第168話 光あれと申すなら影もあれと申す者13
「で、結局何なんだ?」
「捜査中です」
「警察機構も大変だな」
「有り難いことです」
くぐもった声が聞こえた。
湯面の跳ねる音。
アインは浴室に入っていた。
フロン伯の爆殺。
ミズキも巻き込まれた形だ。
鎮火は終わったが、人が住むには哀愁が漂う。
そんなわけでミズキはアインの私室に招かれた。
「不敬だ」
との声や、
「不潔だ」
との声もあったが、アインは黙殺した。
「危険だ」
との声には重んじるところあるが、
「そんなものは何処に居ても同じだ」
でファイナルアンサー。
実際に街中でも魔人に襲われた。
「何処にいても狙われる」
なら逆説的に、
「何処にいようが一緒だ」
との計算。
論法として成り立っていないが。
湯船に浸かるアインの肢体は美しく、引き締まっていながら出るところが出ている。
ミズキは見られない。
浴室の扉。
その外側で背をもたれかけ、
「風呂はどうだ?」
「極上です」
室内のアインと会話をしている。
「ミズキは大丈夫なんですよね?」
「生まれつき頑丈でな」
間違いではない。
ミスリードではあっても。
「そういうレベルですか?」
「結果論に則ればな」
ホケッと。
「フロン伯の縁者はどうするんだ?」
「まぁ家名の没収と王都からの追放……そんなところでしょう」
「厳しいな」
「これでも宰相に妥協を引き出した結果です」
「よくできました」
ミズキは苦笑した。
「結局背景は聞けましたか?」
「単なる政治ゲームらしいぞ」
「は?」
「ツヴァイを盛り立てて娘と結婚。自分は国父と相成る。そんなところだ」
「陰謀で成り上がって国父は無理でしょう」
「俺もそう思う」
端的だった。
「ツヴァイが陰謀を」
「そこまでのおつむを有しているかだな」
「むむ……」
ミズキからアインの表情や仕草は見えない。
乳房を持ち上げる様に腕を組んでいた。
「結局ツヴァイの方の処遇は?」
「厳重注意と反省文の提出です」
「学生か」
「まぁ何処の組織も変わらずということで」
「然もありなん」
「こっちは抹殺しても良かったんですけどね」
「わお」
「王族ともなると処刑にも色々と都合がありまして」
「だろ~な~」
ミズキもわからんじゃない。
まぁアホウではあるが、
「どこか憎みきれないのも人徳か」
真面目に応対すると馬鹿を見るの典型だ。
陰謀を錯綜させる脳は頭蓋に詰まってはいないだろう。
その点は十全に理解した。
チャプン。
湯面の跳ねる音。
「…………」
「私の裸を想像しましたか?」
「まぁ」
「わお」
「男の子ですから」
「ミズキは淡泊そうな印象がありますけどね」
「よく言われる」
「スリーサイズを教えましょうか?」
「数字から肉付きは想像できん」
「紳士にはまだまだですね」
「なるつもりもないしな」
フッと吐息。
暖房はついているが、時折冬の寒さが襲ってくる。
シンシンと降る雪。
その景色を見やりながら、背中の暖かさに心を預ける。
たしかにアインの裸体は想像してしまう。
男の子の業だ。
「気が重いな」
「何か懸念でも」
「独り言だ」
「?」
湯船の中で首を傾げるアイン。
当然ミズキが分かるはずもないが。
ピチョンと湯面が跳ねた。




