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第17話 鉄壁砦のひみちゅ08


「え? じゃあ、あのサラダ=シルバーマンと決闘を?」


 カノンは、キョトンとして、ミズキを見た。


「色々あってな」


 苦笑する。


 疑問はセロリ。


「カノンはサラダを知ってるのかな?」


「ええ、まぁ。王立国民学院が、グラス砦に近い以上、ミラー砦にも噂は伝わっていますよ。いわくドラゴンブレスを再現する魔術師であるとか。学院の天才にして麒麟児。なおかつ海の国の大貴族シルバーマンの家系。これがゴシップにならなければ嘘でしょう」


 魔術図書館を経由して、宛がわれた研究室に辿り着く一行。


 カノンが空き部屋となっている研究室の扉の施錠を開放すると、入室してミズキとセロリを中に招いた。


「ゴシップなんて可愛いモノじゃないと思うんだが……」


 ミズキのソレは、ひたすらに本音だった。


「とにかく極力波風を立てない」


 がミズキの信条だ。


 である以上、サラダとの決闘は、うんざりする他ない。


「でも別に命を取ろうってわけでもないんですよね?」


「さすがに決闘なんかで、海の国の軍事力を支える魔術師を消費するのは、国益にかなってないからな~」


 当たり前と申せば、当たり前の話である。


 特に学院は初等部も有る通り(魔術の才能がある者限定で)幾ばくかの子どもを擁している。


 であればこそ、幼稚な諍いや意見の齟齬など、珍しくも無い。


 その解決法として、真剣な決闘などをしていては、国内で死者を出すばかりで、国益に反することは、言わずとも明快だ。


 なので「死なない程度に喧嘩しろ」が王立国民学院における不文律であった。


「勝てるんですか?」


「さてな」


 降参が通じない以上、


「どうしよう?」


 が、ミズキの思うところである。


 ともあれ三人は、研究室の中に入る。


 同時に、カノンが、体力を魔力に変えて、研究室の隅々まで行きわたらせる。


 すると研究室に敷設されている魔術陣が、カノンの魔力を感じ取り、機能を駆動させる。


 明かり……水……お湯……火……それらの機能を使用可能になるのだった。


 王立国民学院では珍しいことではない。




 ――魔術陣。


 それは魔術師が、イマジネーションを用いないで魔術を使用する際に行なわれる代替概念である。


 ――『神話の詩(ワールドソング)』を記号化し、魔力に反応して、魔術という出力を返す。


 しかも魔術師自身の起こす魔術と違い、能力は画一的なのだ。


 魔術師がゼネラライズ魔術を使う際に、魔力の込め様によって威力が千変するのは常識だが、魔術陣は一定の魔力消費が決まっており、発現する結果も、誰しも同様であるのだった。


 無論、魔力を扱える人間にしか、意味の無い機能ではある。


 それ故に魔術師は、魔術陣に馴染み深い。


 話が逸れるが王立国民学院……その初等部の生徒は、ゼネラライズ魔術もワンオフ魔術も使えないのが通常だ。


 ワンオフ魔術については、先天的後天的問わず自力で発現させる魔術師もいるが、基本的には高等部に進学して「覚醒の儀」を以て覚えるのが真っ当である。


 ゼネラライズ魔術は、中等部から教わるようにカリキュラムが組まれている。


 では初等部は何をして魔術の勉強とするのか。


 その答えが魔術陣による生活のサポートである。


 学院は魔力を練れる人材しか入学できないのは前提。


 然れど、いきなり癇癪を起こす子どもに攻撃魔術を教えては、負傷者が出るのは目に見えている。


 そのため初等部では、魔術の知識は教えても、魔術そのものは教えない。


 中等部に上がって、初めてゼネラライズ魔術を教えるようになり、高等部への進学を以て、ワンオフ魔術を教える段取りだ。


 しかし傷ついた筋肉が回復した際により強靭な筋肉に……あるいは折れた骨が回復した際により強靭な骨に……それぞれ昇華されるように、魔力もまた消費すればするほど強力になる。


 かといって初等部の生徒は、魔術を使えない。


 なので、魔術陣に魔力を注いで消費することを覚えるのである。


 初等部の生徒にとって魔力の消費とは、即ち魔術陣の行使に他ならない。




 話を戻して……そんなわけでコンロや水道や風呂や照明などを、魔術陣にて機能化させているという側面も、学院にはあるのだった。


 一種の未来志向とも言える。


 当然それはカノンの研究室兼宿舎も同様であり、カノンの魔力で照明がつき、カノンの魔力でお湯が沸く。


 これはミズキとセロリの宿舎でも同じことである。


 カノンは備蓄されていた紅茶を淹れて、自身とミズキとセロリの分を用意する。


「ども」


 これはミズキ。


「いただきます」


 これはセロリ。


「どうぞどうぞ」


 とカノン。


 そして、カノンが茶を飲み、


「うわ。安物ですね……」


 顔をしかめた。


「別に俺は気にしないがな」


「同じく」


 味の良し悪しに拘泥しない二人であった。


「ならいいですけど」


 ズズズ。


 カノンは紅茶を飲む。


「ミズキは……防御魔術は使えるんですか?」


「……ある意味で」


 カノンの質問に、躊躇いがちに答える。


「自己固定?」


「いや、俺は風の属性にしか親和性は無い」


「では術式拡散?」


「一応はな」


 口を、への字に歪める彼だった。


 風属性のゼネラライズ魔術……『術式拡散システムディフュージョン』。


 分解の性質を持つ風属性の中級魔術で、風を自身の周囲に創りだして結界を構築し、触れた魔術をキャンセルする防御魔術である。


 ここまでくると、魔術の干渉力の問題になってくるから、絶対防御には程遠いが、少なくとも、ある程度の抵抗は出来るようになる。


「じゃ、シルバーマンとの決闘はそれを使うの?」


「場合による」


 他に言い様も無かった。


「ミズキちゃん……ご自愛してね?」


 セロリは不安げだ。


「それは俺の都合じゃなくてサラダの都合だ」


 少なくとも、サラダがミズキを痛めつける気満々なのは、言わずともわかろうが。


「あんまり気負っていないですね……」


 紅茶を飲みながら、疑問を呈すカノン。


 桃色の瞳は、興味を映していた。


 対するミズキの言葉も大概だ。


「臆する理由も無いしな」


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