第150話 原因も結果もミズキ次第08
ミズキが選んだ場所は図書館だった。
館内では解散し、ミズキは一人グリモワールの書庫に顔を出す。
ゼネラライズ魔術についての魔導書を取り出してパラパラ捲る。
「……ふむ」
幾つか見たことの無い魔術はあったが、全体としては学院の魔導図書館と質は変わらない。
風属性は既に修得しているものばかりだ。
さすがに運命分解は載っていなかったが。
というか本に出来ないだろう。
それほど膨大な謳歌の量だ。
「あまり意味も無し……か」
パラパラと魔導書を捲りながら土産話を構築していく。
未知の謳歌はミズキには不要でもカノンには有用だ。
八属性を備えているカノンの目標は、
「ゼネラライズ魔術を網羅する」
その一点に集約される。
「人ありて神ありて。けれども人の神知ること能わず。ただ片鱗にのみ……」
人語の謳歌。
魔術として使うには神話言語の謳歌が必要になるが、ミズキが翻訳しても意味が無い。
つまり先述した土産話だ。
パラパラと本を捲りながら、
「――術式拡散――」
ミズキは魔術を励起した。
もはやミズキの代名詞となっている魔術だ。
爆砕。
熱波と衝撃が吹き散らされる。
術式拡散の前では無意味だが。
「狙いは俺かよ」
少し勘案したいことがあったため図書館を選び解散した。
敵の狙いを知るためだったがビンゴらしい。
「将を射んと欲すれば……か」
少なくともミズキが居る限りでは王族は安泰だ。
であれば突き崩すに、
「ミズキから」
は頷けるが、
「こんな純情少年に嫌がらせして何が楽しいんだか」
自分で言っていれば世話は無い。
また狂人が襲ってくるか?
そうは思ったが外れだった。
全身タイツに仮面を付けた悪趣味な人間。
計五人。
図書館と庭を隔てる壁が爆砕され、双方の衆人環視が此方を見てあんぐりと顎を地面に付けていた。
「南無三」
ミズキとしても分かりやすい形での襲撃は決して損ではない。
相手は毒ナイフを持っているが、
「だから何?」
程度の感想しか持ち合わせていない。
「ミズキ!」
「…………」
爆発音に察してアインとドライが集合した。
「邪魔」
サクリと言って手で追い払う。
「…………」
ドライがアインの袖を掴み、銀の瞳で語りかける。
曰く、
「離れよう。ミズキが困っている」
だ。
「愛してるぜドライ」
苦笑するミズキだった。
逃げる様な二人を背にして、ミズキは疑問を呈する。
「テロリストに聞いてもアレなんだが……」
「…………」
五人とも言葉を発しない。
「その全身タイツに仮面はお前らの制服なのか?」
薄手の生地で寒そうに見える。
ミズキの方はもこもこセーター。
それでも寒いのだから、
「暗殺者も大変だな」
と相成る。
「…………」
スッと間合いが無くなる。
加速は両方。
攻撃を加えたのはミズキだったが。
毒ナイフをひらりと避けて膝蹴り。
「――――」
苦悶の声を出す暗殺者に斟酌せず首筋を叩いて気絶させる。
取りこぼした毒ナイフを投擲して二人目を殺す。
「――太陽――」
不発に終わる。
ミズキは術式拡散を解いていなかった。
半径五十メートル以内は目下魔術の使用は不可能だ。
暗殺者もその程度は把握しただろう。
毒ナイフを振るってくる。
「どうしたものかね?」
叩きのめすのに然程の時間は要らなかった。
『太陽』
行く先々で襲ってきた魔術だ。
「つまりこいつらか?」
とは思うが、魔術師とテロリズムは相性が悪い。
パレードの奇蹟もそうだが、敵の真意が読めない。
王族を弑したいのか。
王位を簒奪したいのか。
それとも混乱を起こして国家を滞らせたいのか。
他国の使者か。
どれもありそうで、ありえなさそうでもある。
元より魔術師の絶対数が少ないのだ。
重宝されて然るべきで、テロリストに為らずとも食っていくに不足は無い。
「となると」
思想の問題か?
そんなところだろう。




