第75話 学院祭パニック16
「皆さんよろしく御願いします」
とはカノンの言葉。
会場の人間は絶句していた。
朝の時間を借りて舞台でのオークション。
可憐なメイドが六人揃えば注目もされる。
とはいえ一人飛び抜けているメイドさんが一人。
鮮やかな朱の髪。
海の国の第一王女。
ギフトその人だ。
無茶な理由付けでメイドとなり、イベントに参加していた。
「何が起こった!?」
が客の総意だが、
「知らん」
がミズキたちの総意。
特にロジックで解かれる案件が無いので、
「スルーが吉」
と悟っている。
「それではプライス千から」
オークションが始まった。
「二千!」
「三千!」
「いやいや五千!」
既に常識の埒外だ。
「ぼろい商売ですね」
ギフトが苦笑していた。
「だぁな」
ミズキも気持ちは共有できる。
「八千!」
「九千!」
「九千五百!」
青天井につり上がっていく。
「いいんだがなぁ」
青空を見上げる。
字面通りの青天井。
空の高さに限界があるのか。
それさえも積み上がる金銭では届きそうな予感もして。
とはいえ自分の可愛らしさが客をトランスに導いているという現実はミズキにとっても穏やかならざりし項目でもあり。
まだまだ金額は上がっていく。
さすがというべきか否か?
容易に納得できそうにもない。
「大丈夫? ミズキちゃん……」
無常なところに心配げなセロリの声。
ミズキの雰囲気を読む上では最も有利を持っているだろう。
「ま、な」
とはいえ場合によっては警察案件じゃないかと思うわけだ。
当然合法だ。
その上ギフトまでいる。
ただなんとなく、
「良いのかお前ら?」
との疑念も浮かび上がろうというモノ。
「一万八千三百!」
「一万八千五百!」
「刻んできたなぁ」
だいたいこの辺りが落とし処らしい。
そも十万を提示したギフトがアホだっただけで、一般的な金銭感覚はむしろこっちを規準に持つ。
「にゃむ」
三宝。
「一万九千!」
「一万九千三百!」
「もっとパッションを!」
「盛り上がって参りました!」
司会も熱に浮かされているらしい。
さらに価格がつり上がっていく。
「これで食っていけるんじゃねえの?」
とは皮肉だが、実は正鵠を射ている。
実際に別世界にメイド喫茶はあるし、繁盛もしてるのだ。
その上、学院きっての美少女たち。
カノン。
セロリ。
サラダ。
ジュデッカ。
カテゴリーエラーでミズキ。
並々ならぬと言ったところ。
「愛が金で買えるなら、人生はもう少し有意義だろうな」
場合によっては買えもするのだろうが、
「ミズキの朴念仁」
はヒロインの思うところだ。
さりとてミズキが、
「その気無し」
と宣言しているため、精神的に右往左往。
前後不覚で五里霧中。
「二万千五百! これ以上はありませんか?」
司会が確認する。
誰も挙手しようとはしなかった。
「ではラストプライスは二万千五百! 決まりです! おめでとうございます! おめでとうございます!」
現われたのは割腹のいい貴族の中年だった。
「うえ」
とミズキ。
営業スマイルとは縁が無い。
とはいえ仕事は仕事だが。
「さりとて……なぁ?」
およそのお偉いさんは彼の苦手とするところだった。
色々と不安もよぎる秋の中頃。




