第176話:エピローグ
色々とまぁミズキにしても散々ではあったものの……いちおう息災で無事、新年は迎えられた。
新年から三日間は新年祭だ。
「賑やかだな」
アインと一緒にミズキは王都を歩く。
とりあえず串焼きを買って食べながら。
なかなかタレが美味で、彼の口内は肉とタレのハーモニーでハッピー一直線とでもいうべき幸福の最中だった。
王族は消化事項があるが、全てエルダーが引き受けた。
「雪もいいもんだな」
「はいな!」
甘酒を飲みながら隣り合うアイン。
金色の瞳は慈しみに溢れている。
「それにしてもお母様を若返らせるなんて……」
「おかげで暇が出来るだろ?」
「ですね」
キャッキャとアインははしゃぐ。
テロリズムの警戒がなくなったせいか……あるいは王位継承という面倒事が全ておじゃんになったためか……それはちょっとわからない。
都民も純粋に新年祭を楽しんでいた。
「とりあえずは良しか」
結果良ければ、とも言う。
「帰ったら魔王崇拝についても調べにゃな」
心中思うミズキだった。
特に留意すべきは、
「理性を保った魔人」
その手法だ。
魔人は人類の敵。
あるいは災害。
そんな印象であったが、
「もしも理性ある魔人が人間社会に溶け込んでいたら」
そう考えると焦りもする。
「甘酒を一杯」
今すべき事は新年祭を楽しむことだが。
「にゃあごう」
アインはミズキにデレデレだ。
「愛らしければ全てが許されるな」
苦笑してしまうミズキだった。
だからこそかしまし娘もミズキと付き合えるのだから。
「殿下」
「姫殿下」
「王女殿下」
「アイン殿下」
電化製品みたいにアインを呼ぶ声。
金色の髪は雪を色付け、金色の瞳は雪を映す。
「にゃにゃ」
甘酒を飲んで御機嫌らしい。
何時になくミズキに甘えてくる。
「ドライはどうなった?」
「自宅謹慎」
「自宅ってな……」
苦笑するミズキ。
たしかに王族にとって王城は自宅だろう。
「けど本当なんですか?」
「どれが?」
「ドライちゃんの陰謀」
「別に信じる必要も無いがな」
そこで議論をするつもりはなかった。
「魔王崇拝……ですか」
「嫌な予感だよな」
「ですね」
串焼きで腹を満たし、甘酒で喉を潤す。
そうやって新年祭を過ごす二人だった。
「場合によっては殺されるな」
かしまし娘の怨嗟を覚えてしまう。
新年祭最後の夜。
「ミズキ! ミズキ!」
息も白くアインがミズキの手を引いた。
王城の屋根。
雪の積もったその場所に二人はいた。
爆発。
魔術……ではない。
花火だ。
「綺麗ですね」
「ああ」
首肯する。
気温は寒々しいが、忘我に至れるには神秘的な風景だった。
空に咲くという意味で、花火という文化には魔法以上に神秘とでも呼ぶべきファンタジー成分が存在する。
「温かい飲み物が欲しいな」
「私の甘酒はどうでしょう?」
「いいのか?」
「大歓迎です!」
ポヤポヤした声だった。
「ならいいか」
そう納得して甘酒を貰う。
温かくて暖まる。
アインの恋慕程度には優しい味だった。
が、謝らざるをえないことが一件だけ。
「何でしょう?」
「結果だけ残して……俺の記録を消す」
「それは……」
パレードの奇蹟と同一の現象。
アインはそう取ったし、事実そうだ。
「待っ!」
「――運命分解――」
ソレだけの言葉でミズキは『無かったこと』になる。
結果を残して記録だけ消す。
風属性の究極魔術。
ノーデンスを討伐した結果は残る。
エルダーが若返った結果も残る。
ただ、それが誰の手によるものかが不明になるだけ。
運命すらも分解してのける魔術の最秘奥だった。
「この世に神の居る限り……か」
光に影が付き従うのも必然と言えばその通りではある。
いったんここで完結とさせていただきます。
第四話「グレイトフルデッド」編は構想はありますけどいつ書き始めるかは決まっておりません。




