第166話 光あれと申すなら影もあれと申す者11
「魔人! 成敗!」
今更やってきた麦の国の王子。
第二子ツヴァイは抜剣していた。
この場合の強気な態度は、おそらく勇気と呼称できるものではなく、むしろ野蛮と評すべき項目であったろう。
「おおお!」
気絶しているフロン伯めがけて斬りかかる。
「――突風――」
風で吹っ飛ばすミズキだった。
「うおお!」
吹っ飛ばされて地面を転がるツヴァイ。
起き上がって顔の土を拭う。
「何をする!」
「こっちの台詞だ」
もう何と言っていいのやら。
「魔人を討伐するのも騎士の仕事だぜ!」
「お前は王子だろうが」
「魔人を庇うか!」
「庇ってねーよ」
「ではどけ!」
「フロン伯を殺すのか?」
「魔人だからな!」
「元に戻した」
「信じられるか!」
「で、一般人を殺して何がしたいのお前?」
「魔人討伐の栄誉だ」
そういや英雄願望の持ち主だったな。
そう思い起こす。
「せめて魔人だったときにどうにかしてろよ……」
「そうするつもりだったがお前が台無しにしたんだろうが!」
「となると……」
ドライの方か。
「しかしなぁ」
「しかしも案山子もあるか!」
「功績が欲しいなら戦場に出ろ」
「ぐ……っ」
ソレは嫌らしい。
「ミズキ!」
ザンとツヴァイは地面に剣を突き立てた。
「決闘しろ!」
「何時?」
「今だ!」
「何処で?」
「此処でだ!」
「…………」
大凡の打算をミズキは正確に読み取った。
つまり、
「魔人を倒したミズキを倒すことで自分が魔人より強いと証明したい」
そんな心理だ。
「言っておくが魔術は禁止だぞ! 俺様は正々堂々勝負したいからな!」
矛盾には気付いていないらしい。
「武器も持っていないんだが?」
「お前の不注意だ!」
そして剣を振りかざして襲ってくる。
安直の上段。
スッと避ける。
薙ぎ。
バックステップで躱す。
そんなことが五度ほど続くと、
「は……! は……! は……!」
早くもツヴァイは息切れしていた。
「ズルいぞ!」
「何が?」
この問答もある意味徒労だ。
「正々堂々勝負しろ!」
「してるだろ?」
「避けてばかりではないか!」
「魔術も使えないのにまともに刃物とやり合えるか」
ご尤も。
だがツヴァイには違うらしい。
「卑怯者!」
誰が?
誰に?
そうは思うがとりあえず寡黙を選択した。
「俺様の剣を受けてみろ!」
ツヴァイは剣を振りかざす。
大上段からの縦一文字。
「…………」
ミズキは受けた。
斬られた……わけではない。
片手でツヴァイの剣を握りしめて抑止したのだ。
金属の破砕音。
ツヴァイの剣が半ばで折れた。
「っ!」
「受けるってのはこんな感じで良かったか?」
「馬鹿な……」
「とりあえず眠れ」
上段回し蹴り。
ツヴァイの顎を掠める。
意識が飛ぶ。
さながら糸の切れた操り人形のようだ。
ドサッと倒れた。
「大丈夫か麦の国……」
「大丈夫では無いでしょうね……」
いつの間にやらアインが傍に居た。
「弟が失礼しました」
「全くだ」
「謝礼に何をいたしましょう?」
「特に何が必要でもないしなぁ」
ぼんやりとミズキだった。




