第161話 光あれと申すなら影もあれと申す者06
会食が行なわれた。
ミズキも城と王族を救った英雄と言うことで上座に座らせられる。
はっきり言ってはた迷惑の極みだったが、その厚意を無下に出来るほどの弁舌をミズキ自身が持ち合わせていないことが、この際の決定打だった。
およそ味のしない食事が胃を痛める。
「…………」
ミズキはブツブツと何かを呟いていた。
食事はするし、会話もする。
ただ時折遠くを見てブツブツと呟く。
「歌を謳っているのだろうか?」
ドライにはそう見えた。
その当人は、これからについて考えている。
元々は考えなくても良いというか……考えたところで意味なさげと断じたであろう懸念も、ある意味で働いていない。
馬鹿騒ぎ。
一連のテロリズム。
大凡分かってはいる。
ただ根拠薄弱なだけで。
スープを飲む。
美味しかった。
洗練された味。
王族に満足して貰うために渾身を込めたシェフの辣腕が思い忍ばれる。
――が、空気が致命的だ。
豪奢なカーペットと豪奢な食器。
豪奢なテーブルに豪奢な椅子。
照明、衣服、使用人の態度。
どれもが一流で……だからこそ圧迫される。
「よくまぁこんなところで食事が出来るな」
とはいえミズキも食事はしているのだが。
本来彼が望む食事というのはマナーがあっても気安さが取って代わり、規律はあっても破ることに留意が必要ない砕けた空気の中で行なわれるものだ。
こんな全員「左を向け」と言われて左を向くような空気は食事に適さない。
「それにしてもミズキ様はお強い。何か秘技でもあるのですか?」
「鍛錬と努力」
一字一句正確にミズキは繰り返した。
「ふん! アレくらいなら俺様だってどうにでも出来た!」
ツヴァイは面白くないらしい。
あえて誰も突っ込まない。
「…………」
黙々と食事。
コース料理であるため連続して運び込まれる。
どれも美味ではあったが、
「…………」
それより気になることがあった。
一応自覚程度はする。
食事が終わって茶を飲む。
ブツブツと何某かを呟きながらミズキは紅茶を嗜んでいた。
スッと会席に集められた人間を見る。
エルダー。
アイン。
ツヴァイ。
ドライ。
そして招かれた貴族の一部と使用人。
動揺していた。
「然もあらん」
心中そう思う。
「ところでミズキ様」
とはエルダー。
「何か」
実は国王が何を言おうとしているかは予想できた。
というかこの際、「いい加減諦めろ」と先回りして摘んでもおかしくないタイミングで、それでも礼儀を優先したのは単なる無精ものぐさに属する圏内だったがために過ぎないという理由もある。
「宮廷魔術師になってはもらえないじゃろうか?」
「まぁそう言うよな」
魔人化の頻発。
狂人の襲撃。
パレードの奇蹟。
ここまで揃えば馬鹿でも分かる。
一連の事件に共通した背後がある。
それだけ。
特に魔人の量産がいただけない。
人の身で対抗できる範疇を超えている。
「…………」
またブツブツとミズキは呟く。
「最大級のおもてなしをさせて貰うからの」
「…………」
ブツブツ。
「無理じゃろか」
「無理」
端的。
紅茶を飲む。
「せめて戦力に……」
「とりあえず背景を掴んだら叩く」
「お願いするじゃ」
「そっちにも手を回して貰うぞ」
「それはもう」
頷くエルダー。
「さて」
状況は察した。
「アプローチの方法だな」
は思念で。
物理的には、
「…………」
茶を飲みながらブツブツと何某かを呟いている。
それが周囲には少し不気味だった。
「壊れましたか?」
首を傾げてアイン。
気にせず天井とお話。
「さて、とりえず」
エルダーが言った。
「馳走だったな」
「ええ」
「ああ」
「…………」
貴族もまた同調した。
そうやって食事は終わる。
そんなおり、相席していた貴族の何某はエルダーに取り入ろうと必死だった。




