第165話 光あれと申すなら影もあれと申す者10
「――――」
魔人が暴れていた。
誰が為ったのか。
誰が謀ったのか。
暴力的な魔術で王城を削りとっていく。
何が其処までさせるのか。
憎悪。
怨恨。
抑止。
反動。
どれでもありどれでもないのだろう。
およそにおいて魔道冥府に堕ちたともがらに理性を期待する方が……どちらかといえば間違っている。
「ミズキ様!」
兵士が一人、不躾に部屋に入ってきた。
咎める気は無い。
事実その通りだ。
「陛下からのご命令です。速やかに魔人を叩けと」
「相分かった」
「では!」
兵士は去って行く。
「どうするんですの?」
「…………?」
王女殿下二人は首を傾げた。
「いつも通り」
それだけ。
別に説得が必要なわけでもない。
「――術式拡散――」
王城に魔性の風が吹いた。
隅々まで。
魔術に対する処置。
魔人は魔術で人を襲う存在だから。
が、
「――――」
攻撃は止まなかった。
とりあえず食後の茶は無しにして、フロン伯の客間に出向く。
壁が破壊され、寒波がミズキを襲った。
アインとドライは置いてきている。
どちらにせよ場所も座標も関係ない。
「で、だ」
思案。
魔人と化したのはフロン伯。
であれば、
「案外近くに居るのか?」
どの辺を指して、
「近く」
かはミズキにも分からなかったが。
悪魔の翼を背負った魔人が攻撃魔術を乱発する。
それらは朝の雪の様に溶けて消える。
術式拡散。
ミズキが扱えば鉄壁となる。
「問題は」
相手がこっちの手札を理解している事だ。
でなければそもそも魔人が遠距離狙撃を選ぶはずもない。
ミズキの魔力は無尽蔵だが、そうとは背景も知らないだろう。
「――――」
結果、魔人は城を傷つけること能わず。
「しっかし」
こめかみを押さえるミズキ。
「魔人の量産か」
テロリズムにおける最大効果だ。
「しかし」
とも思う。
「魔術師なら楽して暮らせるはずだが」
事実だ。
絶対数の少ない人材。
それが魔術師。
であれば、
「国家反逆罪に意味はあるのか?」
そうも思う。
「とりま魔人に無力化だが……」
城の吹き抜けから空を見やる。
翼で空を飛んでいる魔人が雨霰と魔術を降らせる。
「さてどうしたものか?」
別段難しい作業は要しない。
『魔人化』
それが天然魔術ならどうしようもないが、人為魔術なら術式拡散でカタがつく。
「口封じ兼テロリズムか……」
何とも因果な背景だ。
「――――」
魔人は津波を起こした。
津波。
大量の水を生成して全てを押し流す水属性のゼネラライズ魔術。
なお魔神が使えば天災にも等しい。
が、
「おお!」
「…………!」
城の住人が驚く様に、津波は城に触れて消え去った。
ミズキの術式拡散だ。
魔人の魔術すら苦にしない。
「鉄壁」
そう呼んで良かった。
すっと風が魔人を薙ぐ。
それだけで魔人化は解かれる。
一人の人間に戻った魔人が天高くから落ちてくる。
「よっと」
風の魔術で落下速度を落とし、お姫様抱っこで受け止める。
茶髪のオールバック。
老齢の貴族。
フロン伯だった。




