第43話 モテ期は突然やってくる03
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シルバーマンの権力万歳。
元が王族すらタジタジになる大貴族だ。
実のところ本家でのサラダの立場は危ういが、それはそれとしてシルバーマンの血を汲み取り、本家では扱いきれない攻撃性魔術の獲得は政治的にも無視できない逸材と……最近思われている。
「いいんだけどにゃー」
とはミズキの受け流し素麺。
結果、シルバーマンの傍流貴族がスポンサーとなり、茶と菓子の担当に相成る。
本家が出張ってこなかったのは別にサラダを案じたわけではなく、単純に距離の問題だ。
海の国の王都は南にあるため、北にある学院に全面的なサポートが難しいとの理由。
「それは結構なんだが」
愛らしい乙女がカノンの宿舎を訪れて、カノンと一緒に茶や菓子の研鑽をしている。
メイド服を着こなしている使用人たちで、仕えている貴族の……その本家の血筋であるサラダ=シルバーマンに怯えている節があった。
「機嫌を損ねると」
の仮定は冷や汗モノだろう。
「噛んだりしないんだがな」
はミズキの談。
奉仕される側に慣れているサラダはカノンや使用人の茶を飲んで論評。
並びにカノンと接客の練習。
ミズキはセロリと一緒にメイド服の生地を買うためデートしていた。
別に買い出しくらいは使用人がやってくれるのだが、
「そういう名目でデート」
を過不足なく理解したためミズキはセロリと肩を並べて歩いている。
「ミズキちゃんの好きな色はなんだよ?」
「黒」
サックリ言ってのける。
「……………………」
ジッとミズキを見やるサファイアの瞳。
「何か?」
「ミズキちゃんはアルビノだから黒は似合うかもね」
「そこまで計算したわけじゃないが」
単に無彩色のモノトーンが無難だったというだけだ。
生地問屋に向けて歩いていると、
「いやっ!」
少女が一人、悲鳴を上げた。
「ん?」
とミズキ。
「わん?」
とセロリ。
学院街の市場の通り。
秋色の太陽の下での邂逅だった。
灰色の髪と瞳の美少女。
愛らしいカノン。
可愛いセロリ。
綺麗なサラダ。
そのどれとも似つかない、
「少女だよな?」
と確認したくなる研磨された美貌。
年齢はミズキやセロリと同一に思われるのだが、
「何か違うような?」
と考えてしまう光があった。
「その……あの……」
灰色の少女がわたわたと慌てていると、
「遠慮すんなよ」
「優しくしてやるから」
「痛いのは最初だけってな」
知的言語性の乏しい声が重なった。
源泉を見ると、いかにも、
「悪役です」
と宣言しているような強面の男性たち。
少女はミズキを見つけると、
「助けてください!」
懇願した。
「……………………」
ミズキはそちらを見ていなかった。
少女すら無視して、世の無常を青空に視線で訴える。
空は何も答えない。
当たり前だが。
「そこのへっぽこ三人組」
「何だ兄ちゃん?」
「礼節をお守りありたし」
「邪魔すんのか?」
とは成人男性の御言の葉。
「そんなつもりは毛頭。ただもう少し紳士であってくれれば止めはしないんだが」
サラリと挙手する。
肩の位置まで両手を挙げ開いてみせる。
「助けてください!」
少女は悲鳴の様に重ねて云う。
「お前がやれ」
と云う前に成人男性が襲いかかってきた。
嘆息。
計三人。
体つきと加速の姿勢から練度を量る。
基本的かつ根源的にワンオフ魔術が治癒であるため、攻撃の手段としての近接戦闘は一通りこなせる。
ガードから推薦が来るくらいだ。
今のところは袖にしているのだが。
一言で述べて、
「未熟」
に尽きる。
肉体制御。
神経の反射。
筋肉の動かし方と重心の取り扱いがバラバラだ。
結論として、
「特別脅威でもない」
と算出できたが精神的疲労は如何ともしがたい。
「やれやれ」
とは思うも、攻撃への対処は自動で行なわれた。




