第160話 光あれと申すなら影もあれと申す者05
勘定から一瞬。
「――疾駆――」
ミズキは王城に辿り着いた。
亜音速だ。
超音速でもいけるが、その場合周囲に衝撃波を撒き散らすため自重した次第。
そこまで思案できても、だから何と思ってしまうのもミズキの悪癖ではあろうが、今回ばかりはどうにもこうにも。
「魔人か……っ!」
ソレも二体。
こうなるともう決定的だ。
誰かがルナティックと魔人化を使って麦の国に攻め入っている。
「まさか海の国じゃあるまいな」
そう思うと少し冷や汗が出る。
略式ながら軍人であるため謀反に問われても仕方ない状況だが、
「多分アイツだな」
一応犯人の目星はついている。
それはそれとして魔人への対処。
相手方の一体がミズキを見定めて、
「――鎌鼬――」
宣言を唱える。
「――術式拡散――」
ミズキも宣言。
吹き散らす。
「――雷撃――」
再度吹き散らす。
「この程度か」
魔性の風が吹く。
魔人が人へと戻る。
「ふ」
吐息。
口の中に残っているココアを噛みしめる。
「「「――――!」」」
喝采が上がった。
「さて」
では運命分解を……、
「待った」
と思ったところでミズキはガッされた。
目の前には金色の美少女。
「英雄になりなさいなミズキ」
「断る」
「記憶操作の魔術は使わせませんよ?」
「…………」
冷え冷えとした視線だったがアインは畏れ入らない。
「というわけで」
ニコリと破顔。
「英雄ミズキ様をもてなしましょう!」
王城はソレ一色になった。
元より一体でもどうしようもない魔人が倍化して現われたのだ。
冗談でも何でもなく、
「英雄」
は妥当な評価だった。
無論ミズキが納得するはずも無い。
事実は事実としても。
というか、
「魔人二体相手に有利を取るとは何事か?」
が騎士や兵士の通念だ。
暴走する魔力炉。
爆走する魔術式。
それらの合算が魔人だ。
一般人では目が合っただけで即死級。
いくら術式拡散とはいえ、
「魔人の魔力に抗えるキャパをどうやって手にしたか?」
それは興味の中心だ。
魔術に精通すれば誰もが思うこと。
「鍛錬と努力」
それがミズキの答え。
「嘘八百」
とは正にこの事だが、
「おお!」
と魔術師たちは恐れおののいた。
そも基本的な魔術使用の座標が違うのだ。
比べる方が間違っている。
ところで麦の国でもミズキの代名は術式拡散と相成るらしい。
後の先を取る。
というより相手方の攻撃の方向性を知る。
それ故に、
「まず防御」
がミズキの念頭にあった。
これは、
「不老不病不死」
があるため出来る戦術だが、それ故に風属性唯一の防御魔術……、
『術式拡散』
を多用する傾向にある。
「何だかなぁ」
と雪空に嘆息。
白く凍って大気に攪拌。
消え失せて熱エントロピーの演算通り。
「新年までには馬鹿騒ぎも終わらせる」
元々観光のために来たのだ。
何故麦の国で英雄扱いされねばならないのか。
残酷な天使の命題だった。
「創造神も意地が悪い」
そういうミズキこそ、
「ブーメラン」
と言えたろう。




