第154話 原因も結果もミズキ次第12
「…………」
ふと。
ミズキは夜に眼が覚めた。
ベッドから下りると、もこもこパジャマを着込んで客間に行く。
途中で夜間待機の侍女に声をかけてハーブティーを用意して貰う。
「月見酒……っていうか酒じゃないが」
曇天はぬぐい去られ、今夜は月と星が見えた。
魔術陣による暖房も完璧だ。
ぬくぬくと。
まったりと。
そんなことをしているとキィと蝶番が鳴いた。
扉がいそいそと開かれる。
どこか遠慮がち。
ヒョコッと顔を出したのはアイン。
金色の髪が印象的だ。
「お邪魔ですか?」
「いえ。喫茶しているだけだ。茶、飲むか?」
「ええと。では有り難く」
白い視線が侍女に行く。
それを汲み取ってリクエスト募集。
「よく眠れる様にハーブティーを」
承りました。
慇懃に一礼して侍女は茶を淹れる。
「起こしちまったか?」
ベッドを抜け出した件だ。
「まぁ」
ポヤッとアイン。
「結果として役得なので、それはそれで」
「夢想妄想空想の類だな」
「届かない恋を星に例える人がいるけど、それだと強姦は起きないよね」
「全く全く」
「とりあえずごめんなさい」
「何に対して」
「愚弟の不始末」
「お前の責任じゃ無いだろ」
「でも弟だし」
「大変だな王族って奴も」
「平民よりは気楽だけどね」
「そもそもあの誇大妄想癖は何処から来てんだ?」
「勇者の絵本」
「あー……」
海の国の王立国民学院では特に中等部の生徒が発症するため、他意無く『中等症』と呼ばれている。
「まぁあの調子なら王座には遠いがな」
「アレが仮面であれば逆に手強いですよ?」
「確かに」
苦笑。
基本的にミズキには責任のない領域だ。
「結局一連のテロは誰が誰を狙ってやっているんだろうな?」
「ツヴァイ?」
「だが第三子のドライも狙われたぞ」
アインが居なければ必然第二子のツヴァイになるのはまぁしょうがない。
「ではドライは……狙われましたね……」
「…………」
ミズキはハーブティーを飲んだ。
染み渡る熱と香り。
「お母様」
「否」
「理由は?」
「お前と一緒」
第一子アインが王位に相応しい。
それはミズキが麦の国の客分になっていることが逆説的証明だ。
「うーん」
「後は貴族だな」
「貴族……」
少し瞳孔が開くアイン。
「特に娘の居る貴族」
何故?
とは問わなかった。
明確だ。
「アインが死んでツヴァイを王位に就けられたら娘と籍を入れて権力レースは大逆転勝利と相成る」
しかもツヴァイの判断が明晰で無い分、その義理の父親になれば国家運営も自由自在だろう。
「何が楽しいんでしょうね?」
「知らんよ」
魔術適性があったため魔術師をやっているミズキだ。
王権神授説。
創造神の進行は確かに世界に根付いているが、
「プロパガンダだろ」
で、済む話でもある。
「…………」
茶を一口。
月を見る。
「お前はあまり権力に執着してないな」
「謀略の魔窟ですから」
実際に死ぬ寸前だったのだから無理もない。
短慮な人間。
例えばツヴァイ辺りが妥当か。
「王様を殺したら全てが手に入る」
と思っている時点で度しがたい。
が、その短慮さは別にツヴァイ固有のものではなく、一般人にも良く居る。
単純に見栄を張るだけで王様が出来るなら世の中はもう少し生き難い。
「ま、アレは例外だが」
「…………」
アインは震えていた。




