第171話 光あれと申すなら影もあれと申す者16
「ミズキ様はお強いですね」
羽ペンサラサラ。
「神様のおかげだ」
「本当にそう思っていますか?」
「創造神の悪戯だろ?」
「私はまた別の解釈を持ってます」
「ほう」
「魔王崇拝って知ってます?」
「いや」
「要するに神が創った自然に不自然の楔を撃った存在を魔王と呼び、その魔王の術であるから魔術と為すわけです」
「はあ」
陰謀論の類にしか聞こえない。
羽ペンが走る。
「魔なる術ゆえ『魔術』。そして魔術こそ霊長の証」
「魔術師は希少だぞ?」
ほとんど扱いはミュータントだ。
「支配なんてそんなものですよ。少数による多数への搾取。私たち王族を見れば分かると思いますが」
「だな」
そこまで聞いて、
「ん?」
思案する。
「つまり魔王崇拝の輩の狙いは……」
「魔術師による政治支配……ですね」
「お前は魔術師か?」
「いえ」
「…………」
しばし考える。
珍しい類の話ではない。
「魔術師こそ進歩した人類だ」
は普遍的なプロパガンダだ。
正常主義者の批判する口実だが、
「これは……」
さすがに驚かざるを得ない。
組織単位での魔術師信奉者。
魔術師による一般人の支配。
夢物語……というには魔術は強大すぎる。
「ミズキ様の戦力ならすぐにでも枢機卿としてお迎えいたしますと言付かっております」
「具体的なお前のメリットは?」
「第一子と第二子の排除による王位の継承」
「相手方のメリットは?」
「私を通して麦の国に発言力を持てるでしょう?」
「ウィンウィンの関係なわけだ」
「ですね」
「もしかして世界全土で似た様なことが起きてるわけじゃあるまいな?」
「どうでしょう?」
サラリと羽ペンが疑問を示す。
「魔王崇拝……ね」
一種の軍閥化だろう。
魔術師を軍部とするなら、だが。
しかも相手は魔人を量産でき、月狂条例すらも叶えてしまう。
絶対数では一般人が圧倒的に多いため、
「強力だけど少数派」
に落ち着いている。
が先述した二つの魔術を扱えば、その理屈すらひっくり返る。
「笑って済ませられるレベルを超えているな」
とはいえ笑うほか無いのだが。
「魔王崇拝に参加してはくれませなんだか?」
「面倒事が嫌いだ」
ここでこの言葉が出るのがミズキらしかった。
「残念です」
「別に俺が居なくとも世界は回る」
「殺されますよ」
「どうやって?」
魔人や狂人の無力化。
毒への耐性。
ついでに不意打ちの火魔術で爆撃を受けながら何事も無く。
どうやったら死ぬのか?
一つの努力目標だろう。
「で」
紅茶を一口。
「とりあえず責任者と話させろ」
「魔王を崇拝しないのでは?」
「禍根は根こそぎ断つ」
「面倒は嫌いだと……」
「大っ嫌いだ」
そこは譲れない。
「が、麦の国をデモニズムに占領されれば結果として海の国と確執を持つ。かしまし娘が戦場に出るのは避けなければならない」
「…………」
紅茶を飲みながら白銀の瞳は真珠の瞳を覗き込んだ。
「まして麦の国は大国だ」
「…………」
「戦力の補強はあまりにも簡単すぎる。場合によっては……」
「…………」
「本気で世界大戦が起こる」
「…………」
「というわけで頭を潰す。どなたか教えろ」
「…………」
「それとも苦痛にのたうち回るか?」
治癒魔術があるため大抵のことは無かったことに出来る
「…………」
それをドライも覚ったのだろう。
冷や汗をかいていた。
「で、どうするよ?」
魔王より恐ろしいミズキであった。




