第66話 学院祭パニック07
「――――!」「――――!」「――――!」
会場は熱気に溢れていた。
魔術師の希少性はたしかに注目に値する。
学院を祭りの間だけ開放しているため、神秘と縁の無い人間にとっては魔術を見る良い機会ではあろう。
とはいえ学院祭だけが魔術を見る機会でも無い。
決闘があれば賭博で客引きもされる。
が、それはそれとして、観客が血に飢えるのも不変の事実。
「趣味の悪い……」
ポツリとミズキは呟いた。
闘技場にて距離を取る生徒たち。
観客の熱狂の中でミズキの心は静かに冷えていった。
明鏡止水。
集中と呼んで良いのか。
それにしては考えること多々だが。
銅鑼が鳴る。
試合開始の合図。
「――――!」
喝采が轟いた。
闘技場の入口の一つからモンスターが三体現われる。
ルナウルフ。
ルナティックの原生生物。
「――――」「――――」「――――」
魔術の行使。
火や風や水がルナウルフを襲う。
が、サラリと躱される。
単純な運動能力の相対性だ。
火球を躱し、水流を躱し、鎌鼬を躱す。
ミズキを除く十四人の魔術師の能力は悉く空を切った。
「そうなるよな」
ミズキにしてみれば天の自明だ。
「攻撃魔術を覚えたから自分は強い」
の典型である。
全く違うわけでもないが正答とも呼べない。
ミズキはしばらく動かなかった。
ルナウルフの俊敏性に対抗するのも馬鹿らしい。
「――――」
狼が吠える。
怪物染みた機動性で魔術を避け、襲いかかる。
「――――」
悲鳴を上げる選手。
コンセントレーションが千切られ詠唱が途中で断絶する。
こうなるともうただの一般人だ。
「――――」
狼がミズキを捉えた。
襲いかかる。
選手の血に濡れた牙。
アギトを開いて更なる血を望む。
「…………」
跳躍した狼。
その接近に対して、体を半身にして紙一重で避ける。
言葉も必要としない。
黙ったまま狼の襲撃を避ける。
「――――」
月光に狂わされた獣の目が爛々と光る。
こう呼んで良いかは議論の余地あるが、
「殺意」
と呼ばれる彩だ。
「苦労人だな。お前らも」
自嘲しながらミズキは笑った。
狼。
ルナウルフ。
その威力を計算しないで対応する。
襲ってきた一頭。
その凶悪に開かれたアギトが閉じる。
刹那の瞬間だ。
事は単純。
噛みつこうと襲ってきた狼の下顎をミズキが強烈に蹴り上げただけ。
が、そこに如何ほどの威力が乗せられたか。
「――――」
顎から頭蓋。
頭蓋から脳。
破滅的な威力の蹴撃はただ一度でルナウルフの命を奪った。
どよめく観衆。
「魔術による競い合い」
その前提の破綻だ。
モンスター。
その存在を武術でいなす。
しかも学院の生徒が。
瞠目だろう。
「然程でもないんだがなぁ」
自慢する気にもならない当人だった。
別に魔術限定というルールでもない。
ルナウルフを無力化できれば予選通過だ。
そんなわけで勝ち上がってしまったミズキであった。




