第42話 モテ期は突然やってくる02
基本方針は固まった。
カノンの宿舎で喫茶店を開く。
言ってしまえばソレだけだが、
「アルビノの男の娘」
「桃色の儚げ美少女」
「蒼色の快活美少女」
「深緑の高貴美少女」
四者四様にハイレベルな外見で、なお、
「メイド服を着てご奉仕してくれる」
ともなれば学院全体に激震が奔った。
「俺で良いのか?」
と思ったのはミズキだ。
実のところミズキの学院での評判は良くはない。
何故か問われれば、
「能力がへっぽこ」
これに尽きる。
魔術は世界に設定された裏技だが、この技術には二種類ある。
一つはゼネラライズ魔術。
一つはワンオフ魔術。
前者は議論しないが、後者……ワンオフ魔術は一種のアイデンティティだ。
魔術師にとっての切り札で、場合によっては戦略価値を有する。
セロリやサラダが良い例だ。
そんな中、ミズキの切り札とも言えるワンオフ魔術は、
「治癒」
だ。
怪我や病気の治癒。
医者として振る舞うなら便利だが、王立国民学院は軍属魔術師の箱庭だ。
当然、その講義の先は攻性魔術の運用効率に重きを置く。
単純に言ってしまって、
「一人一人を治癒魔術で治している間に攻性魔術は軍隊ごと薙ぎ払う」
が通念だ。
ので、ミズキは、
「へっぽこ」
と呼ばれている。
当人は特に気にしておらず、
「言いたい奴が言えばいい」
程度の感想。
実際にへっぽこだ。
能力で見ても意識で見ても。
講義には出ないわ攻撃魔術は覚えないわ生徒社会には加わらないわで三重苦を抱えており、
「やだ、へっぽこ」
と忌避されている。
まるで、
「触られると自分までへっぽこ菌に感染してしまう」
との腫れ物扱い。
セロリとサラダの憂慮するところで、
「むー」
とセロリ辺りは悩むのだが、
「別に良いだろ」
本当に当人は素っ気ない。
サラダの方はもう少し事態が入り組んでいる。
何と言っても、
「ミズキがへっぽこ」
と定義したのが当のサラダだ。
侮辱と嘲笑の嵐の渦中。
そこから学院全体に波及して、
「ミズキ=へっぽこ」
のレッテルが貼られた。
現在は違うが、どうあっても傷には痕が残る物で、
「へっぽこ魔術師」
と他者が心ない言葉をミズキに掛ければ、サラダは心を痛める。
自身で撒いた種であるため決着は自分でつける必要があるが、
「然程気にするところか?」
はミズキの偽りない本音だ。
以前に治癒魔術で助けて貰って以来、
「にゃ!」
と懐いているが、
「ボランティアだから気にするな」
いっそ偽悪的にミズキは対処する。
治癒魔術の根幹を知られたのは痛いが、実のところ、
「へっぽこと呼ばれることで安心できる」
という卑屈なミズキであった。
殊更に賞賛や評価にうんざりする気質で、
「下に見られることが心の安寧」
と豪語する。
責められるべき事では無いが、
「もうちょっと何とかならんか?」
はかしまし娘の総論だ。
当人はホケーッと茶を飲んでいる。
戦術としての、
「ミズキの運用効率」
については黙殺がルールで、
「話したら殺す」
とまで忠告されており、
「……にゃあご」
と猫真似で黙るしかないかしまし娘だったりして。
「とりあえずスポンサーだよなぁ」
とミズキがポツリ。
衣服であるメイド服はセロリの領域だ。
ミズキに早い段階で味方となっており、理解に於いてカノンやサラダから一歩先んじており、ミズキの信頼も厚い。
新妻感覚でミズキをサポートしていたため、縫い物も得意で、メイド服製作は彼女に一任される。
「スポンサー」
ポツリと呟いて、
「わたくしが何とかいたしましょうか?」
挙手したのはサラダだった。




