第148話 原因も結果もミズキ次第06
「――疾駆――」
風属性のゼネラライズ魔術。
疾駆。
風圧による人外の加速。
宣言したのは騎士長。
速度は神速。
「ほう」
とミズキ。
脇腹を狙う様な拳。
掌底で受け止める。
「――疾駆――」
さらに宣言。
部分的に加速された風が蹴りを猛烈に強打させる。
ミズキは膝で受けた。
吹っ飛ばされる。
が、そこはミズキクオリティ。
空中で一回転。
弾き飛ばされ、壁に足を付けて、危うげなく体勢を整える。
落下。
足を地面に付けた。
「面白いなアンタ」
ミズキはケラケラ笑う。
疾駆の部分展開。
謳歌を弄ったのだろう。
中々の妙だ。
「ソレを苦にしない貴様が何者だって話なのだが……」
骨の一本も持っていくつもりだったのだろう。
「硬気功って技術があってな」
「こーきこー」
「肉体の勁を高め練ることで金剛の体を維持する。要するに肉体に於ける防御作用の律し方だ」
ミズキはあっさり言うが、それで魔術有りきの武闘を蔑ろにされれば言葉もあるまい。
「何者為るや?」
「王立国民学院二年生。ミズキと発します」
「聞かぬな」
「へっぽこなもので」
「貴君がか?」
「治癒魔術なんて戦争じゃ役に立たないし。怪我した人間助けるより死者が量産されて天高く積み上げられるのが戦争だろう?」
「否定はせんが……」
「治癒魔術はへっぽこの証だ。我が事ながら笑ってしまうがな」
「では仕切り直しと行こう」
「いざ」
「――疾駆――」
「――術式拡散――」
魔性の風が魔術を刈り取る。
一気に減速する騎士長。
「はい。御苦労」
「疾!」
手刀が襲う。
いなすミズキ。
「…………っ」
防御に回した腕を掴まれる。
「お?」
そのまま投げられる。
空中で姿勢を整えた。
着地まで二秒。
既に騎士長は襲いかかってきていた。
足が地に着かなければ踏み込みもままならない。
「仕方ない」
そんな様子。
「――疾駆――」
ミズキは加速した。
空中から。
斜め下方四十五度の直線を引いて跳び蹴りが騎士長に突き刺さる。
仮免ライダーの必殺技に似る。
此方の世界には無い概念だが。
それは騎士長の胸を叩いて吹っ飛ばした。
「さすが」
「…………!」
殿下たちは気楽そうだ。
「生きてるかおっさん?」
「これくらいなら何とでも」
「なら良かった」
スッと近寄って、
「――治癒――」
と宣言する。
怪我と痛みが引く。
「ほう」
感心。
「これが治癒……」
「へっぽこ魔術だ」
自嘲というか卑下というか。
「けれどもアイン殿下をお助け能うのは貴君だけであろ?」
「どうだかな」
プイッとそっぽを向く。
「とりあえず」
ミズキは言う。
「精進なさってくんせえ」
「良い運動になりましたか?」
「久しぶりに体を動かしたな」
軽快に肩を回す
「素晴らしいの一言ですね」
「人を害する技術は褒められたものじゃねえよ」
「では何故?」
「気に入らない奴を叩きのめすため」
憂慮一切無し。
ミズキにとっての暴力は概ねそんな感じ。




