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第149話 原因も結果もミズキ次第07


 また暇する三人。


「えーと」だの「あーと」だのと幾つかの感動詞が紡がれた上で、まぁ出るだろう演出がミズキを襲う。


「相互理解を深めましょう」


 要するにデートだ。


 昼も頃合い。


 雪が積もっては溶けていく。


 その光景を見つつ……しかしミズキは頷くにしてもちょっとした労力を必要としていた。


「…………いいんだが」


 もこもこセーター。


 ジーンズを穿いているが、その下に布地のズボンを穿いている。


 総決を採ると、そのまま王都を出ることにした。


 王城そのものが広いので王都とも素っ気なく移動するには距離がある。


 もっとも懸念としてはこっちの事情よりあっちの事情だろう。


「いいのか?」


 ミズキには珍しい慎重論。


 ぶっちゃけ何があってもそこそこ対処できる自信は在るが、そもそもの話として体験する苦しさまで減らせるわけではない。


 毒が身体を廻った場合、肺や内臓から断末魔の悲鳴のような激痛が走る……と聞いたことが在るので、御本人にそんな体験が不可能であっても辛酸を舐めるのが他人ではそこまでフォローする筋合いもないのだ。


 あくまでミズキは海の国側である。


 しかし、


「いいんです」


 自覚があるのか……些か心許ない。


 それでも止めるのも野暮なので、アインとドライを連れてミズキは王都へとくり出した。


 およそ王女二人とのデートというと、それなりに目につく。


「アイン殿下だ」


「ドライ殿下……」


 こちらは尊崇の眼で見やられる。


 そこに、


「ミズキ様」


「ミズキ様よ……」


「ああ。尊い……」


「聞きました? パレードの奇蹟のこと……」


 と乙女の恋慕がベクトルで突き刺さる。


 色々と幻想を持たれているらしい。


「いいんだが」


 乙女に惚れられるのは慣れている。


 だからとて蔑ろにしていいモノでは無いが、他に対処のしようもなく、彼にも不思議なことにミズキという看板には何かしら魔性が宿っている側面が有った。


「とりあえず食事にしましょう」


「…………」


 アインが提案し、ドライが頷き、ミズキが問う。


「例えば?」


「海産物がお好きですよね?」


「そらまぁ海の国の納税者だからな」


「ではそちらの方が?」


「いや、異文化を楽しみたいな」


「ではカレーなぞどうでしょう?」


「カレー?」


「スパイスを多分に使った料理です」


「辛いのか?」


「調節できます」


「ふむ」


 と思案するふりだが、心根は決まっている。


「じゃあそうするか」


 そんなわけで視線を集めながら三人はカレー屋へ。


 席に座ると遠くのウェイトレスが緊張に固まっていた。


 不出来があったら首を飛ばせる客だ。


 それこそ一言在ればそれだけで店ごと地上から消滅するだろう。


「然程かね?」


 ボソッと呟いて、誰にも、目の前の二人にも聞かれていないことを確認し、そんな性根にちょっと彼の自己嫌悪。


「執務は無いのか?」


「王女にはありませんね」


「血税で食べるカレーか」


「ミズキはブレませんね」


「長所の一つだ」


 短所の一つでもある。


「ツヴァイは貴族んところを回ってるんだろ?」


「何を考えているんでしょうね?」


「…………」


 ドライはジトッとお品書きを見ていた。


 ミズキがお冷やを飲む。


「アイツもアイツで何企んでんだか」


 パレードの奇蹟。


『――アインとドライは狙われたがツヴァイは狙われなかった』


 そこに事実を加味すれば、


「あまりよろしくないな」


 性格の悪さを自認してしまうミズキ。


 ミズキとアインはレッドカレーを。


 ドライはグリーンカレーを。


 それぞれ頼んだ。


 震える店員の手元は見ないフリで、チップを重ね、赤色に輝くカレーなる料理に興味を移す。


 アグリと一口。


 多種多様なスパイスが口内で弾けた。


 コクのあるルー。


 米の安定感。


 ただの味付けの米料理とは一線を画す出来映えは口にするだけで至福だ。


 もっとも炊き込み御飯も彼は好きではある。


 この場合は優劣と言うより一回目の第一印象の差だろう。


「へぇ」


 賞賛に値する。


「美味いな」


「店を選んだ身としては一安心です」


 グッと店員にサムズアップ。


 サムズアップ返し。


「新年はどうするんだ?」


「新年祭ですね」


「新年祭?」


「お祭りです」


「だろうな」


 声に出しても他の解釈は難しい。


「神様に今年の感謝と新年への希望を祈るお祭りです」


「験担ぎか」


「神様はいらっしゃいますよ?」


「それは知っている」


 魔術師が生き証人だ。


 もともと世界運営委員ワールドマスターによって世界そのものに設定されている裏技を行使するのが魔術師の持つ手段の全てである。


「で、三日かけてお祭り騒ぎになるので、王都では今その準備中です」


「にゃる」


 街路を駆け回っていたお兄さん方の仕事を認識する。


 新年祭に向けて奔走しているのだろう。


 師走とはよく言ったモノで。


 ちなみにカレー屋の店内は落ち着いていて、聞いたことのない音楽が流れていて、ついでにその音源はよく分かっていない。


 クラシックだが、そこまでの教養をミズキは備えていない。


「にしてもコレ美味いな」


 ミズキはカレーをいたく気に入ったらしい。


「何でしたら王都の給仕に頼みましょうか?」


「間隔を置いてからな。毎日喰ったら有り難みが減っちまう」


 はぐはぐとカレーを食べる。


「それでこの後ですが……」


「ドライはどこか行きたいところはあるか?」


「…………」


 かぶりが振られる。


「じゃ、少し付き合え」


 そゆことになった。


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