第24話 へっぽこなりし治癒魔術05
「ふむ」
ミズキは、振り下ろされる警棒をスルリと躱し、ガードの喉元に貫手を入れる。
「がは……っ!」
ガードは、たまらず呼吸を困難にする。
一人目を無力化。
同時に、左右からのガード二人による挟み撃ちが襲い掛かる。
一人は水平に、一人は垂直に、それぞれ警棒を振るう。
逃げるのが難しいコンビネーションである。
「…………」
対してミズキは、急激に身を低くした。
まるでトカゲかヤモリのように、地面にへばりついたのだ。
そして急激に、その場で独楽のように回転すると、垂直に警棒を振るっている方のガードに、足払いをかける。
それも生半な威力ではない。
「なっ……!」
体勢を崩し、倒れ込むガード。
その驚愕に付き合うほど、彼に可愛げはない。
「…………!」
無言で倒れ込んだガードの頭部を掴み、床に叩きつけることと、ガードの持っていた警棒を奪うこととを並行する。
無刀取りの要領だ。
そして水平に警棒を振っていたガードが、その警棒の軌道を変えて、伏せているミズキに叩きつけんとしてくる。
「…………」
「……っ!」
結果として、それは不発に終わった。
ミズキの手に持った警棒が、弾いたからだ。
「……っ」
背後から、殺気というには未熟で、気合というには物騒な、他者の感情を捉える。
四人目のガードだ。
警棒を持って襲いくる。
四人の中で、最も警棒を振るうことに躊躇いを覚えていない。
訓練に真剣というより、サディスティックなのだろう。
「…………」
沈思黙考。
思いに沈み、黙って考える。
並行して、三人目のガードの鳩尾に、警棒を突き込む。
「が……!」
呼気を逆流させるガードだった。
ミズキには知ったこっちゃない。
「おらぁ!」
気合一閃。
四人目のガードが、警棒を振るって襲いかかる。
だがミズキは、そのガードに意識を割いてはいなかった。
彼の視覚で認識できない追加のガードをこそ、警戒していた。
対処は、脊髄反射のようなものである。
彼が対処すると、
「馬鹿な!」
四人目のガードが驚愕する。
やはり付き合わない彼。
四人目の持っていた警棒は、上空高く舞っていた。
「巻き技」
そう呼ばれる技術である。
もっともガードにしてみれば、理解の外ではあろう。
「…………」
ミズキは、四人目の鳩尾を、警棒で突いて無力化する。
が、二手三手先は、既に読んでいる。
今度は三人同時だ。
左右と背後。
四人目の襟をつかんで乱暴に引っ張ると、百八十度回転。
左右と前方にガードを捉え、前方のガードに四人目を投げつける。
「……っ」
さすがに警棒で打ち払うわけにもいかず、四人目を受け止める五人目。
ミズキは、五人目の受け止めた四人目に、掌底を放った。
ドクン。
衝撃が駆け抜ける。
四人目を介して、前方の五人目に、ミズキの掌底の威力が伝わる。
「ぐ……っ!」
戦意を刈り取るほどではない。
一時的な硬直。
左右の、六人目と七人目が襲い掛かる。
ミズキはバックステップ。
宙を舞っていた四人目の警棒を、片手で受け止める。
二刀流。
刀ではなく警棒だが。
「…………」
ミズキは、勁を練る。
「はぁ!」
「しっ!」
六人目と七人目が、改めて警棒を振るう。
五人目と八人目の存在を意図しながら、彼は対処する。
六人目目掛けて間合いを詰める。
電光石火。
あるいは疾風迅雷。
体のリミッターがぶっ壊れているミズキ特有の運動能力だ。
コツン。
見かけ上、軽く顎を警棒で掠らせただけだ。
しかし糸の切れたマリオネットのように、六人目は倒れ伏した。
「っ!」
七人目は、そのことに対して怯えを覚えていた。
至極当然ミズキは取り合わない。
「…………」
両手に持った二本の警棒。
内の一本を五人目目掛けて投げる。
額に吸い込まれて、五人目は痛みに突っ伏した。
八人目は、まだ捉える必要が無い。
彼は七人目に襲い掛かる。
七人目が振るう警棒を警棒で受け止めて、やはりまた無刀取りの要領で奪ってみせる。
「……しまっ!」
最後まで聞かない。
ミズキは、七人目の弁慶の泣き所を打ち払って、悶絶させた。
「ふっ!」
八人目が、鋭く警棒で突きを放ってくる。
彼は、ギリギリを見切って躱す。
しかし反撃には移らない。
五人目が襲い掛かってきたからだ。
「しゃ!」
「ひゅ!」
五人目と八人目の、警棒による打撃。
それらをミズキは、両手の警棒で打ち払う。
前後を挟まれていながら、見事な捌きだった。
そして軸回転。
彼は警棒を、五人目と八人目の肋骨に叩きつける。
「ぐっ!」
「がっ!」
骨にひびくらいは入っただろう。
自身の関知するところではないのも事実。
そして彼は、手に持った警棒を捨てる。
「これでいいか?」
彼……ミズキを訓練に誘ったガードに、確認をとる。
「素晴らしい」
ガードは、感嘆としていた。
「すごいすごいすごーい!」
手放しの褒め言葉も聞こえる。
こちらはカノンだ。
戦闘訓練を受けたガード八人に対して、終始有利に事を進めた、ミズキの立ち回りに感激しているらしい。
てこてこ。てくてく。
彼に歩み寄る。
「ミズキ凄いんですね!」
彼女の心からの賞賛に、
「意味は無いんだが……」
彼は謙遜する。
というより彼のソレは事実だ。
いくら体術に優れていようと、長射程広範囲大威力の魔術の前には無益に過ぎない。
よって彼にとっては、
「奇術みたいなもんだな」
というのが本音だった。
「でもすごいですよ!」
カノンは、ミズキの自己否定を覆す。
「魔術も使わず八人を圧倒するなんて!」
「お褒めいただき恐縮千万ってな」
彼は心にもないことを言う。
彼を誘ったガードが、勧めてきた。
「素晴らしい能力だ。是非ともガードに欲しい」
「だから嫌だって」
彼は平常運転。
「給料を出そう」
「訓練のバイト程度ならまだしも……生徒に喧嘩を売るガードは勘弁だ」
「ミズキにはカノンに構う暇も欲しいですしね!」
最後のは、カノンの言だ。
「そうか」
ガードはあっさりと引いた。
説得そのものに意味を見いだせなかったためだ。
「ところで」
これもガード。
悶絶あるいは気絶しているガードたちを指差す。
「あいつらは大丈夫なのか?」
「放っておける奴もいれば放っておけない奴もいるな」
ミズキの言葉は率直だ。
これ以上ないほどに。
「治すことはできるか?」
「それが俺のワンオフ魔術だしな」
苦笑する。
彼のワンオフ魔術……治癒。
癒し、治す。
それは対象を健全に戻す魔術に相違ない。
そして痛めつけられた八人のガード。
ミズキは治癒魔術を掛けてまわった。
「――治癒――」
苦痛を覚えた個所に触れて、計八人の痛痒を取り除く。
もっともミズキが与えた苦痛ではあっても。
そしてソレについて、一切の罪悪感を覚えないのも、彼らしかった。




