第170話 光あれと申すなら影もあれと申す者15
「面は愛いんだが、よくまぁその性格で暗殺できるな」
「…………」
白銀の瞳はポケッとしていた。
図星ではない。
警戒でもない。
かと言ってスルーでもなかった。
どこか、
「漸うの自覚」
に近い。
「…………」
テーブルに置いてあるメモ帳に羽ペンでサラサラと文字を書く。
「駄目?」
そう読めた。
罪悪感の欠片も無いらしい。
「結果論としては息災だから何も言わんが」
「多謝」
またサラサラ。
「いつ気付いたの?」
「最初はパレードの奇蹟だな」
「やっぱりミズキ様が」
「だなぁ」
ホケッと。
ドライはペンを走らせる。
ミズキは軽やかに答える。
「被害者を装ったはずですが?」
「矢を抜いて舐めたろ」
ピクッとドライのこめかみが引きつく。
大凡察したらしい。
「アインの矢には毒が塗布してあったが、お前にはなかった。ソレだけじゃ根拠薄弱だから何も言わなかったがな」
「舌聡い……」
「お前ほどじゃない」
「畏れ入ります」
ペンが走る。
文面に於いては雄弁らしい。
「次の根拠は魔神に襲われたとき」
「?」
首を傾げるドライだった。
「アインと二人でデートしたときだったな」
「…………」
「寝ているお前を置いて」
「…………」
「と言いたいところだがお前狸寝入りだったろ?」
「何故分かる?」
「人体に関してはスペシャリストでして」
「?」
「眼球運動を調べれば意識が有るか無いかは分かるもんだ」
「でも……」
「そうだな」
ペンが止まった。
「…………」
「これも根拠薄弱」
ソレも事実。
「ただ単に寝たふりしたお前を置いてアインとデート。結果、魔神に襲われる」
「…………」
「これだけなら偶然で済むが、生憎この失敗は二度目だ。少なくとも正常に頭を働かせればお前が一番怪しい」
「…………」
ドライは紅茶を飲んだ。
「何か意見は?」
カチンとカップが受け皿とぶつかる。
サラサラと羽ペン。
「ツヴァイ……お兄様は?」
「まぁ確かに仮面の可能性もあるぞ?」
「パレードの奇蹟で一人無事だった」
「それは違う」
「?」
「エルダーも無事だった」
「ああ」
「本当に王位簒奪したいならエルダーが目的だ」
「…………」
「けれども一回も襲われていない」
「…………」
グイッと紅茶を飲む。
「お代わり」
「…………」
テキパキ淹れるドライだった。
ミズキは新しい茶を飲んで、
「優しい味だな」
そう評する。
「恐悦至極に存じます」
サラサラと羽ペン。
「これも一因」
「?」
「毒だ」
「?」
「会食で毒の入った料理を平然と平らげている俺を瞠目していた人数が三人」
「…………」
「内二人死亡」
「…………」
「残りは目の前に居るな」
「…………」
紅茶を飲む。
「バレバレですか」
「詰めが甘いだけだ」
断じる。
「で、俺を暗殺して何がしたかったわけ?」
「特に意味は無いんですが」
あらゆる答えの中でも最上級に低次元の理由だった。




