第158話 光あれと申すなら影もあれと申す者03
「で、結局どうするので?」
「殴り殺す」
いっそ清々しいミズキだった。
というか他に手はあるまい。
ミズキの治癒なら魔人を人に戻せる。
そう思って術式拡散を起動させたまま間合いを詰めるミズキ。
かなり問答無用だが、そもそも彼とて面倒事に対処している時点でかなり破格な対応をしていると自虐もする。
相手方も真っ向勝負らしい。
「――疑似変化――」
薙刀を生みだす。
錬金術。
火属性の魔術の一部だ。
尤も、
「術式で固定している」
ため術式拡散の前では意味を為さないが。
それは別の術式もまた同じだった。
薙刀を振るって間合いを詰める。
その魔人が術式拡散の風に触れると一般人に早変わり。
およそ何の脈絡もなく術式拡散は魔神を無力化せしめたどころか、場の根本の解決すらもたらしたのだから。
「は……?」
「へ……?」
意味不明なミズキとアイン。
天然魔術で現象に昇華されている魔人に、
「術式拡散は効かないはず」
であるのだ。
が、結果は急いてご覧じろ。
全裸の青年が倒れているだけで魔人は分解され消えた。
背中に負っていた悪魔の翼も消えている。
「えーと……」
何と言って良いのやら。
「とりあえず連行」
そんなミズキの指示は多少なりとも適確だった。
中略。
「取り調べは?」
「終わりました」
「犯人は?」
「不起訴」
「何故?」
「何も覚えてないそうです」
「それはそれは」
魔人化の魔術。
当然ゼネラライズ魔術ではない。
天然魔術でも無い。
人間を魔人に変えるワンオフ魔術。
「最悪を想定するなら」
との前提を持てば必然の結論だ。
「こうなるとますます王侯貴族が怪しいな」
「ですね」
ミズキは皮肉ったのだがアインには通じなかった。
「…………」
白銀の光が真珠のソレを覗き込む。
「…………」
ギュッと抱きしめられた。
「ドライは優しいな」
「…………」
はにかまれる。
「となると魔人は俺かアインを狙ったことになるが……」
「恨みを買った覚えはありませんけどねぇ」
王族であるだけでしがらみは自縛だろう。
「むしろ俺を巻き込む意味が分からん」
率直なミズキの意見。
「政治ゲームなら勝手にやってろ」
が基本スタンスだ。
「またしても伝説が生まれましたね」
嬉しそうなアイン。
「魔人から王女殿下を守って差し上げたナイト」
目下そんなところ。
「魔術師として」
の範疇であるため運命分解は使わなかった。
「お前が仕切っているわけじゃ在るまいな?」
ミズキはアインに問う。
「何で自殺まがいを?」
「俺に守らせて周囲を説得」
「ついでに皇妃の相手方……と?」
「説明はつくな」
「ですよねー」
偶然の結果だが悪い話ではない。
あくまで王都民とアインに限れば。
「まさか魔人が人工的に創り出されるとは」
憂慮すべきは正に其処だろう。
魔術による魔人の量産。
ミズキとは別の意味で国家レベルの脅威だ。
なお魔人を操れるのだとしたら国家間戦争ですら勝てる技術である。
「その辺は聞けなかったのか?」
「前後の記憶が曖昧模糊とのことで」
「振り出しか」
ガックリと首を落とす。
「一つ……提案はあるのですけど……」
「何か?」
「私以外の王侯貴族を抹殺するというのはどうでしょう?」
「自分でやれ」
そこは譲れないらしかった。




