第63話 学院祭パニック04
そげなわけでミズキは天上人とも呼べる王女様……ギフトと肩を並べて学院街を歩いていた。
「王女がそんな気楽でいいのか?」
「構わない案件でしょう」
何やら自信に溢れている。
「ていうか着替えて良いか?」
ちなみに未だメイド服。
白い髪。
アルビノの映える黒のメイド服だが、当人は性別に多少プライドがある。
ぶっちゃけた話、ロードローラーで平らにされているジェンダープライドなのだが、それにしても世には思うところも在り申し。
「いいじゃん」
「何が?」
「可愛いですよ?」
「嬉しくねぇなぁ」
さっきから不遜なミズキだが、ギフトは気にもしていない。
「とりあえず奢ってあげるから食事にしよ」
「へぇへ」
そんな感じで昼食。
煮物に定評のある定食屋。
「良い趣味してんな」
「金がかかれば美味しいってわけでもないですし」
それにはミズキも同意見だった。
「で、結局」
煮物を食べる合間にミズキは問う。
「何が狙いだ?」
「んーと」
もぐもぐ。
「ミズキは宮廷魔術師に興味はありませんか?」
「ありません」
ノータイムでの返答だ。
「本当に?」
「宮仕えの根性は持ち合わせておらんのでな」
「ふーん?」
何やら思案するようなギフト。
「でもギフトはミズキを引き入れたい」
「何ゆえ?」
「最強でしょ?」
さすがに、
「……………………」
思念にスタッカートが混じるのもしょうがない。
ミズキの持つ魔術の能力。
そこから派生する恩恵を知っているのはかしまし娘だけのはずだ。
「一応コレでも王座を狙っているのですよ」
「はあ」
「で、そこにミズキがいれば安泰でしょう?」
「俺はへっぽこなんだが……」
「そう言いますよね」
分かっているらしい。
「何処まで?」
「大体大凡」
「いつ頃?」
「ミラー砦の消失の報を聞いてから……ですかね」
「それがどうして俺になる?」
「幾ら学院生でもそんな非常識なことが出来るのはあまりいませんから」
「俺なら可能だってか?」
「事実可能にしているでしょう?」
「……………………」
お冷やを飲む。
「論理的に考えてミズキのワンオフ魔術は有り得ないし」
「プライベートを覗かれている気分だな」
「なんで申告しないの?」
「面倒事が嫌いだ」
下に見られて安心できるタチ。
一貫したミズキの処世術。
「勿体ないよ」
「ソレを決めるのはお前じゃない」
「だけどぅ」
箸を噛んでつまらなそうなギフトだった。
「とりあえずエントリーしときましたから」
「何に?」
「高等部武闘祭!」
「あー……アレ」
イベントに疎いミズキの耳にも入ってはいる。
学院祭のメインイベント。
高等部の魔術師による実力の競い合いであって、あげつらう物でも無いが、
「勝手にエントリーするなよ」
ミズキの意見もご尤も。
「楽しみですね」
「お前はな」
「格好良いところ見せてくださいな」
「嫌だ」
「むー」
ふくれっ面の王族様。
「ギフトのナイトになってくださいな」
「別の人間を当たれ」
本当に敬意と縁の無い逸材だった。
食堂の店主がハラハラしていたが、
「宜なるかな」
気付いて尚無視する辺りはミズキらしい。
「なんかなぁ。あまりなぁ」
「ミズキは意地悪です」
「というより性根が腐ってるんだが」
「宮廷魔術師になったら何事も思いのままですよ?」
「必要としていない」
単なる本音。
「麦の国への牽制のためですか?」
「いや、全く考慮していないな」
「では何故?」
「理屈で定義できる理由は持ってない」
感情論で語るなら幾つかあることの逆説だ。




