第16話 鉄壁砦のひみちゅ07
「ミラー砦をして鉄血砦と呼ばしめていたのは、カノンの存在のおかげです」
謙遜するように、
「にゃはは」
と苦笑いしながら。
「では今頃ミラー砦は……」
「上に下にの大混乱でしょうね」
やはり、カノンに、気負いは無い。
要するにミラー砦は、その戦力の中軸たる存在を失ったのだ。
一撃で軍隊の五割を殺傷無力化する、圧倒的アドバンテージ……そを指して『カノン』というのだと、ミズキとセロリと学院長は悟った。
さて、
「で、いい加減、戦力として砦に縛られるのも嫌だったんで、逃げてきたんです」
「どうやって?」
セロリが、意味の無い質問をする。
話をややこしくしたのだが、誰が損するわけでもないため、カノンはあっさり言った。
「グラス砦を奇襲で襲ってくるって言ってミラー砦を抜け出して、お供の兵隊を魔術で虐殺した後、海の国との国境を越えただけです」
「なるほど……」
殊に、虐殺について、思うところは無いらしかった。
あるいは、この場の全員が。
「だいたいミラー砦では、魔術の研究を禁止させられていたんですよ? そりゃ嫌にもなりますよ」
「まぁ威力増幅のワンオフ魔術を持ってりゃな……」
これはミズキ。
仮に強力なゼネラライズ魔術を覚え、それを数百倍まで威力を高められたら、誰の手の付けられようもない。
戦力として安定させるためには、あるいはカノンが反抗したときのセーフティとしては、有用な対策ではある。
「カノンは魔術の研鑽を行ないたいんです。そのためには魔術機関に所属するのが一番ですよね。で、ミラー砦から一番近い魔術機関は、海の国の王立国民学院でしょ?」
「麦の国の方に行こうとは考えないんだな」
「北に上るも南に下るもどうせ許可がもらえないんだから、『出兵』って形でミラー砦を抜け出せる南下の方が、効率はいいでしょう?」
「納得」
「そんなわけで亡命を受け入れてください。カノンは強いですよ。戦力になります。それから、出来れば魔術学院に所属させてもらって、魔術の研鑽をさせてもらえば、と」
「…………」
学院長は沈黙した。
それが沈思黙考であることは、三人とてわかっている。
「ふ」
吐息をつき、
「では学院長としてカノンを学院に迎えましょう」
「本当ですか?」
「二言はありません。ただし……」
「ただし?」
「王立国民学院は兵器としての魔術師を育成する場所です。である以上あなたには海の国の軍属になってもらいますがよろしいでしょうね?」
「こっちの都合に合わせてくれるなら海の国の戦力になるに吝かではないですけど……」
「ではそのように。研究室を一つ宛がいましょう。今からカノン……あなたは王立国民学院の特別顧問です」
「はーい」
気後れなく、のんびりとカノンは承諾した。
元よりミラー砦の戦力を支えていたのだ。
軍属になること自体は、カノンにとって今更だろう。
むしろ専守防衛主義の海の国には、戦争とは最後の交渉手段であるため、それ以外でカノンの戦力が必要でない必然……カノンの自由は保障されたようなものである。
「研究室まで宛がってくれるのは嬉しいですね」
「引き受ける以上、歓待はします。防衛の義務さえ忘れなければ、好きにしてくださって構いません。グリモワールを大量に所蔵している魔術図書館もありますから、そちらにも手配はしておきます」
「よろしく」
カノンは破顔した。
「ところで」
これは学院長。
「あなたの覚えているゼネラライズ魔術を教えてもらえますか?」
「火球と水流と鎌鼬と自己固定です」
一瞬の躊躇もなく、噛みもせず、カノンは言い切った。
それで不利にならないのが、カノンの能力ではあるのだ。
しかし、
「っ!」
「本当に……?」
「それはそれは……」
ミズキとセロリと学院長は驚愕していた。
火の属性であるゼネラライズ魔術……火球。
水の属性であるゼネラライズ魔術……水流。
風の属性であるゼネラライズ魔術……鎌鼬。
土の属性であるゼネラライズ魔術……自己固定。
つまりカノンは「自身が、基本四大属性である……火と水と風と土を全て使える」と申告したのだ。
他者が驚くのも無理はない。
「にゃはは」
気恥ずかしそうにカノンは笑う。
「とはいっても威力増幅があるから、それぞれの上位互換の魔術を上回る結果を生み出せるんですけどね~」
常軌を逸していたのは、ワンオフ魔術だけではなかったらしい。
「複合属性を含む、全八属性を極めるのが、カノンの目指すところです」
無茶に無茶を重ねる。
「そのために王立国民学院に転がり込んできたのですから」
「そうですか」
真っ先に我を取り戻したのは、学院長だった。
「研究室は宿舎としても機能します。書類上の整理は後追いの形で成しておきますから、とりあえず今日のところは不法占拠してください」
学院長は、机の引き出しから施錠用の鍵を取り出して、カノンに渡す。
「どうもです」
彼女は、あっさり受け取った。
「研究室への道すがら魔術図書館の位置も把握しておいてください。案内は……」
学院長はミズキとセロリを見る。
「この二人がしてくれます」
彼らにも、否やはなかった。




