第60話 学院祭パニック01
ローテーション用のメイド服も出来上がり、茶も菓子も準備は出来た。
その日の朝。
ミズキはコーヒーを飲みながら眠気と戦っていた。
学院祭の始まりだ。
学院が一般開放され催し物も色々とある。
中には魔術のデモンストレーションもあって、魔術に神秘性を覚える人間にはエキセントリックだろう。
「南無」
コーヒーをすすりながらホケッと。
「大丈夫?」
「眠いっす」
心配するセロリに忌憚の無い答え。
「一週間頑張ろうね?」
「講義ならサボれるんだが」
催し物はそうも行かない。
信頼と金で回っているため、
「義理は果たさず何をする」
との具合。
「いいんだけどな」
またしてもホケッと。
ミズキは愛らしい御尊顔だが、
「男を指名する馬鹿もいないだろう」
とタカをくくっていた。
指名制であって、チームカノンから奉仕して貰いたいメイドを選べる。
――何が悲しくて美少女揃いの処で男を指名するか?
そんなミズキの楽観論は過大にして過小の評価だった。
秋の季節の紅葉の。
風がサラリと吹き抜ける。
セロリは朝食を差し出して、ミズキと一緒に食べる。
「美味い」
とは言い慣れた言葉だが、感謝は幾らでもして良い物だ。
「ありがと」
軽やかに鍵盤を叩くような口調だった。
耳に心地よく、なお感情が強く含まれている。
「これで趣味の悪ささえ治れば文句なしなんだが」
サンドイッチをもぐもぐ。
「結局俺も参加なのか?」
「ええ」
「必要あるか?」
「ええ」
「そうかねぇ?」
「ええ」
心地よく頷くセロリさん。
「ま、いいか」
食事を終えると、ミズキは制服に着替えた。
そしてセロリと肩を並べてカノンの宿舎へ。
既に他は集まっていた。
ミズキ。
カノン。
セロリ。
サラダ。
ジュデッカ。
並びにスポンサーの使用人。
全員メイド服に着替えて、飾ったカノンの宿舎で最終チェック。
ミズキは参加していない。
不義理はしないが積極性を持っているわけでもないので。
試しの紅茶を飲んで、ほっこりとしていた。
「にしても」
眉を寄せる。
「美少女揃いだな」
それもまた事実だったろう。
「おまいう」
とが乙女の通念だが。
さりとて、誰一人として例外のない希少種だ。
「私は可愛いですか?」
「抜群だ」
ジュデッカの頭を撫でる。
「でも見劣りしますよね……」
「何故に?」
「灰色の髪なんて何処か嫌でしょう?」
「魅力的だ」
クシャクシャ。
「灰色を何と捉えるかは人次第だが、俺は可愛いと思うぞ」
「本当に?」
「嘘でも一向に構わんが」
そこら辺は容赦が無い。
「が、元々灰色ってのは平和の象徴である鳩を示す彩だ。験担ぎとしてなら中々のものだと思うがな」
「ふえ……」
紅潮するジュデッカ。
「ていうかそもそも可愛くなかったらチームカノンには入れてもらえないだろう?」
事実だ。
「客引きできる能力があるから選ばれた。まぁ過大評価は事故の元だが一定の理解は現実を見つめるに鏡にもなろうとさ」
言っている当の本人が自分を卑下しているのだから説得力の欠片も無いが、ジュデッカは赤面して頭から湯気を立ち上らせていた。
「またミズキは」
がかしまし娘の共有意識。
「何を以て罪とするか?」
それも定まってはいない。
そも恋愛を法律で律するのもまた違うとしても。
「さて、働きますか」
ちなみに結果を言えば別の意味で働かざるを得なくなるミズキではあったが。




