第153話 原因も結果もミズキ次第11
「とりあえず西方と東方は征服する!」
ツヴァイは言い切った。
「あそこら辺の国は強いぞ?」
「俺様の国の方が強い!」
事実ではある。
が、血気盛んに他国を刺激しても関税が高くなるだけである。
「とまぁツヴァイさんは仰っているが姉御としては?」
「もう少し歳を取ったら一歩下がって物事を見据えられる様になりますよ」
食事を終えてティータイム。
ハーブティーを飲みながら淡々とアイン。
「まるで俺様に王の器が無いみたいな言い方ですな!」
「無いしな」
「ええ」
「…………」
ミズキの納得に躊躇無く同意するアインとドライだった。
「姉様の様な消極的なお考えでは国家は繁栄しませんぞ!」
「だからとて八方に喧嘩を売るのも違うでしょう」
「必要経費です!」
「兵士の命もですか?」
「国家のために死ねるのですよ? 名誉ではないですか!」
「では名誉を得てから仰ってくださいな」
「む……」
「ここで食事をしながら国境紛争で死んでいく兵士たちを悼みもしない。それが王族というものです」
「だから卑屈になれと?」
「謙遜と言うべきでしょうね」
石橋を叩いて渡る。
「大陸全土を平定するのが王族の役目でしょう!」
「死者の命と釣り合わないと言っているんです」
「それを対価に大事を成し遂げられてこその慰安ではないでしょうか!」
「なぁ」
ここでミズキが割って入る。
「何か?」
「殺していいか?」
「構いませんが?」
アインは気負い無く言ってのけた。
「俺様を殺すのか!」
「その方が祖国のためっぽいし」
ツヴァイが王位に就けば、休戦協定なぞ平気の平左で無視するだろう。
別段ミズキに不利益が発生するわけではないが、仮に本格的な戦争に陥ればかしまし娘が戦場に立つ事に為る。
この際不敬は後刻のことと捉えられる。
「止めろ!」
「半分は嘘だ」
「もう半分は?」
「さてな」
ハーブティーを飲む。
「だいたい喧嘩に勝ってから誰に何を誇るつもりだ?」
「国民に! 国家の栄誉を!」
話にならない。
議論にすらならないのだ。
説得も馬鹿らしい。
「…………」
ドライは慣れているのか淡々と茶を楽しんでいた。
ツヴァイが激昂。
アインが諫める。
ドライは無視。
「だいたい何時もこんな感じなんだろうな」
互いにすれ違ってはいるものの、どこか空気として成立している。
血の為せる業か。
別の要因か。
さすがにミズキにも分からないが。
「そうだミズキ!」
「はいはい」
だいたいツヴァイへの対処は分かってきた。
八割がた聞き流す。
これに尽きる。
「宮廷魔術師になれ!」
「繰り言は老化の証拠だぞ?」
「まぁ聞け!」
――感嘆符無しで喋れないのか?
――そういう病気なのか?
「貴様を宮廷魔術師にして海の国を征服する! そして自治州と認めて差配をミズキに託す! これは良い考えだろう!」
――誰にとって?
が残り三人の感想。
「鷹が鳶を産んだって処か」
「中々言いますね」
「…………」
三者同一だった。
「何が不満だ!」
「あえて言うならお前の頭蓋の中身が」
本当に……ただそれだけ。
「っ!」
「…………」
抜剣しようとするツヴァイに手を差し出すミズキ。
「お前の抜剣と俺の宣言。どっちが早いか試してみるか?」
「……っ!」
先日で決着はついている。
彼我の戦力差は双方ともに把握していた。
「後悔しても知らないからな」
「典型的な悪役の台詞だな」
呆れを通り越していっそ尊崇に評できる。
豪華な客室。
その扉をバタンと不満のまま閉めて、怒り肩で歩き去って行くツヴァイ。
「麦の国の未来も暗いな」
「あまり考えない様にしています」
王族の言って良い言葉ではなかった。




