第175話 光あれと申すなら影もあれと申す者20
「魔人の量産……か」
「だな」
謁見の間。
エルダーとミズキが面を突き合わせていた。
「詳しい話は衆人環視から聞いてくれ」
「で」
刺す様な視線。
「ドライの処遇はどうする?」
「さてな」
別に死のうが生きようが関係ない。
ミズキはそう言った。
「許せるのか?」
「不興は売ってないぞ?」
「大物じゃの」
「無精なだけだ」
ガシガシと頭を掻く。
「それから」
とミズキは歩き出した。
謁見の間。
その玉座に向けて。
「動くな!」
抜剣した騎士が取り囲む。
「何も害そうなんて思ってねえよ」
「それでも近づくな! 畏れ多いぞ!」
「単なる細胞の集合体だろ」
「さいぼう?」
「そこは自分で調べてくれ」
サクリと言って、
「――同風前塵――」
魔術の起動。
騎士の剣が塵と果てる。
「な!」
「っ!」
「まさか!」
「も何も無いがな」
最後の言葉はミズキの皮肉だ。
「――乱嵐――」
全周囲に突風を発生させて鎧袖一触する。
そして玉座の前に立つ。
「よ」
「じゃの」
「握手」
「?」
「ハンドシェイク」
「ふむ」
差し出された右手をエルダーが右手で握り返す。
「この不敬者ぉ!」
騎士たちが騒ぐが特別憂慮には値しない。
握手で触れたエルダーにミズキは魔術をかける。
「――治癒――」
治癒魔術。
ミズキをして、
「へっぽこ」
と呼ばしめる意味の無い魔術。
それはエルダーの劣化を修復した。
金色の髪と金色の瞳。
どこかアインの面影がある少女。
「お前の最盛期はそこか」
ミズキの苦笑。
「何をしたのじゃ?」
「老化を治癒しただけだ」
「若返ったと……?」
瞠目するエルダーに、
「さいだ」
特に斟酌せず頷くミズキ。
「これなら王位を誰かに継承せずに済むだろ?」
「どこまで規格外なんじゃお主は……」
「他に取り柄が無いもんで」
ホケッと言う。
「陛下……」
若々しい少女を見て騎士たちも瞠目する。
「お可愛らしゅう」
「まさかまさか」
「陛下万歳!」
「何か?」
「ま、可愛い女王はアイドルみたいなもんだろうな」
「かわ……いい……」
赤面。
「やはりお主、宮廷魔術師にならぬか?」
「打算は分かるが、さほど暇でも無いんでな」
八割方嘘だ。
学院でダラダラしている身である。
「とりあえず」
とミズキ。
「テロリズムの首謀者の排除。並びにエルダー陛下の現役復帰。これを王都民に流せ。心機一転で新年祭が迎えられるだろ?」
「じゃの」
エルダーとしても他に言い様はなかった。
「まさか若返るとは」
ハッキリ言ってファンタジー。
そも魔術は横行しているが。
ちなみにエルダーの若返りは激震を呼び、
「どうしたのか!」
は王都民に於ける老齢者の注目の的となったが、
「極秘と言うことで」
ミズキはしっかりエルダーに釘を刺していた。




