第164話 光あれと申すなら影もあれと申す者09
重い。
最初に感じた印象がソレだった。
その重さが質量に依存していないことを認識するには、初期の知覚より鋭敏な能力を要求されるケースではあったが。
「みゃ~」
「…………」
で、アインとドライが抱きついていた。
太陽の斜光具合で昼だと覚る。
「あー……」
しばし深呼吸。
「おはようございます」
「ですです」
「…………」
重かったのはドライがマウントポジションで抱きついていたからだ。
「えへへぇ」
アインは幸せそうだ。
「別に良いか」
そんなミズキ。
「で」
「何か?」
「…………?」
「今は昼だろ?」
「ですね」
「…………」
コクコク頷く王女殿下。
「仕事は?」
「宰相に押し付けました」
「…………」
そんな二人。
「とりあえず昼食をとりましょう」
「…………」
「あーはいはい」
そんなわけでこんなわけ。
三人で客間のテーブルに着き、昼食を取る。
寝起きなので軽い物にして貰った。
「会食は苦手だ」
がミズキの感想。
「胃が痛くなりそうな場所でよくもまぁ食事なんて楽しみを研磨させるというか削りきれますね」
なんて感想。
「ところで陰謀の方はどうします?」
「フロン伯に聞く」
「…………」
ドライは黙々と食事をしていた。
「フロン伯……」
とアイン。
「ていうかいい加減この馬鹿騒ぎも終わらせたいしな」
「う」
「新年を健やかに迎えるためには後顧の憂いを断つのが定石だろ」
ちなみに年越し蕎麦は切れやすいので「新年に禍根を残さない」という意味らしい。
「新年祭の準備の程は?」
「順調です。ただ……」
「ただ?」
「狂人や魔人が現われたので不安は蔓延していますね」
「そこは王族の仕事だな」
「ですけど~」
「頑張れ」
「ハートがこもってないですよ」
「こめてない」
いけしゃあしゃあ。
塩のスープを飲む。
「で」
「で?」
「結局フロン伯が悪者なんですか?」
「悪者ってな」
苦笑。
ミズキにはあまり縁の無い言葉だ。
「ま、聞いてみるだけさ」
別に恨むつもりもない。
平和主義とは違う。
ものぐさなだけだ。
「解決……しますか?」
「テロリストに聞け」
他に言いようが無い。
「王位に就くと狙われて大変ですよ」
「だろうな」
そこはミズキも同想だ。
「とすると……」
「何か名案が?」
「在るというか無いというか」
「何でしょう?」
「秘密だ」
「むぅ」
「…………」
ドライも首を傾げていた。
「とりあえずはまぁ」
フロン伯に話を聞いてから。
そう言うより先に、
「――――」
不吉な雄叫びが王城を震撼させた。
「魔人……っ!」
アインの懸念通り。
魔人の発生。
ついで閃光。
熱波。
衝撃。
爆音。
順次炸裂した。
「はぁぁぁぁぁ」
ミズキの溜め息も宜なるかな。




