第45話 モテ期は突然やってくる05
「そちらは?」
「ミズキ」
「セロリだよー」
簡潔な自己紹介。
「ミズキ!」
いっそう高らかにジュデッカはミズキの名を呼んだ。
どこか失せ物をとっさに見つけたときのような反応にも見え、けれども口からこもれた言葉はちょっと彼を以てして正気を疑う内容だった。
「付き合ってください!」
「嫌」
一文字で否定する。
「人生頑張ってな」
ポンポンと灰色の頭を叩いて、
「じゃ、行くか」
セロリを先導する。
その一個完結っぷりはもはや極地の氷河にも似て……瓦解の可能性が無いだけ氷山よりなお強固かもしれなかった。
「待ってください!」
がジュデッカは諦めなかった。
「せめてお茶でも!」
「金がない」
「奢ります!」
「要らん」
サックリ。
「助けてくれたお礼をぉぉぉぉ!」
あーだこーだ。
ミズキにしがみつくジュデッカだった。
「何がお前をソコまでさせる?」
「ですからお礼を!」
繰り言するジュデッカ。
「はあ……」
ポヤッとミズキ。
実は腹に一物持っている。
あまりジュデッカを歓迎したくないのも本音だ。
「チョコレートを奢ってあげますから!」
「むぅ」
「ふむ」
ミズキとセロリは、
「どうする?」
と互いに視線を絡めた。
結果出てきたのは、
「降参」
の二文字。
「それくらいならまぁ」
そんなわけで喫茶店。
「えーと……」
飲み物が行き渡ったところでジュデッカが口を開いた。
「あのへっぽこ……ですか」
「む」
と不機嫌になるセロリは愛らしいが、
「まぁな」
ぬけぬけとミズキは肯定する。
「かのカノン先生と親しいとか」
「色々とな」
「仲介してくれませんか?」
「嫌」
やはり一文字の否定。
「そもお前は誰だ?」
「ジュデッカです」
それは聞いている。
「職業は?」
「……………………」
腕を組んで首を捻るジュデッカだった。
自問して自答が得られなかったらしい。
「何でしょう?」
そんな御言葉。
「何だと思います?」
何を思ったかミズキに聞く始末。
「魔術は使えるんだろ?」
「ええ、まぁ」
「?」
最後の疑問符はセロリの物。
当然だ。
魔術師ならゴロツキ程度どうにでも出来るはずだ。
「ま、いいんだが」
サラリとミズキは流す。
「それでカノン先生の件ですけど……」
「自分でどうにかしろ」
「あう……」
呻くジュデッカ。
「何ならミズキの恋人になっても……っ」
「死にたいらしいな」
「殺されるんですか?」
「場合によってはな」
「……………………」
実際にサファイアの瞳は笑っていなかった。
気にするミズキでもない。
「一回ぐらい抱いても良いんですよ?」
「病気が怖い」
「概念的に不条理です」
知っている。
とは言わないミズキではあったが。
「恋人が欲しくはありませんか!」
「ありません」
平常運転。
「ああん」
と撓垂れかかるジュデッカ。
美少女に迫られてたじろがない。
それが長所か短所かは不明。
どちらにせよ、
「出会ったばかりの少女に運命を感じるほど無粋でもない」
それも事実だ。




