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第21話 へっぽこなりし治癒魔術02


「ミズキちゃんはそれでいいの?」


「波風を立てたくない」


 嘘偽りを多少も含まない本音だ。


 残念なくミズキは、へっぽこに甘んじていた。


 茶を飲む。


「だいたいドラゴンブレスが使えない状態のサラダを倒しても自慢にならんだろ」


「むぅ」


 言われて口を噤むセロリ。


「もし全力での決闘なら真っ先にドラゴンブレスが俺を襲ったはずだ。その普遍的帰結を悟れるだろ?」


「そーだけどさー」


 やはり納得いかないとばかりのセロリであった。


 心情的にミズキに肩入れしているセロリにとっては「ミズキ=へっぽこ」の等式を受け入れるのは難しい。


 そんなことはミズキにもわかっている。


 その上で、やはり「それがどうした」としか言えなかった。


 茶を飲む。


「あれが俺の精一杯だ。あれ以上は無理だな」


 呼吸するように嘘をつく。


 ミズキにとっては波風を立てないのが第一だ。


 そんな意味ではしょうがないとさえ言える。


「カノンは憤らないの?」


 セロリのジト目。


「不意の突き方は感心します。一過性のものとはいえ勝利ではあります。ただ認めたくはないのですけど、ミズキの謙遜にも一定の理はあります」


 飄々とカノン。


「うー」


 どこまでもセロリは不満げだ。


「ミズキちゃんは!」


「右に同じ」


 即答。


 そして茶を飲む。


「カノンは茶を嗜むのか?」


「まぁ一般教養としては」


「ふーん」


「美味しいですか?」


「ああ、香り高い」


「なら良かったです」


 ミズキの賛辞に破顔するカノン。


「良くないよ」


 これはセロリ。


「不備がありましたか?」


 不安を桃色の瞳に映すカノンに、


「紅茶は美味しい」


 一応フォローをして、


「良くないのはミズキちゃんのこと! 有り得ないじゃん結果的に!」


 うがーと不平を並べ立てる。


「だからそれについては決着がついてるだろ?」


「今更蒸し返すな」


 とミズキの言ふ。


「ミズキちゃんはすごいよ?」


 セロリの持ち上げに、


「お前にとってはな」


 どこまでもミズキは淡白だ。


 散々述べている通りだ。


 ミズキのワンオフ魔術『治癒』は長射程かつ広範囲かつ大威力の魔術とは、あまりにかけ離れた代物だ。


 それはミズキの主張ではなく、学院の総意である。


 だからこそ彼は「へっぽこ」と定義されているのだ。


「炎竜吐息さえ使えれば、わたくしの勝ちだったのですわ」


 とはサラダの言。


「ですね~」


 ミズキに異論はなかった。


 事実がどうあれ何がどうあれ、ミズキがへっぽこで、サラダが麒麟児なのは、覆しようのない現実である。


 そういう意味では、セロリの方が異端である。


 それを責めることは誰にも出来ないとしても。


 セロリは、ミズキのワンオフ魔術を「何より優しい魔術だ」と思っている。


 それは事実であるし、実際ミズキの治癒魔術は人に益するモノだ。


 ――だが何度も何度も言うように、数十数百数千の被害者を出す攻撃魔術に対して、ミズキの治癒魔術は一人一人にしか適応できない。


 救われた人間にとっては福音だろうが、群集心理にとっては無益な代物である。


 セロリだって、そんなことはわかっているのである。


 その上での主張だ。


「ミズキちゃんは凄い!」


「へっぽこだがな」


 その辺りの摺合せは、今後に期待する他なかった。


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