第74話 学院祭パニック15
そうこうして文化祭二日目。
「くあ」
欠伸。
チームカノンは宿舎で朝食を取っていた。
「にゃむ」
ミズキは眠そうだ。
熟睡はした。
添い寝しているギフトにも何も覚えなかった。
ことその方面で恵まれているのに貧困というのも中々に珍しいケースではあろうが、ことほど本人に自覚無し。
ギフトへの観念もあまり持っておらず。
とはいえまったく興味がないかと言えばさにあらず。
単純に自堕落なだけだ。
「ミズキは寝ぼすけですね」
カラカラとギフトが笑う。
面白くないのがかしまし娘。
およそ三人にとってミズキという人間はちょっと乙女心に根ざすというか根刺すような起源であるので不穏当な想いもする。
「むぅ」「あう」「ふむ」
なわけで、んな様子。
朝食を取ると、メイド喫茶の準備。
もちろん大凡は整っているが。
「ミズキは殿下とデーとするので?」
「イベントに参加」
端的に答える。
「…………」「…………」「…………」
かしまし娘のルサンチマンは青天井だ。
「殿下はよろしいので?」
「にゃ」
頷くギフトだった。
「ていうかギフトも加わる!」
何を言っているのか?
当人以外には分からない。
「じゃじゃーん」
所謂一つの、
「メイド服」
と呼ばれる衣装だ。
「えーと?」
大体事情察するが、
「どうツッコめば良いのか?」
が分からない一同。
「メイド喫茶楽しそうだから」
にゃは。
そうギフトは笑う。
「メイドとして参加で?」
「です」
考え得る限り最上級の爆弾物だった。
「…………」
ミズキはライ麦パンをもそもそと食べている。
何の感慨も湧かないらしい。
基本的に不敵だ。
不遜である。
無敵でもある。
そこに矜持は介在しないが、
「特別……ねぇ?」
も当人談。
「どこでメイド服を?」
「執事のジェバンニが一晩で縫ってくれました」
何やらアウト気味の説明を受けた気がする。
一晩で衣服を一着用意する。
その神業はセロリをして、
「ふやぁ」
と戦慄させるものだった。
「だからいいでしょ?」
「良くないと言えば?」
「勅命で」
「へぇへ」
あわあわとヒロインたち。
ミズキがミズキでなければギロチン刑だ。
「ソレならソレで構わんが」
は後日のミズキ談。
「で」
とミズキ。
「結局昨日はどうしてたんだ?」
早々に客のギフトがミズキと抜け出した。
「素晴らしいの一言ですわ」
サラダが言う。
「?」
とミズキ。
「武闘祭」
カノンが補足する。
「ああ」
初戦突破に関してだろう。
「サラダは出ないのか?」
「ミズキが出るのですから優勝は狙えないでしょう?」
謙遜。
卑下。
どちらでもない。
純然たる事実だ。
足し算すら追いつかない自明の理。
「そんなわけで」
ニッコリ。
「わたくしとしてもミズキの活躍を期待していますわ」
破顔するサラダ。
エメラルドの瞳は喜悦に細められた。
「自慢できることでもないんだが」
ポヤッと呟いてフレッシュジュースを飲むミズキ。
二回戦は今日行なわれる。
 




