が駄目なのですか?」
「今日はセロリとデートするから」
「ふえっ?」
ポカンとするセロリだった。
目を見開いて振り返る。
ちなみにメイド服姿。
学院祭の間は広告宣伝のためにメイド服常着だ。
そうでなくともミズキ以外は結構ノリ気で着ている。
「あう……」
赤面するセロリ。
「ギフトは!?」
「一人で慰めてろ」
王族にここまで洒落くさい口をきける人間はそういないだろう。
「ヒロインが多いんでな。一日ごとに取っ替え引っ替えでデートしようかと。ギフトにばかり飴をなめさせてもな」
「カノンも?」
「セロリも?」
「わたくしも?」
「私も?」
チームカノンが首を傾げる。
「嫌なら断れ」
気負いも無い。
自然と口からついて出た言葉。
その空気読めさなは如何ともし難いが、こうでなくてはミズキというパーソナルも嘘ではあろう。
――無論、
「やっほい!」
「わぁ!」
「ですわ!」
「あうあうあ~!」
四者四様に喜んでいた。
まこと以て業の深い。
「今更か」
苦笑する。
ミズキも卑下するタイプであるため、
「ロジックがなぁ」
とも言える。
紅茶を飲みつつ無明を語る。
恋立方程式。
恋を立てる方程式。
精神は物理的。
心は形而下。
であれども、
「乙女心は複雑怪奇」
それもまた、
「真なり」
と。
「誰が得をするのか?」
考えても答えは出ない。
別に疎んじているわけではない。
理解もしてはいる。
だが自認は難しい。
そもそもの理屈で、
「自分がそれほど価値あるか」
とのテーゼに、
「否」
とミズキは答えてしまう。
好意その物を読めないほど鈍感では無いが、
「さりとてなぁ」
が問題だ。
南無。
「デートかぁ」
乙女たちは恍惚。
一丁前に嬉しいらしい。
幸せの前段階。
「別にエスコートはしないぞ?」
紳士にあるまじき言葉。
「こっちで振り回すからいいですよ」
カノンが朗らかに笑う。
「ならいいんだが」
杞憂。
と云うより空気が読めないだけだが。
パラリ。
ページをめくる。
読書の続き。
メイド稼業が片手間。
暇潰しに本を読む。
「本業疎か」
の精神だが、
「ツンデレメイドですから」
ぬけぬけとミズキはほざいた。
そも、
「男でありながらメイドとして振る舞えってのものな」
不満はある。
非協力的も致し方ない。
別にミズキがおらずとも、
「チームカノンは鉄壁で安牌」
これもまた力強い理屈。
紅茶から立ちのぼる湯気が大気に攪拌されて消える。
時間の流れも乙女にとっては世界で一番暑い秋。
秋の田の穂の上霧らふ朝がすみ何方の方にわが恋ひやまむ……とは此処では無い世界で謳われる感情。




