第64話 学院祭パニック05
特に何があるでもなく。
「色々と不条理だな」
ミズキのメイド服は目立っていた。
昼は正午から少し後。
食事を終えたミズキとギフトは武闘祭の予選会場に向かった。
勝手にエントリーはされたが、
「そもそもが勅命と思えば却下も不都合」
とのソロバン。
別にはね除けたところで損するわけでもないが、
「ま、いいか」
暇潰し程度にはなる。
「にゃはぁ」
武闘祭。
正確には高等部武闘祭。
当然、文字通りに高等部の生徒しか参加できない。
初等部と中等部は、そもそも魔術戦への慣れがなく、趣向から逆算して危険が極めて高いと判断される。
高等部になると少しずつ能力が安定し、イベントとして盛り上がるのだ。
「研究生は?」
とはギフトの疑問。
「武闘祭のフォロー」
それだけ。
魔力が体力に依存するため、怪我人が出る武闘祭では様々なフォローが必要になる。
そういう意味で適確な処置が必要となり、
「高等部の生徒と研究生が揃って満身創痍」
となれば軍学校として本末転倒に相違ない。
「にゃる」
とギフト。
「昨年は出ませんでしたよね?」
「意味ないしな」
戦場にも平和にも必要なる人材だが、ミズキの精神面はこの両端の天秤の……後者に傾いている。
暴力に正当性を求めるほど悟ってはいないが、
「別に暴力に頼らなくても解決する事態は多いんじゃないか?」
そんなことも思ったりして。
ミラー砦を地上から消し去った御仁のモノとも思えない思念ではあるが。
「ていうかお前はなんで俺に懐くんだ?」
「可愛いから」
「それは聞いた」
全てとは思っていないが。
「ま、正確には一目惚れだけどね」
「?」
面識はないはずだ。
少なくともミズキの方はギフトに謁見したことが無い。
王族。
第一王女。
ギフト。
「何処でだ?」
は不遜ながら至極当然の質疑。
「サラダとの決闘」
「あー……」
そんなこともあったな。
そんな感想。
まだサラダが懐いてない頃。
とにかく色々あって決闘することになった。
王族御前試合にまで発展したのだ。
ギフトが見ていても不思議ではない。
「適確な状況判断と器用な魔術行使」
「恐悦至極」
「興味を持って調べてみれば……」
「へっぽこだったと」
「どうしてそう捻くれているのですか?」
「あまり魔術師としての矜持が無い物で」
ヒラヒラと手を振る。
ぶっちゃければ世界を滅ぼせる逸材だ。
意味が無いからしないだけ。
基本的に、
「事なかれ主義」
と自称し、
「自分と知己が無事なら世界は回る」
でファイナルアンサー。
「その程度の信条でミラー砦を攻略したのですか?」
「政治的な考えは持ち合わせておりませんので」
あの時はカノンの王子様になることを標榜していたので、ソレに沿っただけ。
仮にカノンと顔見知りになっていなければ、今も砦はあり続けていただろう。
仮定の話をしてもしょうがない。
そう話は収束するが、
「さてどうだか」
ミズキには別の考えがある。
「にしても可愛いですね」
ギフトはメイド姿のミズキを評する。
「宣伝も兼ねてるからな」
諦観が重圧になる。
「優勝したら華々しいキャンペーンです!」
「出来るかねぇ」
当人は疑わしげだ。
元よりチートと呼べる域にいるミズキだが、
「あまり熱心にもなれんな」
とのご様子。
斟酌はあったが、
「にゃごう」
信頼するギフトの期待は一つの喉の小骨だった。




