第59話 モテ期は突然やってくる19
「あー、疲れた」
言葉にすると更に疲れる。
あの後。
即ち決闘の後。
勝利者インタビューでメイド喫茶の宣伝をし、これ以上無いコマーシャルとなったわけだが、
「男の視線がいやらしい」
と背筋に寒気を覚えるミズキ。
「良いんだよ」
学生寮の部屋。
ミズキとセロリの二人部屋。
ミズキは服装を喪服に着替えて、セロリも私服姿だ。
いつもの感じで、およそ二人の安寧の象徴でもあり……ここは一種の妖精郷にも例えられ。
「これで稼げるね」
だが色々と心残りなセロリの言。
「セロリは可愛いからそう言えるんだよ」
「ミズキちゃんも可愛いよ?」
「褒めてるのか?」
「それはもう」
嘘ではない。
ほとんど阿吽の呼吸で理解する。
今でこそかしまし娘とジュデッカが懐いているが、それ以前でミズキの味方はセロリくらいのモノだった。
思念の共有。
無言の応酬。
それくらいは自然とやってのける。
「いっそ格の違いを見せれば良かったのに」
「ルール上な」
そういうわけにもいかない。
それも事実。
「でもこれでへっぽこって言う生徒が減ればいいね」
「どうかね」
あくまで決闘は戦争とは違う。
メイド喫茶の宣伝としてならこの上ない効果だろうが、ミズキ当人の実力の全てとは言い難いし、敵対者にしても同じ事が言える。
「さて寝るか」
「一緒に?」
「分解するぞ」
「いやん」
悶えるセロリだった。
「ミズキちゃん?」
「へぇへ」
「ゲイじゃないよね?」
「不名誉だ」
むしろ侮辱にすら達する。
ジョークにしても口の端が引きつる程度には笑えない。
「お前も俺以外に意識を向けろ」
「無理だよぅ」
――無理なのか。
少し考えるが、
「別に気にする必要が無いんだが」
とは出会いでの貸し借り。
「気にしてなくてコレだから」
とは出会い後の貸し借り。
「別に治癒魔術の傾倒するのは良いんだが」
「良いんだよ」
「金を請求するわけじゃないから俺にまで傾倒せずとも」
「ミズキちゃんは格好良いから」
「そう言う問題か」
「問題」
コックリ。
首肯するセロリだった。
「なんだかなぁ」
特別なことをした覚えもない。
単純な同情。
そこに乙女が何を見出すか。
そこまでは乙女でないミズキには分からない。
王子様として危機を救われたカノン。
心と体を治癒魔術で癒されたセロリ。
コンプレックスを刺激されたサラダ。
各々に理由はある。
「勘弁してくれ」
がミズキの本音ではあっても。
けれども乙女心が論理的に運用されるなら世界にラブコメディは存在しない。
「因果な渡世だ」
嘆息。
他にしようがなかった。
「同衾くらいはいいんじゃないかな?」
アタマのズツウがイタいミズキ。
「男女七歳にして」
「交合せしめる?」
「一人でも出来るだろ?」
「妊娠は無理」
「さもあろう」
物理的な事実だ。
「何故自分は単細胞生物に産まれなかったのか?」
命題だ。
分裂して増える。
日光を浴びて栄養を取る。
ただソレだけの存在。
「ま、いいか」
ソコに落ち着く。
この程度の思案は既に何度も通った道。
セロリが何時までも味方であることには、
「理屈ではなく心で理解している」
といえるミズキであったから。
「一緒に寝ようよ」
「勘弁」
色々と台無しな二人ではあった。




