第58話 モテ期は突然やってくる18
「すごいです!」
第一声がそれだった。
どこか彼女のオーラの色にワンコの感触が乗る。
「何か?」
と問われれば、
「ジュデッカの反応」
とミズキは返す。
「術式拡散なんて使えるんですね! 普通に中級魔術でも上位のものですよ! ほわぁ~! とっても凄いです!」
興奮冷めやらず。
鼻息荒くジュデッカが迫る。
「犬かお前」
「わんわん!」
「ま、風にしか親和性が無いからな」
ミズキの言葉は謙遜ではない。
単なる事実だ。
「それでも凄いです!」
術式拡散。
魔術の術式を解く魔術だ。
対魔術とも呼ばれる。
風属性で唯一の防御魔術。
それも魔術にしか意味を為さない魔術だ。
剣や弓は防げない。
魔術師の懸念する事項では本来ないが。
「惚れ直しました!」
ジュデッカはミズキに抱きつく。
「離れろ」
「嫌です!」
相当気に入られたらしい。
そう悟る。
とはいえ返せる物も無いのだが。
「術式拡散くらい誰でも使える」
とは一種の詭弁だが、間違っているわけでもない。
ミズキが言えば、
「全て詭弁。完璧な詐欺。大凡において詐称。訴えたら検事弁護士総出で敗訴を結論づける」
とかしまし娘は論評するだろうが。
「恋人に立候補します!」
「間に合ってる」
かしまし娘の件だ。
「殺されるぞ」
「愛は無敵です」
「確かにな」
そこはミズキも同意できる。
とはいえゴイスーなデンジャーが去るわけでもないのだが。
「にゃあはは!」
抱きつくジュデッカに微妙な空気のかしまし娘。
「ミズキはこれだから」
「ミズキちゃん……」
「ミズキの業ですわね」
各々言いたいことはあるらしい。
「宣伝には為ったろ? これ以上を望んでくれるな。というか根本かつ対義的な意味で俺のカルマのなすところ」
「うう」
「です」
「けど」
呻くかしまし娘と、
「にゃ」
懐くジュデッカ。
「何がソコまでさせるのか?」
実はコレは本質を突いているのだが、当人に自覚は無い。
「とにかく」
とカノン。
ジュデッカの首根っこを引っ掴む。
「カノンのミズキから離れる」
「嫉妬ですか?」
「勿論」
「……勿論なのか」
最後の言はミズキ。
辟易だ。
「ていうか何だコレは?」
たしかに一種の茶番ではある。
セロリに惚れられて。
カノンに惚れられて。
サラダに惚れられて。
ジュデッカに惚れられて。
「モテ期?」
間違ってはいないが、正答とも言えない。
「ある一定以上の水準値を乙女が複数突破した」
あえて言うならそんなところだろう。
「趣味の悪い」
は今更だ。
実質セロリの慕情が分かりやすいため、
「なんともかんとも」
と云った様子。
「さて」
吐息をつく。
「刺されなきゃいいんだが」
かしまし娘は一人違わず美少女だ。
そしてジュデッカも負けていない。
であれば、
「刺されたら刺されたときの事」
そう諦めざるを得なかった。
誰に可能かは議論の余地も在り。
「にゃ。ミズキ先輩!」
懐くジュデッカ。
「殺しましょうか?」
爽やかにカノンが問う。
能力的に不可能じゃないのが畏れ入る。
「自重しろ」
灰色の髪を撫でながらミズキは嘆息。
「むー」
「うー」
セロリとサラダも不機嫌そうだ。
「どうにかは……しないとな」
後刻の宿題だった。




