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第146話 原因も結果もミズキ次第04


 空気が冷えた。


 余計な一言が兵士の矜持を強かに打つ。


「わお」


 とはアイン。


「ぐだぐだ言い訳して逃げるものかと」


「お前の扱いは何となく覚えた」


「と言いますと?」


「逆らうとしつこい」


「いい女ですよ? 浮気の心配なし」


 ボートの映る良い眺めになりそうだった。


 特にかしまし娘が知ったら。


 大凡倫理観に悖るのは魔術師の業だ。


 ミズキの場合は人様のことを言えない。


 ミラー砦を数分で消滅させたのだ。


 その砦に在駐していた数だけ人命があり、その数倍の遺族が背後に控えている。


 幾百倍のねずみ算で増える涙の数だけ不幸が在ったわけだが、だから自重しようとはとても思い付かないのも彼の図太さで。


「だから何だ」


 がミズキのスタンスだ。


 結果としてカノンを救えたので当人としては帳尻合わせ。


「で、ルールは?」


「木製の武器と防具。一対一の模擬戦。致死性の魔術禁止。こんなところですか?」


「いいんじゃないか?」


 ミズキはいつものもこもこセーターにジーンズ。


 木製の防具は一切着けず、武器も手にしない。


「ミズキが破れるまでの消耗戦を開始します」


 相対する兵士一人。


 武器も持って防具も纏っている。


「では一試合目開始」


 大きな声ではなかったが、自然と声は染み入った。


 この辺の技術は、


「さすが王族」


 とミズキの談。


 脱力。


「舐めてんのか?」


 兵士の眼がギラついている。


 メゾラゴン並み。


「体の動かし方って奴を教示してやるよ。胸を貸してやるからかかってこい」


 無論わざとだ。


 プライドの高い人間ほど慇懃無礼を嫌う。


 頭に血が上るとも言う。


 本人挑発は自認しているが、他者が受ける不快さ加減に付いてまでは予想の端にもひっかかっていなかった。


「よく言った!」


 踏み出し。


 構えは上段。


 であれば頭部か。


 あるいは肩か。


 加速。


 脱力してノーマライズなミズキに速度を出した木剣が振るわれる。


「届いた」


 そう思った兵士が多数。


 例外は居たが。


「『』は『』となり終には『』と為る」


 その第二段階。


 舞踊。


 踊る様な華麗さで兵士の側面を抜け背後へ。


「っ?」


 兵士には突然消えた様に見えただろう。


「何がっ」


「狼狽えている時間があるのか?」


 トンと手刀が首筋を叩く。


 夢の世界へさようなら。


「ほう」


 と騎士の一人。


 一般的な兵士に眼にはミズキが敵の横をスッと軽く歩いただけに見えただろう。


 要するに何かしらの不徳が敵にあって見逃した。


 そんな解釈。


 間違ってはいないが、レベルとしては数段上の御業だ。


「わお」


 アインは嬉しそうだ。


 ミズキに活躍無しに喜んでいる。


 ミズキの能力を理解している数名は名乗り出なかった。


 その能力の底。


 つまり全力のミズキが見たいが故だ。


 集まっている兵士たちは王属騎士を含めて五十人弱。


 城の警護に回っている兵士も多いため、訓練場としてはこれでも何時もより多い方だ。


 今は非常時。


 パレードの奇蹟のせいで王属騎士の矜持も傷つきナーバスになっている。


 そこにきてミズキというスパイスだ。


「計算してるんだか何なんだか」


 喜んでいるアインを見ながら、


「よくもまぁ」


 と呆れざるを得ない。


 格好良い王子様が格好良く戦う姿は乙女心に火を点けるのも已む無し。


「麦の国も末代かもな」


 ちょっと洒落にならない事を言う。


「次」


 叩きのめした兵士を放り投げて、次の兵士を相手する。


「疾!」


 どうしてドイツもコイツもオランダも。


 そう思わせる。


 速度は悪くない。


 兵士としての尊厳の範疇だ。


 あくまで、


「加速に距離が付随すれば」


 と注釈がつく。


 間合いが無ければ最速で剣を振り抜けないという時点で度しがたい。


 一瞬で最高速まで達せるミズキは相対する敵として最悪だ。


 そして良き教師でもある。


 四十数名叩きのめしたところで、


「ではそろそろわたくしが参りましょうか」


 一際鮮やかな鎧を着た騎士が名乗り出た。


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